「ライブ」とはすなわち、そこに居合わせたすべての人間からそれぞれの者たちに送る、必死の伝言を指す言葉

京都の音楽シーンを発信する「京都音盤方丈記」。今回はマサモトススム氏によるライブレビュー。京都・磔磔で不定期に催されており、今回で4回目を迎えた「Botanical House」のレポートです。

〜1月12日 京都磔磔 《BOTANICAL HOUSE vol.4 新春スペシャル》 レポート
出演:豊田道倫&mtvBAND、夏目知幸、澤部渡、Homecomings

文/マサモトススム
写真/村上葵

1月12日土曜日。京都磔磔でのBOTANICAL HOUSE vol.4 新春スペシャル、盛況のうち終了。京都では初ライブとなる豊田道倫&mtvBANDを主軸に、今をときめく若い世代のアーティストらが名を連ねた、京都音楽シーンにおける最重要イベントを、気ままに振り返ってみる。

開演20分程前、磔磔に到着。意外にもフロアには椅子が並べられていた。四組による長丁場をゆったり過ごして欲しいという気配りセッティングだろう。来場者は二、三十代の男女が目立つが、家族連れもちらほら。一般客に混じり音楽家の姿も多い。開演間際には立ち見も出はじめ、さわさわとした人いきれのなか定刻スタート。

一番手はスカート澤部渡。お馴染み、鮮烈なカッティングのアコギプレイと色香漂う歌唱で、綿密に構築されたハイブロウな楽曲を小気味良く放つ。ソウルフルかつハードな弾き語りだが、息苦しさは微塵もなく耳心地爽快。最高の皮切りとなった。


続くHomecomingsは最近のモード、日本語詞のナンバーを中心に終始ゆったりとしたグルーヴで場の空気を温める。螺旋を描くように織り重なり上昇してゆく豊潤な音のハーモニーが心地よい。がむしゃらに攻めない余裕のセットリストがバンドの成熟度を物語っていた。


三番手はシャムキャッツ夏目知幸。演奏開始後ほどなくして、おもむろにアコギからシールドを抜き、ノンマイク&アンプラグドにてステージとフロアを行き来する軽やかさで魅了する。郷愁を帯びたフォーキーな旋律に軽妙な歌詞を載せた真新しいポップスを、おおらかにやんちゃに提示した。


そして大トリ、多幸感溢れる空気のなか登場した強面の怪物たち、豊田道倫&mtvBAND。フロアのハッピームードを一刀両断するかのように、目の覚めるような轟音にて遥か別次元と誘う。とんでもないことが起きている、とでもいうふうな表情で固唾を呑み演奏を凝視する観客たち。客席後方、楽屋へと続く階段には演奏を終えたばかりの若手たちが陣取り、じっとステージに見入る姿があった。世代の、そして嗜好の垣根をロックンロールが貫通させたことを示す最高の景色。涙が溢れた。


クライマックス、ひたすら熱く狂おしい演奏は緊張感を保ったままアンコールに突入。驚くなかれ、豊田はここで前日にできたばかりで稽古もままならなかったという新曲を披露した。なんと前のめりな男なのだろう。音楽と心中することも辞さぬ、といった強固な意思がバンドに力を与え、無垢なる音塊はカタルシスを生んで、この催しのプライスレスな意義が浮き彫りになってゆく。

「ライブ」とはすなわち、そこに居合わせたすべての人間からそれぞれの者たちに送る、必死の伝言を指す言葉なんじゃないか。演者は生き方を。イベンターは価値観を。観る者は感動を顕し、それらのメッセージが交錯する幸福の坩堝としてライブハウスが存在する。
この日集いし独特の個性たちが残したあまたの必死の伝言は、それらを受けとめた皆の心に根差し、きらびやかな明日を紡ぐための糧となり得るように思う。終演後、フロアを行き交うたくさんの笑顔を目の当たりにしたとき、本気でそんなことを考えた。仲間うちでこぢんまり纏まり、閉塞しがちなライブハウスも、まだまだ捨てたもんじゃないな、と。

このような公の場に、こうも青臭いことをぬけぬけと書ける勇気のようなものを、自分はあの日あの場所で受け取った気がする。BOTANICAL HOUSEを訪れたすべての人たちのメッセージは薫風となり、さまざまな明日へと吹き抜けていくだろう。