特殊音楽の世界15「指揮者のいる即興オーケストラ」

指揮のある即興オーケストラは世界中にいくつかあります。

その代表的なものをいくつかピックアップして紹介してみます。

まずブッチ・モリスのコンダクションです。

熟練したミュージシャンの即興演奏をブッチ・モリスが即時に編集&加工&構築するためにハンドサインによる指揮を行う、と言えるでしょうか。

ハンドサインも20種程度あり、しかも複雑です。リハーサルが必要になります。熟練したミュージシャンの即興演奏を尊重しながらも指揮者であるブッチ・モリスのある種の作曲作品とも言えると思います。

以前、ブッチ・モリスを招き日本のミュージシャンを集めコンダクションを神戸(東京でも開催)で開催した時は前日に1日かけて入念なリハーサルをやりました。

そしてもっと複雑なハンドサインを使用しているのが去年行われたサンチャゴ・バスケスのオーケストラです。

これは後で説明を聞いたのですが、指と手でほぼ即時に譜面を作っているに等しいくらい、ここでは説明できないくらい複雑なハンドサインを用いているそうです。

しかもこれも一般参加のオーケストラですが、(もちろん熟練したミュージシャンもたくさん参加しています。)前準備としてワークショップを行ったとはいえ一般の人が見事に指揮に合わせて演奏していることに驚きます。

これだけ指示の内容がはっきりしているとバスケス個人の即興と言えなくもないとは思いますが、参加者に生じる演奏のズレや解釈の違いをも許容して瞬時に皆で演奏に組み立てていく様はやはり集団即興のとてもいい見本のように思います。

そして、これは例外なのですが広く誤解されているのではっきりさせるために紹介したいのがコブラです。

ジョン・ゾーンによって「発明」されたコブラは前述した二人のオーケストラのような指揮者がいる集団即興演奏ではありません。

まずいわゆる指揮者はいません。プロンプターという通常指揮者のいる位置にいる人物はいますがサインは演奏者間でやりとりされプロンプターはその中継者でしかありません。

即興演奏オーケストラではなく、ジョン・ゾーンが発明したルールに乗っ取った「ゲーム・ピース」なのです。

これはプロンプターをジョンではなくアンソニー・コールマンがやっている動画ですが、この動画の最初にサイン・ボードの説明とルールが簡単に示されます。

これはアカデミックな感じの演奏ですが同じコブラをニューヨーク・ダウンタウン・シーンのミュージシャンでやっているのがこれです。

演奏者とプロンプターの間でもサインを出し合っているのが分かりますね。ハンドサインによる集団即興を全てコブラだという誤解をよく見かけますがそれは大きな間違いだということはこれを見てわかっていただけたかと思います。

年末に新宿pit innで行われた大友良英4days8回公演に行ってきました。

すべて違ったプログラムを昼夜4日間計8回公演行った体力と豊富なアイデアに圧倒された4日間だったのですが、一番印象に残ったのが、楽器ができなくても良い、楽器でなくても音が出るものならなんでも良い、年齢不問の条件で一般参加を募ったオーケストラでした。

指揮者の簡単な指示(ハンドサインが5つ、あとは身振り手振りに合わせる)による即興オーケストラです。

簡単なルールなので誰でも指揮者になれます。

pit innの動画ではないですが同じ一般参加オーケストラの様子がわかる動画です。

これで大体どういうものかわかると思います。子供達もいて楽しそうですね。

pit innでもすごく楽しそうな瞬間がいくつもありました。でも楽しい、だけではありませんでした。

持ち寄った音具は、鍋のようなものからおもちゃの笛、自作の発信器からサックス、トラペットというようなちゃんとした楽器まで、表現できる幅が全く違うものが一緒に揃います。

技術や楽器の経験値といったそれぞれの違いや差をなくすようなことはありません。様々な人のもつ個性がそのまま音に現れてきます。

しかも簡単とはいえサインを覚えられない人もたくさんいます。でも覚えられなくてもなんの問題もないように見受けられました。

サインを覚えてない人でも指揮者になれます。

サインを自分なりに解釈をして自分なりの表現をその場で考え音を出す。

しかし勝手に音を出しているわけではないのです。それぞれの理解でそれぞれの個性で集団の中で音を作っていく、年齢や個性の違いもズレも勘違いも飲み込んでそれでも同じ場にいることを互いに尊重しながら音を出していく。ルールを尊重し、しかもルールを覚えられない人も尊重し簡単に排除しない。

これは大げさではなく生きて生活していく場そのものだと思います。

そこから生まれる音は今までにないパワーと美しさを持っていました。

 

 

F.M.N.石橋

:レーベル、企画を行うF.M.N.SoundFactory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82~88年まで京大西部講堂に居住。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。

(文中敬称略)