BOTANICAL HOUSE VOL.2 開催間近! ~今、京都で音楽を楽しむこと
古くは村八分や初期の裸のラリーズ、ローザ・ルクセンブルク、そしてくるり……。古都と学生街という二つの顔を持つ京都の土地柄は、そんな一筋縄ではいかないアーティストを長きにわたって生み出し続けてきた。そして特にここ数年、Homecomingsや台風クラブをはじめとする個性的なニューカマーが矢継ぎ早に現れたことで、音楽の街・京都はふたたび若い世代を中心とした盛り上がりを見せている。
そんな今の京都で新たに生で音楽を楽しむ定期イベント《Botanical House》が今年2月からスタートしている。これは、今の京都の活況を間近で発信し続けている音楽ライター岡村詩野氏とSMASH WESTが共同で企画するシリーズ・ギグ。場所は京都《磔磔》。古い酒蔵をそのまま利用したしつらえのあの老舗ライヴ・ハウスのステージ背後にあって、数多のミュージシャンを見守ってきた蔦にちなんで名付けられたこのイベントは、いよいよ明後日6月23日の開催で2回目の開催となる。
その第1回目の様子は今振り返ってもホットだった。2月20日に行われたそのVol.1に出演したのは、中川敬+リクオ、吉田省念BAND、台風クラブ、という世代を超えたオール京都なミュージシャンたち。初めてリクオや中川敬を観るような若い世代から、逆に台風クラブって名前はよく聞くなあ、といった感じの方々まで幅広い年代の観客が集まったが、驚いたのは、そこに集まったオーディエンスがみなその場を共有することと喜びながら、暖かい雰囲気を作りあげていたことだった。
トップに登場したのは台風クラブ。そのタイトながらも少しくだけた、肩肘張らないグルーヴにジワジワと場が温まっていく。磔磔の雰囲気にもピッタリ合う台風クラブの雰囲気に、リクオや中川敬目当てでやってきたようなファンもすっかり彼らの虜になっていたようだ。台風クラブの代表曲「42号線」にリクオが飛び入りしてセッションする場面では、大先輩に胸を借りるメンバー3人の、ちょっと緊張しつつも楽しそうな表情が印象に残った。
台風クラブ。石塚、山本、伊奈は現代最高の3ピース・バンドだ!
続いて登場してきた吉田省念は小粋といった言葉がピッタリのステージを披露。ムーズムズのYatchiと渡辺智之、Turntable filmsの谷健人という、こちらもオール京都なメンバーを従えた今の吉田省念はおそらく彼のキャリアの中でも過去最高と言っていいほど充実している。フォーキーだけど洒脱でモダンな吉田の曲からは、ちょっとブラジル音楽やソウルの要素もチラリ。途中、くるりのメンバーだった時代を経て、自分の歌をしっかり追求する吉田のアーティスト・シップの高さを実感できた。
吉田省念バンド。小粋という言葉がこれほど似合う存在もいない。
そして、トリをつとめた中川敬とリクオが「踊れ!踊らされる前に」や「僕らのパレード」といった互いの曲たちにコーラスを重ね合う、その響きの陽気さ、力強さたるや! この日は椅子席がすっかり埋まる盛況だったが、そこに座って観ていたオーディエンスも待ってましたとばかりに大きく体を揺らせる。ふと見ると、フロアにはビール片手にすっかりホロ酔いになった台風クラブのヴォーカル/ギター、石塚淳の笑顔溢れる姿も。お客さんの顔を見ようとピアノの椅子からしきりに振り返ってはフロアに歌いかけるリクオや、いつものジョークを交えたトークも軽妙な中川敬も、磔磔はホームグラウンドのような場所だが、この日ばかりはいつも以上に楽しんでいるようだった。
リクオ+中川敬。さすが、オーディエンスの心を掴むのがうまい!
アンコールでは出演者全員がステージにあがって聴かせてくれた「デイ・ドリーム・ビリーバー」。観客のシンガロングも一体となって木造の壁や柱に響いたその歌声は、磔磔創業の70年代から今にわたって深く息づく関西のロックとフォークの情熱に満ちていた。 京都は昔も今も音楽の発火点。《BOTANICAL HOUSE VOL.1》はそんな京都の歴史の現在、過去、未来をつなぐイベントなのだ。
アンコールでは出演者たちでセッション。京都の歴史の深さを痛感する一幕だった。
そんな《BOTANICAL HOUSE》のVol.2は、Vol.1以上に賑やかなラインナップとなっている。まず、大阪拠点のレーベル《こんがりおんがく》代表の一人として《こんがり音楽祭》ほか、様々なライブやフェスを盛り上げてきた森雄大を中心とするneco眠る。そしてあらゆる音楽ジャンルを咀嚼して進化する京都の摩訶不思議なロック・バンドの本日休演。さらにオール関西で揃った前回から一転、今回は東京より今をときめくnever young beachのヴォーカル/ギターの安部勇磨をソロで迎える。意外なようにみえて、安部はneco眠る、本日休演とも仲良し。昨年9月にリリースされたneco眠るの7inchシングル「SAYONARA SUMMER / ひねくれたいの」にヴォーカルと作詞で参加したり、本日休演もnever young beachと対バン経験があるなどつながりは深い。もしかすると今回もステージでサプライズが期待できるかもしれない。京都だけではなく、他のエリア、東京へ…と広がりを見せる現在の音楽シーンの一角を感じ取ることができそうだ。
きっとこれからも、東京とは違った形で受け継がれてきた京都の音楽の血脈を、時には遡り、時には未来へと下り、時には他の地域ともゆったり繋げあうような、そんな素敵な場となっていくに違いない《BOTANICAL HOUSE》。第2回目も楽しみにしていたい。(吉田紗柚季)
6月23日(土)BOTANICAL HOUSE Vol.2
京都 磔磔
start 17:00 (open 16:00)
前売・予約 2500円(別途1drink)
【出演】
安部勇磨 (never young beach)/neco眠る/本日休演