特殊音楽の世界14「2018年ベスト」

今回は2018年にリリースされた音源のなかでとても重要だと思う個人的ベストを上げていきたいと思います。
特殊音楽と言ってはいますが、今回は特殊とは言えない普通の音楽も含んでいます。それほど大きく注目もされていないかも知れないけれど2018年を思い返す時に決して忘れられないものをリストアップします。順位はつけません。

 

 

オッキョン・リー/Cheol-Kkot

以前、ここでも紹介したNY在住の韓国人チェロ奏者の作品です。SWANSのアルバムにも参加してたり幅広い活動をしている彼女ですが、このソロ・アルバムではパンソリの導入等、韓国人としてのアイデンティティの自覚から作られたようです。

しかし決して民族文化への憧憬、尊重といったような単純なものではなく、パンソリとエレクトロニクス、チェロがうねりを持って絡み合うこの上もなく強力な音楽です。伝統文化を現代にも通じるものとして捉え、なおかつそれを自分の音楽として昇華させたものでした。去年、最も印象に強く残った強烈な即興演奏作品の一つでした。伝統文化を現代でどう捉えるべきか、それを考える上でもとても重要な作品だと思います。

これはこのアルバムの映像ではありませんがオッキョン・リーのライヴ映像です。

 

 

AIRWAY/ Live at MOCA

ここで紹介するには字数が足らなすぎるLAFMS(ロサンジェルス・フリー・ミュージック・ソサエティ)のユニットの一つAIRWAY。集団のあり方も音も他に例を見ない唯一無比の存在であるLAFMSを代表するユニットの一つであるAIRWAYの新譜が去年2作リリースされました。これはそのうちの1作。 シシー・スペイセクのJohn Wisesによるmixがえげつないです。ノイズであっても音楽の痕跡のようなものが普通残りますが、これは全く音楽として成り立たないように巧妙にmixされているとして思えません。まるでゴミ、廃棄物のような音塊は爽快としか言いようがありません。JOJO広重、美川俊治、大野勝彦、T.坂口等総勢9名のTeam Airway Japanも参加。

ネットに上がっているLive at MOCA 。CDではこれにTeam Airway Japanが音を追加、Johnがミックスしています。

 

 

Phew/Voice Hardcore

Phewの声だけで作ったアルバム。いまさらここで紹介しなくてもいいかもしれませんが2018年で一番衝撃が大きかったアルバムです。

エレクトロニクスで変調させた声とほぼ語りのようなヴォーカルによるこのアルバムほど逆に「唄」を感じさせたものはありませんでした。電子音であるのにとてもリアル、そのリアルさが怖くもありました。これほど別の場所に連れていってくれる(いや行かざるを得ない)音楽もありませんでした。

Phewはその後レインコーツのアナとのアルバムもリリースしています。そちらも良かったんですが衝撃度でやはりこちらを。

 

 

アクセル・ドナー/unverrsicht

EP-4佐藤薫監修の新レーベルφononよりのリリース。

9月にアクセル・ドナー+マーク・ソルボーグ+シモン・トルダム+芳垣安洋のライヴを見たのですが、去年のベスト1のライヴでした。

トランペットに謎のデヴァイスを装着(着脱可能)したアクセルの演奏は今までにないものでした。

パンニング一つとっても、持ち込みのステレオマイクをした生音のパンとデヴァイスの操作による機械的なパンを巧妙に操作し組み合わせ、音の移動だけでも千変万化の演奏でした。

デヴァイスにはマイクだけでなくノイズ・サンプラー的な機能もあり、またPCを通して変調される音に加え、呼吸音、バルブの音まで自由自在に音を操りありとあらゆる音に溢れた驚異的なライヴでした。一つの楽器であそこまで多種多様な音を繰り出し、多彩で豊穣な世界を聴かせてくれる演奏家は他にいないと思います。

このCDでもそのアクセルの、現在の驚異的で豊穣な音を聴くことができます。トランペットだけでこの音が作られているとは思えないでしょう。凡庸な電子音響やノイズ・コラージュなど足元にも及ばない傑作です。

そのデヴァイスを使ったアクセルの演奏がこちらです。

 

 

 

角銅真実/Ya Chika

ceroのサポートメンバーとしても活躍している角銅真実の2nd。これは特殊音楽でもなんでもありません。popsです。しかし前衛も含めた様々な音楽を消化、通過した後のこれからのpopsの見本になるような音楽だと思います。

ここにはサウンド・アートの分野でも活躍する大城真の、息遣いのような微妙な音のテクスチャーもクリアに生かした録音&mixも含め、2019年の音楽にとって多くのヒントが隠されていると思います。

今回は字数の関係で5作だけでしたがもっと印象に残った音源はたくさんあります。次回以降でできるなら機会をみて紹介していきたいと思います。

 

F.M.N.石橋

:レーベル、企画を行うF.M.N.SoundFactory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82~88年まで京大西部講堂に居住。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。

(文中敬称略)