特殊音楽の世界17「フェスティバル・ビヨンド・イノセンス」

今回は、今の関西の特殊音楽に限らない音楽シーン、いや全国的な音楽の流れにも大きな影響を及ぼしたと言っていいF.B.I.(フェスティバル・ビヨンド・イノセンス)のことについて書きます。

F.B.I.は内橋和久がオーガナイズし96年から毎年開催(途中1年休止)07年まで11回続いたフェスです。毎回3~4日開催し、即興や前衛音楽に限らず内橋が面白いと思うミュージシャンを国内外問わず一堂に集めたフェスでした。

そう書くと「あ〜、よくあるたくさんバンドが出るだけのフェスね」と思われるかもしれませんが、そういった安直なショーケース的フェスとは一線を画すものだったと思います。

5回目までは神戸のジーベック・ホールで開催し、6回以降はNPO法人を立ち上げて、今はもう解体された新今宮のフェスティバル・ゲート内の最上階にBRIDGEをいうスペースを作り、そこで02年から07年まで開催していました。

このインタビューの最初に出てくる建物の最上階のフロア全部がBRIDGEです。

http://www.connectortv.net/libraries/006.php

内橋自身の柔軟な姿勢が出演者選定に反映されボーダーレス/ジャンルレスな出演者のラインアップでした。

いや、そもそも前述のインタビューで内橋が「即興はジャンルでは無く一つの演奏形態なので音楽的な種類としては様々にある」と言っている通りジャンルという概念とは無縁のフェスでした。

そして1番の特徴は、毎回全ての出演者/バンドの演奏が終わった深夜(時にはオールナイトで)内橋が100名以上の出演者から3~4名指名し各5分程度で行われる3時間以上にも及ぶ連続セッションでした。

インタビュー中にもあるように、このジャンルの枠を取り払ったセッションの成果は大きかったと思います。これは音楽家同士の交流ということだけではなく、セッションに参加したミュージシャンの意識を大きく変えることもあったとも思います。

そしてミュージシャンだけではなく、ジャンルに囚われた聴衆の固い頭をぶっ壊してもくれました。

インプロ/ジャズ/ロック/エレクトロニカと様々な形態の音楽家のセッションはそれまでの音楽にはないとても不思議で魅力的で且つ破壊的に面白いものでした。

即興が目的化してしまい袋小路にはまり込んだあと、90年代には即興を音楽に対する数あるアプローチのうちの一つと捉えるように変化していったと思っているのですが、それはF.B.I.の影響が大きかったと確信しています。ミュージシャンのみならず観客をも巻き込んで音楽に対する意識を大きく変化させたと思います。

特に即興/前衛音楽のミュージシャンだけではなく、オオルタイチやオシリペンペンズやあふりらんぽ等の当時の若いバンドの参加は、双方に(もちろん観客も含めて)大きく影響を与えていたと思います。

neco眠るの森雄大やDODDODOもF.B.I.のスタッフでしたし、HOPKENや旧グッゲンハイム邸のような今の関西になくてはならない場所にも確実に繋がっています。

ゼロ年代以降の関西の音楽にF.B.I.が与えた影響はとても大きいのですがほとんど全てのメディア/批評家からは無視されていたのでちゃんとした評価は今まで殆ど行われていません。

F.B.I.の動画記録はとても少ないのですがここでMasonnnaのライヴをあげておきます。

F.B.I.では全てのパフォーマンスを観て欲しいという趣旨から、12時間以上になるタイムテーブルを決して公表することはありませんでした。

どんな出演者だったか07年ファイナルのMIXI記事を参照してください。

https://mixi.jp/event/13324-20568067

ファイナルでUAの出演が決まった時に、あまりにUAの出演順の問い合わせが多かったことに不満だった内橋はUAの出演を開場すぐに設定しました。入場しながらすでにUAが始まっていることに驚いたり苦情を言う観客に内橋は「全部観たらええねん」というのみでした。

UA目当てでもう出演が終わったと思い途中で帰った人は深夜のUAも交えたセッションは当然のことながら見逃しました。

余談になりますが、これだけの出演者だと物販も大変でした。ほとんど全部(行けなかったのは1日だけ)物販担当スタッフとして付き合いましたが、ほぼ毎回3~500アイテムの出品、それを100人以上の出演者ごとに清算(売り上げはもちろん100%出演者渡し)という気の遠くなるような作業でした。

ギャラは出ているとはいえ物販は音楽家にとっては大事な糧です。おまけに海外から手持ちするCDやレコードが貴重なものが多く、お客さんも物販を楽しみにしている人も多かったのです。

BRIDGEではF.B.I.だけではなくいろんなイベントが行われていました。梅田哲也(彼もF.B.I.の常連でした)のインスタレーション、渋さ知らズや数々の来日ミュージシャンの公演も行われていました。

そのうちの一つから、これもF.B.I.に出ていた当時の若手バンドだったBogultaのライヴ映像を。F.B.I.での演奏シーンではありませんがBRIDGEでのイベントの様子がよくわかると思います。

場所のあり方も含めF.B.I.のような、音楽のその後や観客の意識も大きく変えるようなフェスは他にはなかったと思います。今でもちゃんと検証されるべきフェスであると思います。

ここでお知らせです。4月13日(土)に空間現代の運営するスペース「外」で松村正人さんの「前衛音楽入門」の刊行記念イベントでトークが行われます。松村さんのトークのお相手として私も出演します。空間現代のライヴもあります。

詳しくは外のサイトをご参照ください。

http://soto-kyoto.jp/event/190413/

 

F.M.N.石橋

:レーベル、企画を行うF.M.N.SoundFactory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82~88年まで京大西部講堂に居住。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。

(文中敬称略)