気分はどうだい? Vol .17 <音の記憶…>
- 2019.04.01
- COLUMN FROM VISITOR
先月の3月20日はLPレコードの日でした。「1951年 3.20(S.26)日本初のLPレコードが日本コロムビアから『長時間レコード』の名前で発売。」を記念してのこと。この日、初めて買った洋楽のレコード(アルバム)のことを思い出してみたのです。最初のアルバムは1964年4月15日に日本で発売されたビートルズの『ミート・ザ・ビートルズ 』でした。大阪梅田の阪神デパート8階にあったレコード売り場で購入しました。14歳でした。
そしてさらに思い出したのが昔読んだ『チーズバーガーズ』や『アメリカン・ビート』などの著作で日本でも知られる作家ボブ・グリーンの『十七歳・1964年春』(1988/5:文藝春秋 井上 一馬 / 翻訳 ) という本。内容は彼の17歳の頃の思い出を日記の形で綴ったものなのですが、中心に語られているのがビートルズ、さらにはラジオのこと、学生生活のことなど、当時のアメリカのそれも大都会ではない郊外に住む若者としての回想が書かれています。初めてこれを読んだ時、1964年のこの時期に僕と全く同じような体験をしたアメリカのティーンの想いも同じなのだなと思ったものでした。そこにはこんな箇所があります。
*1964年1月15日
「夕食のあと、ジャックから電話がかかってきた。ベクスリー・レコードに注文してあったビートルズのアルバムが入荷したという連絡がたったいまあったのだという。彼に車で迎えにきてもらって、ふたりでそれを取りにいく。僕らはそれぞれ一枚ずつそのアルバムを買った。ふだん僕はシングル・レコードしか買わないが-アルバムは二ドル四十七セントもして高すぎる-そのアルバムだけは持っていていいような気がしたのだ。ジャックと僕はアルバムを持って家までもどってきて、僕の部屋でそれをかけた。アルバムのタイトルは『ミート・ザ・ビートルズ』。ジャケットは白黒の四人の写真―四人の顔のポートレートだった。正式のポートレートであの髪型を見るのは生まれて初めてだった。WCOLは、ほとんどノン・ストップで『抱きしめたい』と『アイ・ソーハー・スタンディング・ゼア』をかけていたが、アルバムに入っているほかの曲も同じくらいいい曲ばかりだった。本当に驚かせられる。僕は、アルバムをかけ直すたびに、プレイヤーのヴォリュームを少しずつ上げつづけていたが、しまいに父が僕の部屋のドアをドンドンたたきはじめたので、最後にはヴォリュームを下げざるをえなかった。」….と。
ところが随分後にこのアルバム『ミート・ザ・ビートルズ』に関しての詳細な事実が解るようになるのです。当時ビートルズなど欧米のバンドに関しては収録曲やジャケット(日本盤では裏面に解説が書かれているのがほとんどでした)が世界統一されていなく、ビートルズも’87年のCD化の際に’60年代のイギリスのオリジナル版に統一されるのです。このボブ・グリーンの聴いたアルバムはキャピトル・レコードにおけるアメリカでのファースト・アルバムで独自の編集がされており、僕の買ったアルバムは日本編集版で収録曲も違うし曲数も違うものだったのです。「アメリカの連中が初めて聴いたものと僕が初めて聴いたアルバムは違うんだ」という驚きがあり、このアルバムに関する想い入れは彼らとは違うものなんだなと思ったものです。僕もこのアルバムを親父が買った初期の日本コロムビアの4本足のオーディセットで日本家屋の応接間で姉貴と一緒に聴きました。強烈な衝撃で何度も何度も繰り返し聴いたのを覚えています。初めての感覚、それが今だに鮮烈な記憶として残っています。そして不思議なことに最近のリマスターされたものではその記憶は蘇ってはこないのです。総額数百万もするオーディオ・セットでイベントをした際、ビートルズの『アービーロード』もかけたのですが、初めて聴いたごく普通のオーディオ・セットでの音のほうがやはり記憶には深く残っています。
最近特に思うのですが、いまでも記憶として残っている音(音楽)のいうものはそのジャンルが何であれ、その人の時代や年齢、住んでいた街や家、それを聴いていた場所など環境によっても、またそれがトランジスターラジオ、カーラジオ/ステレオ、歩きながらのウオークマン、高級オーディオだったのか、さらにはそれがレコードだったのかCDだったのかでも感じ方が随分違うはずで、結局それらはそれぞれ一人ひとりの独自のものであり、ライブ/ コンサートに関しても同じことだと思うのです。
よく音楽が「心に響く、心揺さぶる」そして「心に残る」と表現されるのですが、それはどういうことなんだろうと考えてしまいます。そしてその「心」というものがどこにあるのかということを考えるとまた別の領域になってしまうので書きませんが。
記憶によって呼び戻されるあの感覚を今でも持っておきたいと思うのです。
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