<気分はどうだい?> Vol .7 ラジオからビーチ・ボーイズのあの曲が・・ text : Isao Matsui

前回はボブ・ディランの「風」について書いたのですが、今回は前回引用した村上春樹の「風」について書こうと思います。

「やあ、みんな元気かい?僕は最高にご機嫌に元気だよ。みんななにも半分分けてやりたいくらいだ。こちらはラジオN・E・B、おなじみ「ポップス・テレフォン・リクエスト」の時間だよ。これから9時までの素晴らしい土曜の夜の二時間、イカしたホット・チューンをガンガンかける。なつかしい曲、想い出の曲、楽しい曲、踊りだしたくなる曲、うんざりする曲、吐き気のする曲、何でもいいぜ、どんどん電話してくれ。」

<風の歌を聴け> 村上春樹(1979)

映画「風の歌を聴け」<糸川燿史写真集 「ジェイズ・バーのメモワール」より > 

以前、コラムにも少し触れたのですが、この小説に出てくるモデルとなった放送局は現在神戸ハーバーランドにある<ラジオ関西>なのです。そして僕は今この<ラジオ関西>で全曲アナログ・レコード使用の3時間の音楽番組(春から1時間増えたのです)のディレクターを担当していて今年の春で5年目に突入しています。洋楽のリクエストが中心で、最近はラジオを知らない若い世代のリスナーも増えてきましたが、大半はラジオ世代、その中でもいわゆるビートルズ世代(団塊の世代)前後のリスナーが多いように思います。中には、小説に出てきた電話リクエストにリアルタイムでリクエストをしていた人もいます。僕も当時この番組(小説のタイトルとは違いましたが)のリスナーで、友人の女の子の誕生日にリクエストをしたことを覚えています。何の曲をリスエストしたのか、それがかかったのかどうかの記憶は定かではないのですが・・そのためか、現在もこの番組を進行していて、たまに当時にフラッシュバックするというか、妙なデジャヴな感覚になるときがあります。かけているLPレコード、シングル盤(ドーナッツ盤)は当時のものなのです。ビートルズなども52年前のその現物をかけているわけで、当時、僕が13歳の頃に聴いていたあのトランジスターラジオの小さなスピーカーから流れてきた音ということになります。高校時代まで芦屋、神戸で過ごした村上春樹氏。この小説に出てくる臨場感が僕にはとてもシンクロし、内容も凄くリアルな現実感があるのです。春樹氏とは同年代で、高校、大学時代に遊んでいたエリアも同じなのです。当時<ラジオ関西>は、震災があるまでは須磨の海岸沿いにあり、学生の頃、そして仕事でも何度も行きました。人生の後半において今もこのラジオ局で仕事をしていること、素晴らしいことだといつも思っています。

糸川燿史、ボブ・ディラン・・(At Itokawa Studio 05/15/2018

大森一樹監督によって映画化された「風の歌を聴け」は81年12月にATG(にほんアート・シアター・ギルド)にて公開されました。当時、僕は大阪梅田にあった映画館で観たのですが、久しぶりにDVDで観るとそこにはやはり懐かしい震災前の神戸、阪神間の風景があります。原作の時代背景は1970年の8月8日から8月26日までの物語。千里の丘陵ではまだ70年万博が行なわれていた頃です。JR三宮駅前、元町商店街とヤマハ楽器店、神戸高校、神戸女学院、六甲教会、芦屋市民プール、芦屋クリスボン、芦屋浜、異人館通りと異人館、北野のマンション、メリケン波止場、旧甲子園ホテル、西宮球場など。映画のロケは80年初頭。村上春樹のデビュー直後であり、同世代である大森一樹監督もまだ若く、映画として凄く新鮮な表現、映像がそこにはあります。僕は当時、現在もプロで活躍している堀内孝雄とアマチュアのバンドを組んでいたのですが、メインで活動していたのが神戸なのです。現在の神戸国際ホール、そして芦屋のルナ・ホールなどもレギュラーの活動場所で、それらがズバリこの時期だったのです。今回、この映画の写真をお借りする為、スティールを担当されていたカメラマン、糸川燿史氏のスタジオに行きいろんな話を聞きました。これらは写真集<ジェイズ・バーのメモワール―映画「風の歌を聴け」よりー糸川燿史写真集>として81年に出版されたのですが現在は絶版で、高額になっています。写真集は撮影現場など、いわゆる映画のスティールで構成され素晴らしい写真ばかりです。そのうち手に入れようとは思っているのですが・・そしてその時の京阪神ロケの貴重な面白い話を一杯聞かせてもらいました。

さらに村上春樹に関しては別のつながりもあるのです。僕が東京時代にいた事務所の社長(元日本コロムビアのプロデューサーで88年に村上春樹<ノルウエイの森>の企画アルバムをリリース、これはイメージ・アルバムの先駆けとなり、ベストセラーになります)が村上春樹に関する本を過去にも上梓しているのですが、2008年にまた新しく村上春樹の本を書くとのことで神戸に来られた時、彼が卒業した神戸高校や元町商店街など関係のある場所を淡々と歩き回りました。後日それは「僕は村上春樹と旅をした」(飯塚恆雄)というタイトルで愛育社から発売されました。内容は村上春樹の小説に登場する場所をもう一度訪ね、それを独自の切り口での追想でまとめたもので、素晴らしい紀行文となっています。昔から(今でもそうなのですが)何故か僕の周りには村上春樹主義者が多いのです。

小説<風の歌を聴け>の中のラジオ番組のくだりで、主人公あてに来たリクエストが誰のリクエストなのかを問うシーンがあります。

「リクエスト曲はビーチ・ボーイズの<カリフォルニア・ガールズ>、なつかしい曲だね。どうだい、これで見当はついた?」

ビーチ・ボーイズのこの曲がリクエストできたら今だにドキドキするのです。39年前の小説の中での出来事が、今やってるラジオ番組に繋がる時間の流れ。それは音に刷り込まれた時の記憶……….いつでもそこに戻れるのです。

“ I wish they all could be California girls “

*California Girls / the Beach Boys(1965 )