【第1回】ファミリー: シャロン・テート殺人事件(草思社文庫)/エド・サンダース(著)
- 2017.11.25
- COLUMN FROM VISITOR
- LAヴァイス, インヒアレント・ヴァイス, エド・サンダース, サイエントロジー, ジョージ バーガー, チャールズ・マンソン, トマス・ピンチョン, ファッグス, ファミリー, ポール・トーマス・アンダーソン, マスター
チャールズ・マンソンが亡くなった。
というわけでチャールズ・マンソンに関して書かれた本『ファミリー』を紹介したい。
この連載コラムは音楽ファンにタメになる面白い音楽本を紹介しようと思っているのだが、記念すべき一回目がチャールズ・マンソンで先が思いやられそうで悲しい。チャールズ・マンソンはロック・ファンにとっては避けては通れない問題なので、紹介したい。
マリリン・マンソンかっこい名前である。「マリリン・モンローとチャールズ・マンソンはアメリカを象徴するキャラクターだからその名前をいただいた。」とマリリン・マンソンが言っていたが、僕もそう思う。
“世界を代表する女優と殺人教団のリーダーが一緒ってどういうこと?”とほとんどの人が思われると思うが、マリリン・モンローとチャールズ・マンソンは実はよく似ている。二人とも父親が誰か分からず、子供の頃は色んな家を転々としながら生活をした。二人はそうした家でそこの人の顔色をうかがいながら、その人に気に入られようと自分を変えながら生きてきた。この能力が一人をかわい子ちゃん女優から演技派女優に変え、人を服従させるセックス殺人教団を作った。
ロック・ファンがなぜチャールズ・マンソンを気にするかというと、それは60年代のヒッピーコミューンがどうして殺人教団になってしまったのかという疑問からだ。しかし『ファミリー』を読むとチャールズ・マンソンのコミューンは初めからただの犯罪組織だということが分かる。
僕は久々に『ファミリー』を読んで、この人たちというのは西部の時代から、いや昔からいるただの悪党集団なのだなということがよく理解できた。子供の頃はチャールズ・マンソンのコミューン、ファミリーはまだ神秘主義とかそういうものとかと関係しているのかなと思っていたのだが、大人になって神秘主義とか全部ないというのがよく分かったので、騙された人たちはかわいそうだなと思う。
『ファミリー』はファッグスという伝説のカルト・バンドのメンバー、平和運動の活動家、詩人、書店経営などでシーンを支えてきたエド・サンダースが書いていて、彼もこれを書いている時は神秘主義とか悪魔崇拝みたいなのを信じていて、『ファミリー』の最後ではこの取材をしていて、自分に身の危険を感じるようになってきたなどと書いていて、僕も怖いなと思ったりしていたのだが、この新しく文庫本になっているヴァージョンにはその部分がバッサリとカットされている。エド・サンダースもただの妄想だと思ったんでしょうね。
新版『ファミリー』でもまだ所々悪魔を崇拝している団体がアメリカの人里離れた場所で、犬を殺して、その血をすする儀式をしているなんて出てくるけど、そいつらがその儀式のおかげで神様になったり悪魔になったりして、超人的なパワーを手に入れて、不老不死になって、その秘密を暴こうとするものを呪い殺すとかそういうことは出来ないから、殺すとしたら、普通に目の前に現れて殺すだろう。そして、マンソンたちのように何がしかの証拠を残していつか警察に捕まるだろう。捕まらないかもしれないけど、それは怖いよね。
僕もチャールズ・マンソンを題材にしていたような作品を作ってきた元スロッピング・グリッスル、サイキックTVのジェネシス・P・オリッジと仕事をした時は洗脳されるんじゃないじゃとビビりながら仕事してましたけどね。でも、僕も50を過ぎてそんな神秘なこととかないというのはよく分かりましたよ。神秘がない方が恐くないですか?魂もあの世もないんですよ。死んだらそれで終わりなんです。あの世があるとか、神様がいるとか、悪魔がいるとかそんなの全部嘘ですよ。自分しかいない、自分が生まれて、死んでいくだけ。なんで生まれるのか、分からないです。なんで死ぬのか、分からないです。いや、分かっているのは生まれて死んでいくというだけ。なぜ生まれて死んでいくのか分からない、だから何をしてもいいじゃなく、分かっているのは生まれて死んでいくだけだから、その時間を大切に使う、人、自然を傷つけないように謙虚に生きて行くそれが人生なのだと。こういうのって仏教の教えですよね。
チャールズ・マンソンの時代に多くの若者がキリスト教に疑問を持ち仏教にハマったのってこういうことなんでしょう。
『ファミリー』久々に読んで、神秘の部分がカットされていて、いいハードボイルドの本を読んでいる感じがしました。映画にもなったトマス・ピンチョンの『LAヴァイス』を読んでいる感じがしました。トマス・ピンチョンの『LAヴァイス』は多分この本を下地にしてるんじゃないでしょうか。『LAヴァイス』を『インヒアレント・ヴァイス』というタイトルで映画化したポール・トーマス・アンダーソンといえば『インヒアレント・ヴァイス』の他にサイエントロジーというカルト宗教を題材にした映画『マスター』があります。ベックちゃんも洗脳されているサイエントロジーはチャールズ・マンソンにも影響を与えていたのです。ポール・トーマス・アンダーソンもこの辺に興味があるみたいですね。サイエントロジーまで話が広がると大変なことになるので、今回はこの辺で、次回はいいコミューンの話『クラス』の本を紹介したいです。時間ある方読んでおいてください。残念もう中古でしかないみたいですね。