第13回 モリッシー ・インタヴューズ 新谷洋子 訳
- 2018.12.03
- COLUMN FROM VISITOR
- イアン・ブラウン, カート・コバーン, スミス, トム・ヨーク, トレイン・スポッティング, トレインスポッティング2, モリッシー, レディオヘッド, 社会主義, 限りなく透明に近いブルー
この頃モリッシーのことが気になって仕方がない久保憲司です。みなさんがどれくらいモリッシーのことを好きなのか分かりませんが、僕が子供の頃、モリッシーのいたスミスというバンドは、ニルヴァーナ、レディオヘッドよりも重要なバンドだったのです。ニルヴァーナと一緒くらいかな、セックス・ピストルズの次くらいに重要なバンドだったのです。
今はどんなバンドが一番重要なんでしょう?みなさんにとってはどのバンドが一番大事ですか?
スミスがなぜ大事なバンドだったかというと、社会主義のバンドだったからです。
えっーーーーーー社会主義のバンドという声が聴こえてきます。
びっくりでしょう。
でもそうなんです。スミスが出てきた頃82年頃のイギリスの若者は世の中が社会主義になることを夢見てたのです。それくらいしか希望がなかったのです。
映画『トレインスポッティング』で、なぜあの若者たちはヘロイン中毒になるか、映画の中でユアン・マクレガー演じる主人公が「俺たちがなんでファッキン・ヘロイン中毒かって、ファッキン・スコティッシュだからだよ。イングリッシュの下にへばりついて、何も出来ないからだよ」と説明してます。
要するにドン詰まりってことです。もちろんスコットランドは独立国家で主権もありますよ。イギリスというのがタンコブのようにあるんですよ。
日本も同じですよね。日本も主権国家ですが、まだアメリカ軍が日本にいますよね、それがいる限り、俺たちは何をしても同じだということです。日本には国連軍も駐留しているので、そんな目くじらを立てる必要もないんですけど。でもやっぱり日米地位協定は改定しないと日本の戦後は終わらないです。こんな状況だと僕たちも『トレインスポッティング』みたいにヘロイン中毒にならないと行けないんですけどね。あっ、なってました。僕たちには村上龍の名作『限りなく透明に近いブルー』がありました。『トレインスポッティング』と『限りなく透明に近いブルー』は同じテーマなんです。
そんなスコットランドだったんですが、20年後どうなったかというと『トレインスポッティング2』でちゃんと描かれてます。若者はちゃんと自立しているのです。登場人物の一人ベグビーが刑務所を脱走して、彼の仕事である泥棒を息子とやろうとします。ベグビーは「ヘロインみたいなものは負け犬のするもの」としません。でも泥棒をします。理由は他のジャンキーと一緒です。イングランドの下にいる限り俺たちは何物にも成れないんだから何をしてもいいんだというので泥棒です。
仕事が泥棒って笑ってしまうかもしれませんが、昔の日本もそういう人たちたくさんいたんです。今だとオレオレ詐欺をやるような人たちです。地面師とか。オレオレ詐欺をやっている奴らは最低ですけど。泥棒には金持ちから奪って何が悪いというエクスキューズがありますから。セックス・ピストルズのギターリストのスティーヴ・ジョーンズも泥棒の家系の子です。彼はそれを恥じていません。セックス・ピストルズの初期の機材は泥棒をやって手に入れたものです。ちゃんとインタビューでもそのことを答えています。そういう人生もあるんです。よくハリウッド映画でも犯罪者の家庭の物語が描かれたりしますが、日本から見ると現実離れしていて嘘の世界のように見えるかもしれませんが、そういう世界もあるのです。
『トレインスポッティング2』の話に戻します。ベグビーの息子はいい奴で、ホテルマンになろうと頑張って学校に行っているんですけど、久々に帰ってきた(帰ってきてないけど)お父ちゃんの言うことをきいてやろうと、毎晩泥棒の仕事を手伝うのですが、ある晩「お父ちゃん、俺、泥棒の仕事好きじゃないよ、俺ちゃんとホテルマンになりたいよ」と告白するのです。それを聞いてブチ切れるベグビーですが最後は「分かった。俺らの子供の頃は何の仕事もなかったけど、今のお前らには夢があるんだな」と子供のことを理解するのです。ベグビーが子供の頃はホテルマンになろうとしたら一生給料の安いホテルマンで終わりだったんです。それしか見えなかったんです。でも今は高級ホテルのホテルマンになって、高給取りになれたり、うまくいけばホテル経営に参加出来たり、もっと自由がある感じなんです。
分かられました?僕らが子供の頃のイギリスは社会主義になってみんなが平等になるしか救いがないとしか思えなかったのです。
スミスの名フレーズ
“イギリスは僕のもの イギリスは僕の面倒を見ないといけない なんでお前みたいなやつの面倒を見ないといけないと言う奴には、ツバを吐きかけてやる”
自己責任だと叫ぶ今の日本のネトウヨにはツバを吐きかけたらいいんだと言うようなことをモリッシーは83年とかに歌っていたのです。
僕らはそれに感動していたのです。
『モリッシー・インタビューズ』を読んでいたら、そんな懐かしいことが思い出させれました。
あなたは社会主義者ですか?と言う質問にこう答えています。
「そうだよ。特定の政党には所属していないけど、言うなれば、衣服をはぎ取られたら、社会主義者の枠に振り分けられるだろうね。なぜかって?労働者階級出身で、生きることの辛苦やリアリティにさらされてきたという、分かりやすい理由からだ。社会主義者はみんな、完全なる現実主義者だと思う。」
かっこいい! こんなかっこいい人がいたんですよ。他にいます。いるんですよ、彼の意思は次はストーン・ローゼズのイアン・ブラウンに引き継がれていきますし、レディオヘッドのトム・ヨークに、カート・コバーンも同じことを言ってますよ。みんなパンクの子供ですから。日本からもチャートの一位を取るか、取れないかと騒いでいるアーティストからこんな発言をする人が出てきて欲しいですね。
『モリッシー・インタビューズ』みんなに読んで欲しい。特に始めの部分は。
モリッシーの変化はナチから世界を救った男イギリスの元首相チャーチルの言葉「20歳の時にリベラルでなかったとしたら、あなたには心がない。40歳の時に保守でなければあなたには脳がない」だと思うんですが。
モリッシーに「基本あなたの変化はチャーチルの言葉通りですよね」なんて質問すれば、ツバを吐きかけられるでしょうが、モリッシーがツバを吐くわけないんで、どんだけ君は低脳なんだと言う冷ややかな目で見られるだけなので、怖くって質問出来ないですけど、『モリッシー・インタビューズ』のライターさんたちさすが、イギリスのジャーナリストたちですよ、ちゃんと質問してますね。音楽評論家になりたい人間としてはこの本、バイブルのように読ましてもらいました。音楽評論家になりたい人にも読んでもらいたい本です。