特殊音楽の世界9「即興って深刻に聴かなくてもいい」

今回は、ちょっと昔の話になってしまいます。

みなさん、即興とか前衛音楽(と言われるもの)は深刻でなんか難しいこと考えてしかめっ面した人しか聴いてないような印象を持ってる方が多いと思います。今では信じられないけど深刻ぶって聴かないと怒る人もいたくらいです。

難しく考えたり深刻になったり、そんなもんじゃないもっと単純に「カッコイイ〜」と思えるもんだ、と思って80年代からいろんな来日ミュージシャンのライヴを主催してました。

でも集客にはつながらず苦戦ばかりしてましたね。「シーン」を作ることの難しさを痛感してました。

それが90年代に入りクラブカルチャーが確定すると、フリー・ジャズや現代音楽がDJによってフロアに流れ、それを「単純」に楽しむ観客を見て「これだ。」と思いました。

それで90年のデヴィッド・モス+大友良英の大阪公演を、期間限定で開業していた大阪のクラブで行いました。それほど大きな集客には結びつかなかったけど今までの渋い顔したお客さんとは明らかに違う客層をつかむことができたと思いました。

そのデヴィッド・モス。今はドラムをあんまり叩いてなくてヴォイスのみをやってるみたいですが、ちょっと昔のドラム+ヴォイスの動画がこれです。

最近のヴォイス・パフォーマンスがこれ。

91年にはユージン・チャドボーンの対バンをUFO or Die (山塚アイ、ヨシミ、林直人—3人とも当時の名前表記です)にお願いしました。

だってユージンってこんなんですから。

難しいこと考えてたらついていけないですよね。

その時のUFO or Dieも最高でその時の動画も残ってるのですがオフィシャルかどうか不明なのでここではリンクを貼りません。探せばすぐにわかります。

 

一番面白いことになったのは94年のジョン・ローズ+大友良英の大阪公演の対バンに山本精一の「水道メガネ殺人事件」をお願いした時ですね。

ジョン・ローズはヴァイオリン奏者ですが、裏面にギターの弦を張ったり、自転車の前輪の左右に二丁の ヴァイオリンを固定して、タイヤの外側に輪状の弓を設置し自転車が走るとヴァイオリン弾かれる仕組みを作ったり、「弦」があるものならなんでも演奏するような音楽家です。もちろん普通にヴァイオリンの技量も高いですが。

彼の自動演奏ヴァイオリン装置がこれです。

水道メガネ殺人事件は、もうご存知の方も多いと思いますが、山本精一の「自称」ミュージカル。スカムの極みのような演目で、わけのわからない、しかしなんか面白く説明不能な様々なことが連続的に起こります。

主催した自分も「これをインプロの対バンに選んだのはいくらなんでも思い切りすぎたか?」と思いましたが、思いの外ジョンが大喜び。

大喜びどころか以後の彼の活動に影響を与えたらしいです。以後全くやることが違ってきたそうなので。

このツアー後にジョンは「水道メガネ殺人事件」に影響を受けた「叩き売り」というCDを大友良英と巻上公一達と作っています。これ、明らかに水道メガネを意識したものなんです。今は入手困難ですがどこかで見かけたら一度聞いて見てください。

 

こういう「深刻」でも「小難しく」もなく「しかめっ面」では聴けない、単純に「スゲェ〜」「カッコいい〜」と聴けるような場所や対バンでやっていきたいと90年代は考えていました。それが実現できたかどうかは微妙なんですが。今世紀になってもちろん状況も変わってるので前世紀のようなことは考えてはいません。でも難しく考えることも深刻に聴くことも時には必要ですが、単純に面白がる力の強さはまだまだあると思うのでそれは大事にしたいと思います。

 

 

F.M.N.石橋

:レーベル、企画を行うF.M.N.SoundFactory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82~88年まで京大西部講堂に居住。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。