外の号外Vol.7  イギリス・ツアーのこと

坂本龍一氏がキュレーターを務めるイベントシリーズ「MODE」(http://33-33.co/mode/)より招聘を受け、空間現代は6/18〜25にかけてイギリスツアーに行ってきました。

イギリスに訪れるのは昨年末に行われた吉増剛造氏との欧州ツアーに続いて2回目。今回は「MODE」を主催したロンドン拠点のプロモーターThirty Three Thirty Three (33-33)と、同じく招聘を受けてツアーを行なっていたgoatの協力を仰ぎ、空間現代は合計4都市でライブを行う事ができました。ラムズゲート、マンチェスター、ブリストル、ロンドン。

その内3都市ではgoatと共演。彼らとはレーベルメイトでもあり、リーダーの日野くん(YPY)は何度も「外」に出演してもらっている良き友人でもあるので、海外で共演する事はとても感慨深く、また沢山の刺激をもらいました。(goatには今回、ツアーアレンジや機材のシェアなど様々な形で協力してもらい本当に助かりました。この場をお借りして・・・goatチームの皆さん本当にありがとう。)

彼らはこの数年間、海外ツアーをとても精力的に行なっており、そして着実に大きな評価を得つつあります。それが伝わってくる現場の熱を体験できた事が単純に嬉しく、また励みにもなりました。

よく考えると、世代も音楽性も近しい日本のバンドが海外で演奏する姿を見るのは今回が初めて。これまでの単独ツアーでは、演者としてステージ側からお客さんの熱を感じ取ることはできても、今回の様に客席側でそれを感じ取る事は出来ません。だからだと思うのですが、今回のツアーでは海外で演奏するという事について、改めて考えさせられたような気がします。

「空間現代は海外でやった方がウケると思う」と、たまに言われる事があります。しかし、それは一体どういう事なのでしょう。私としてもまだ分かりきっていませんが、もしかしたらそうなのかも、と思う気持ちは確かにあります。でも、なんで日本ではダメだと思うのだろう。私も、あなたも。

ラムズゲート。閑静で上品な港町、上空にはかもめが飛び交っている。糞を落とされた。そんな報告を日野くんから受けつつ笑顔で握手を交わすところから、その晩のライブの仕込み作業へとなだれ込む。

会場は「Music hall」というライブハウスで、キャパシティは80〜100人くらい。1階の入り口を通るとすぐにライブフロアがあり、2階にバー、地下にトイレと楽屋。ライブフロアの壁には「おしゃべりはバーで」のような意味合いの文言がポップに描かれており、ほのかなストイックさがいい感じ。実際、ライブが始まるとお客さんは皆集中して聴き入っていた。もちろん曲間や終わった際などは歓声がワッと出て、メリハリのある反応。

興味深いのは、入り口のドアが開いている事。私たちが運営する「外」では必ずドアを閉めるようにしている。日本ではごく当たり前の風景がここにはなかった。フルオープンのドア。当然、閑静な港町に音が響き渡る。いつも神経質にドアを閉めている身からすると考えられない状況だった。もしかしたら住んでいる人があまり居ないエリアなのかもしれないが、住居らしき建物はあるといえばあるし、一体どういう事なのだろう。

終演後に酒を交わしつつ日野くんに今回の楽曲についての話を訊ねてみると、今回のセット(昨年大阪のコンパスで行われたライブセットと大体同じだと思われる)は通過点の一つとして捉えていて、今後の展望をしっかりと見据えている様子。私は彼らの次なるステップに期待を寄せる。それくらいの構想と覚悟が彼からほのかに伝わってきた。

マンチェスター。今回のツアーの移動手段は車だった。国際免許を取ったメンバー2名による運転でイギリス国内を巡る。この日は渋滞につかまり到着予定時刻には間に合わず。別ルートを辿るgoat一行もどうやら渋滞をくらっていたらしく、ほぼ同時刻に到着した。会場は「White hotel」、名前とは裏腹に倉庫のような店構えだった。

早速会場のスタッフの皆さんと挨拶を交わすと、少しは聞き取れるはずの英語がほとんど聞き取れないことに驚く。カタカナ英語が染み付いた自分は、訛り(と言ってよいのでしょうか)のある流暢な(本当にどこからどこまでが単語かわからず)言葉にたじたじだった。

オープンすると会場内はスモークマシンがこれでもかというくらい煙を出しまくり、怪しげな雰囲気に。しかし客席に目をやると、落ち着いた感じのお客さん達がテーブルを囲み、お酒を上品に嗜んでいる様子。おかわりの注文を席までとりにいく女性スタッフまでいて、少しレストランのような雰囲気もある。なんとも絶妙なバランスで成り立っている会場だった。終演後はライブに感激してくれたスタッフ(ほとんど全員)が声をかけてくれる。完全な理解はできずとも、次々と吐き出される言葉のグルーヴに胸を打たれる。

宿はgoatと同室。Airbnb、リビングキッチンと個室が2つある大部屋で合宿。話は絶えないが、次第に一人また一人と寝ていって夜が終わる。翌日、近所のカフェでイングリッシュ・ブレックファストをテイクアウトし、日本人の口には合わない味を堪能してからgoatとまた暫しの別れ。

ブリストル。会場の名前は「old england」、まだ明るい内からじいさん連中が呑んだくれるパブだった。1階にバーカウンターと地続きで区切りなしのライブエリア、2階にビリヤード台とテラス席と楽屋。どうやら2階に住み込みのスタッフも居るようだった。楽屋で休んでいると、その住み込みスタッフらしき彼が突如扉を開け、めちゃくちゃハイテンションなエアギターを勝手に披露し始めた。ここは外国だということを痛感する。
サウンドチェック。簡易的な音響設備に見えたが音を出してみるとしっかりしてて、流石と思う。リハを終えた後、メンバーの一人がじいさんに絡まれている。どうしたの。リハ聴いただけでお前たちがいいのが判ったからCD買う、と言われた。素敵。けれど、きっとじいさんは本番みないまま帰った。

夜11時に本番、すっかり酔いが回ったお客さんたちがものすごい盛り上げてくれる。昨年のブリストルでのライブにも来ていたというお客さんが数人。気分もよく、打ち上がりたいところだったがとにかく明日の出発が早いので早々と宿へ。

ロンドン。この日はハックニーという駅近くの「Oslo」という会場だった。その近くにある小さい広場にジャークチキンとカレーのランチセットを出す屋台があったので、そこでBGMのレゲエを聞きながら食べていると、路上で初老のヒップホッパーがラップを始める。誰も聴いていなかった。

楽屋には出演者用に缶ビールと水が冷蔵庫にぎっしり用意されてあって、夕飯も振る舞ってくれた。1階がレストラン(ライブエリアは2階)をやっている店なので夕飯も美味しそう。しかし自分はジャークチキンをさっき食べてしまったばかりなので食べられなかった。
今回まわった会場の中では一番広い会場だった。キャパは400くらいだと思う。それでも最終的には熱気を感じる程の人数が入っていた。自分たちのライブでは、今まで繰り返し何度もやってきた楽曲の最中、初めてのタイミングで歓声が上がる。何かが伝わったと思えた瞬間だった。こうしたやりとりで楽曲の可能性を改めて再認識できるのは、海外ツアーの醍醐味の一つかもしれない。

ちなみにこの日のイベントの雰囲気は以下の記事がとても丁寧に伝えてくれているので是非こちらも。

https://jp.residentadvisor.net/reviews/22663/

人は海外に来ると楽しい。やたらと旅行に行きたがる。でも、多分日本がダメだから、という訳ではなさそうだ。本当にダメだと思う人は旅行というよりも移住を考え始めているだろう。それに、ダメだと思わなくとも移住する人だっている。

一方で、いざ移住してみると思った通りにはいかないという話も聞く。ある音楽家からは、ツアーで回っていた時よりも住んでからの方がお客さんが減ったという話を聞いたことがある。また、音楽家でなくとも、住んでみるとこんな街大したことないよという人もいるだろう。たまに、だからよいのだろうか。

少し足を伸ばして来た人に対して、地元の人は親切に接してくれる。「外」に遠くから来てくれたアーティストに対しても、自然とそうなる。だから、みんな知らぬ間に距離を共有している。京都と東京の、あるいは日本とイギリスの。そして、その距離を含め聴きにきたお客さんの反応が、その場の印象を彩る。おもてなしの威力をなめてはいけない。豊かな楽屋も、企画者からの熱意ある感想も、初めてのタイミングで上がる歓声も、また来たいと思わせられる最高の記憶として演奏家の心に残る。

けれど、それは互いに距離があるからこそ生まれる感動なのかもしれない。希少性、と言い換えてもよいだろう。現にそこに惹かれてイベントへと足を運ぶ人は多い。この事について考えていくと、日本がダメなのか、海外ならよいのかという問いかけは無効化されていく様な気もする。しかし、日本にはない土壌が他国にあるのは当然だと思うし、その国だからこそ火がつく様なものだってあるだろう。もちろん、他国だからこそ初めて試せる/試されるような事だってあると思う。

ある人から、空間現代が海外でやった方がよい理由の一つとして「厳しい視線にさらされるべきだから」と言われた事がある。この言葉にはハッとさせられた。確かにそうだと思った。

東京から拠点を京都に移し、海外ツアーに毎年行くようになってからは距離と土地柄の事についてよく考える。移動が増えたからだと思う。ならば何故、決して楽とは言えない距離を自分は移動する事ができるのだろう。ウケると思うからやってる?その通り。だがそれだけでもないと思うのだ。

きっと、どちらかがダメでどちらかがいいという考え方ではなくて、互いにある距離や差異を包括し、それらをむしろうまく乗りこなしていく様な考え方に興味があるのだろう。だからこれからも積極的に移動していこうと思う。そして、厳しい視線にさらされた経験を京都に持ち帰り、音楽の制作と「外」の運営に何らかのフィードバックができればよいと思っている。

 

そんな空間現代は現在新しいアルバムを作っている。海外のレーベルからの依頼で、全て新曲のアルバムをリリースするべく、しゃにむに作曲し続ける夏を過ごしている。試す/試されることが何なのか、まだうまく言葉にはできないけれど、そういうこともなんとなく念頭に置きながら制作に取り組んでいる。そのおかげかはわからないが、既に今までにはないテイストの楽曲ができつつある。その成果の一部を少しずつお見せすべく、やっぱり毎月ライブを(シリーズものとして)やることになった。いつも通り「外」で、20:00から。希少性は薄れる一方かもしれないが、海外ツアーなどを経て内部に溜め込んだ距離を、経験を、少しでも多くの観客の皆さんと共有できたらと思っている。そのやりとりがまた楽曲の可能性を引き出し、日本と海外と両方それぞれの厳しい視線にさらされるようになればよいと思う。

空間現代 野口順哉

イベントスケジュール

8月23日(木)- 24日(金)

空間現代 LIVE SERIES

開場 19:30 開演 20:00

予約 2,000円
*当日券は+500円

http://soto-kyoto.jp/event/1807-09/

7月より、外では主宰の空間現代が新作アルバム制作期間へ突入。
その過程を披露する連続したワンマンライブを敢行します。
作られたばかりの新曲群を演奏、改変していくライブシリーズ。
変化の道中をぜひ目撃しにいらしてください。
リリースの詳細も追って発表予定です。

9月14日(金)- 16日(日)

《外2周年記念公演》

「インター」

ヂナルヅム
空間現代

開場 19:30 開演 20:00

予約 2,500円
当日 3,000円
*学生証提示で予約・当日ともに2,000円

9月に2周年を迎える「外」にて、
空間現代とヂナルヅムによる2マン公演が3日間に渡って開催決定。

ヂナルヅムは、大阪に拠点「ンチチビル」を構えるドラムデュオ。
昨年まではダダリズムという名義で活動、
現在では七円体とヂナルヅム という2つの名義を(使用楽器/作品によって)使い分け、
以前にも増してその活動の幅を広げています。

七円体は7月に異形のシンバルセットを用いた素晴らしい演奏を外で披露してくれたばかりですが、
今回は待望のドラムセットによる新曲をヂナルヅム名義で演奏。
改名以後初のドラムセット新作、今回の公演が初演となるそうです。

空間現代は、7月より改変を加えながら演奏され続けてきた
新アルバムの為の新曲群、その最新形を披露します。

全く異なる角度から、しかし根源的にはどこか同じようなものを見据える2組。
両者の間に浮かび上がるもの、それらが今後どのような像を結ぶことになっていくのでしょうか。
形のない、しかし確かに在るその音像に耳を澄ませる3日間。是非お立ち会い下さい!