第12回 アート セックス ミュージック/コージー・ファニ・トウッティ著 / 坂本麻里子訳(ele-king books)

アート セックス ミュージック/コージー・ファニ・トウッティ著/坂本麻里子訳 (eleking books)
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伝説のバンドと言ったらいいのか、気が狂ったバンドと言ったほうがいいのか、スロッビング・グリッスルの美しきノイズ、エレクトリック美女コージー・ファニ・トウッティの自伝「アート・セックス・ミュージック」の翻訳本が出ました。英語で読もうと思っていたのですが、嬉しい限りです。しかも訳してくれているのが元ロッキング・オンの坂本麻里子さんというのも嬉しい、確かな訳とちゃんとフェミニズムというか、女性が音楽業界で生きることについての感じをよく分かっておられるからです。

スロッビング・グリッスルのメンバーの中で誰よりも早くコージー・ファニ・トゥッティの自伝が出たというのも出版社がパンク時代、そして、それ以前の音楽シーンで女性がどのように関わってきたかということが今一番注目されていることだからです。ミランダ・ジュライなどのフェミニズムとすごくリンクし、成功しているアーティストの始まりがパンクを出発点としているからです。

イギリスではそんなアーティストとして大成功したジュリー・バーチルというパンク時代の女性ジャーナリストがいます。彼女は今一番イギリスで原稿料が高いコラムニストと呼ばれています。当時はクラッシュ対ストラングラーズという対立を煽るようにしたりとストラングラーズに「最低の野郎だ」と言われていたジャーナリストが今やイギリスを代表するコラムニストだというのは不思議な感じがします。でもその流れで当時の女性ミュージシャンがたくさん自伝を出しているのは嬉しいです。

僕が読んだのはエブリシング・バット・ザ・ガールのトレイシー・ソーン「ベッドシット・ディスコ・クィーン:ハウ・アイ・グリュウ・アップ・アンド・トライド・トゥ・ビー・ア・ポップ・スター」、元スリッツのヴィヴ・アルバータイン「クローズ・クローズ・クローズ、ミュージック、ミュージック、ミュージック、ボーイズ、ボーイズ、ボーイズ」ですが、2人のタイトルから分かるように、前者は下町の女の子がどうやってパンクになっていくか。後者は大学に行くようなインテリ美女がパンクに出会って、どうポスト・パンクを作りながら、それがポップ・ミュージックと消化されてくことのジレンマみたいな本です。これらの本もいつか紹介して行きたいです。なぜこんなに女性アーティストの本が出るのだろうということをコージー・ファニ・トウッティの本を読みながら、これは今一番重要な問題であるフェミニズムとリンクしているのだと気づいたのです。

みなさん、なぜ今フェミニズムが重要なのか分かりますか?マイノリティが差別されるのはそれは人数が少ないからだということが分かりますよね。でも女性ってマイノリティじゃないんですよ。人口の半分いるんです。絶対対等なはずなのです。でも、それがなぜ差別され、今はよくなったとはいえ、なぜ今だに女性差別があるのかということを考えるというのは人類にとって一番大事な問題なのです。今あなたの周りを見渡してください。なぜ会社の男女の比が半々じゃないのか、なぜ政治家は女性が2割もいないのか、なぜステージにたつ人間は男性ばかりなのか、大学受験の合格者をなぜ男子の方に有利にするのか。なぜばかりなのです。。

ファミニズムに一番最初に動き出したユース・カルチャーがパンクだったのです。自由、平等、博愛を言っていたフラワー・ムーブメントも実は裏では女性は奥に追いやられる運動でした。女性たちがステージに立ち出したのはパンクからなのです。そして、たくさんの女性アーティストが生まれましたが、今の現状を見れば、分かるとおり、それは成功したとは言えないのです。では一体何があったのか、ということが知りたく編集者が当時の人たちに声をかけていっていたのだと僕は思います。別にそこに答えはないですが、彼女たちの歴史は、言葉はとっても重要なのです。

なんて書きましたが、でも、僕にとってはやはり気が狂ったようなバンドでしかなかったスロッビング・グリッスルというバンドがどういうバンドなのか知りたかったんですけど、あの伝説のエピソードの真実は、でも読んで行くと伝説は伝説ですよね。ちゃんと音楽を作りたかった3人ととにかく過激なことをしたかったリーダーのジェネシス・P・オリッジの物語でしかなかった。僕もジェネシスのことはよく知っているんでそうだろうなと思っていたので、読んで行くのは辛かったです。特に再結成してからの金の問題、ジェネシスがお金に汚くなかったら、伝説のスロッビング・グリッスルは今もっと伝説として輝いていたと思います。

年齢的には僕より13歳上なので、年の離れたお姉さんみたいなのかもしれませんが、僕の母親の手記を読んでいるような気がしました。今のシンセサイザー、ノイズ少女たちにこの自伝がどう読まれるのか、ちょっと不安なんですが、相方のクリス・カーターとの間に男前の息子さんがいたのはすごく嬉しかったです。ストリップの仕事をしていたのは有名でしたが、生活のためにハードコア・ポルノの仕事もしていたのはショックでした。しかもスロッビング・グリッスル、それ以降もやっていたのは。別に正しいことですけど、男で男優をやりながらアーティストをちゃんとやり通した人がいるのかということです。

アーティストの生き様をちゃんと考えさせてくれる、まさにタイトル通り「アート セックス ミュージック」の本でした。4968円と高い本ですが、アート、音楽の世界で生きたいと思う女性には絶対読んでもらいたい本です。