第11回 ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実 ジェフ・エメリック&ハワード・マッセイ(著)

ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実 ジェフ・エメリック&ハワード・マッセイ(著)
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 音楽本を紹介しているコラムです。音楽好きなら絶対満足できる本を紹介しようと努力しております。今回の本はそんな音楽本の中で一、二の面白さです。前回は元ビートルズのポール・マッカートニーの伝記を紹介させてもらったのですが、その続きということで、ビートルズのエンジニアをしていたジェフ・エメリックの『ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実』です。ビートルズというバンドは、音楽だけではなく、関連書も面白い、不思議なバンドです。

 

音楽バイオ本の決定版と言っていいのが、ハンター・ディヴィスの「ビートルズ」です。基本の基のこの本もいつか紹介したいと思うのですが、ビートルズが続いても仕方がないので、ビートルズ関係は今回で打ち切りにしますが、でもハンター・ディヴィスの「ビートルズ」について一言言わさせください。公認バイオなんて、絶対面白くない、しかもアイドル的な人気を得ていたバンドの公認バイオなんてとるに足らないものと普通思うじゃないですか、僕もずっとそう思って読まないでいました。でもある日なんとなく手にとって読んでみたら、その正直さにびっくりしました。

 

ハンター・ディヴィスが一所懸命4人と関係者に接しながら、なぜ彼らが偉大なバンドとなったのかというのを、分からないなりに解明しようとする名著だったのです。ジョン・レノンの「ビートルズがなぜ売れたか分かったら、俺は今マネジャーになってるぜ」という名言がありますが、なぜビートルズが偉大なのか誰も分かりません。でもこの著を読んでいるとなんか自分もバンドやりたくなるなという気にさせてくれるのです。バンドマンの人は絶対読むべき本です。

 

唯一残念な部分はビートルズとドラッグの問題です。4人はドラッグについても隠す気はなく、色んな考えを喋ったそうですが、あの本が初めて出版された69年はロックの世界ではドラッグは当たり前のことになっていましたが、まだ彼らの親の世代にとってドラッグとは犯罪、反社会的なものでしかなかったので、彼らの親や親戚が彼らのドラッグに対する考えを読むと不快な思いをするかもしれないので、そこは配慮したそうです。ゴシップではない、彼らの正直な感想が記録されていたかもしれないと思うとちょっとそこは残念な部分かなと思います。公認バイオですからね。後から問題になった時に、いや、俺そんなこと言ってないよとか誤魔化せないですからね。

 

あとハンター・ディヴィスの「ビートルズ」が面白いのは、ビートルズのマネジャーだったブライアン・エプスタインが「全て書いていいから」というお墨付きを与えたことにもあると思うのです。それまでのブライアン・エプスタインと言えば、記者会見で誰がどこに座るかまでちゃんと決めていたコントロール・フリークなマネジャーだったのですが、どういう心境の変化があったのか、もうビートルズと自分の関係が終わると思っていたのか、まさか死ぬとまでは思っていなかったでしょうけど、ちょっとしたビートルズに関する自分の遺言のような気持ちになっていたのかもしれないです。それとも、この本の許可を出す前の日に、ブライアン・エプスタインはバーで引っ掛けた青年を家に連れ込んで、その青年に殴られ、「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」のアセテート版を奪われるという大失態を起こしていたからかもしれないです。こんなことになったのも自分がゲイだということを公の場で喋れないこと、なんでも全て包み隠さずしゃべることがいいことと思っていたからかなと考えてしまいます。

 

この「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」のアセテート版を盗んだ青年、どうなったんでしょう。イギリスの伝説のギャング、クレイ兄弟の映画なんかを見てると、こういうことをした人は絶対見つけられて半殺しの目になっていると思うのですが、どうでしょう。

 

「ビートルズ」がバンドをやる楽しさを教えてくれる本としたら、ジェフ・エメリックの『ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実』は音楽を作る楽しさを教えてくれる本です。『リボルバー』以降のビートルズ作品のエンジニアを務めたジェフ・エメリックがビートルズ中期の作品がどいうやって形作られていったか、克明に書いてくれています。しかもあまりにも態度が酷くなっていく4人に根を上げ、『ホワイト・アルバム』の途中で降板するまでが噓いつわりなく書かれています。そして、もう一度彼らから、一緒にやってくれないかと頼まれる『アビー・ロード』、そして、なんとか完成させようとした『レット・イット・ビー』の顛末など、ファンじゃなくともハラハラドキドキしながら読まずには入られない名著です。

 

この本を読んでいると「ビートルズあかんやん」と何回も叫んでしまうのですが、この本を読んでいて一番ワクワクさせてくれるのはジェフ・エメリックとビートルズが起こした数々のレコーディング革命を現場にいるかのように感じさせてくれることです。今では当たり前となった手法がこの5人によって作られてきた、どうやって作れたかが手に取るような本なのです。まさに音楽本の聖書です。一つだけ書かしてもらうと、「エリナ・リグビー」でジョージ・マーティンがバックを二組の弦楽四重奏だけにしょうとしたのを(「イエスタディ」NO2にしたかったんでしょうね)、あまりにもおセンチ、「マンシーニ」ぽくなるのではないかと危惧したのです(後にフィル・スペクターが「レット・イット・ビー」でやったような奴ですね)。そんなポールの言葉に答えて、ジェフ・エメリックがそうならないように考えた録音方法は弦楽器のそばにマイクを立てるという方法でした。今だと誰もがやることですけど、当時だと誰もやっていなかったことです。これによって弦が擦れる音までしっかりと入ってエッジーなサウンドになって、それはそれはロッキンなサウンドになったのです。「エリナ・リグビー」のストリングスもう一度聴いてみてください。その壮大なロッキンなサウンドにぶっ飛ばされますよ。

 

とにかくこんな話がてんこ盛りなのです。一度読んでみてください。