特殊音楽の世界18「ターンテーブリスト」
- 2019.05.01
- COLUMN FROM VISITOR
- erikM, クリスチャン・マークレイ, ターンテーブリスト, マルタン・テトロ, 大友良英, 毛利桂
今回はターンテーブリストのことを。ターンテーブリストとは言ってもヒップ・ホップ系のそれではなくターンテーブルやレコードの特性に注目した特殊な音楽の世界のことです。
ターンテーブリストって今は馴染みもある言葉だと思いますが、90年代初め頃では全く通じませんでした。
イベントの紹介記事を掲載してもらおうと情報誌の編集部を訪ねて(もう“情報誌”も死語ならその行動自体も理解できないと思いますが)説明しても編集の方には鼻で笑われて「それはDJと言うのですよ」と言われ「いや、DJじゃなくてターンテーブルを楽器として使うんです」と言っても全く理解してくれず、何度「DJ;大友良英」と誤記されたことか。
まず、その大友良英はじめ多くの人に影響を与えたクリスチャン・マークレイを紹介しないといけないでしょう。
現在は耳の具合が悪いこともあり音楽演奏よりもアーティストとして活躍しているマークレイですが、レコードを使って演奏するということ以上にレコードの経年劣化で起こる傷などの音、ターンテーブル自体が発するノイズに注目した最初のミュージシャンと言ってもいいと思います。しかもそれはヒップ・ホップの影響を受けたものでもなく、またレコードを素材にした現代音楽がきっかけになったわけでもなく、70年代末のNYのパンク・シーンとアート・シーンの混交より生まれたものでした。
またアーティストとしての側面も大きいマークレーはジャケットなしのレコード(流通時や購買した後につく傷の音もそのレコードの音の一部分として進化していく、そして結果として同じものは一つとしてない)、
片面にタップダンスを録音したレコードをギャラリーの床面に敷き詰め、結果的に観客の足跡&傷ができたレコードをそのまま販売、
といったような作品も出しています。
マークレイに関してはもっと説明したいのですが字数のこともあるので、次回以降でもっと詳しく紹介できれば思います。
次はマルタン・テトロ。
これをご覧になっても分かる通り、彼はレコードというよりも回転する円盤とカートリッジというターンテーブルの二つの特性に注目したミュージシャンです。
彼の最新ライヴ映像がこれ。
これを見ても分かるように彼はレコードのなかの「情報」よりも音質も含めた「音」そのものに焦点を合わせています。カット・アップ・コラージュを行わないターンテーブリストとして画期的でした。
ターンテーブルもなくしカートリッジとオブジェを回転させるモーターだけで演奏することもあったのですが、その動画は見つけられませんでした。
そして前述のマークレイに大きな影響を受け、マルタン・テトロとの共作を何作も出している大友良英。もはやレコードすら使っていない演奏がこれ。
大友のターンテーブルといえば忘れてはいけないのがwithout recordsです。
これは演奏ではなくインスタレーションなのですが、古いポータブル・プレイヤーに内在する音を引き出した、今までのターンテーブルと音楽の、いや機材(素材)と音楽の関係に新しい指針を出したと言ってもいい作品でもありました。
ご覧の通りレコードを全く使わず、いろんな素材を装着するなどの改造を加えた古い百数十台のポータブル・プレイヤーのノイズが会場至る所で聴けます。その音が多層的に共鳴し、会場全体にとても豊かな音が鳴り響きます。また場所を移動すれば全く違った世界が開きます。
もう一人、erikM。
マークレイやマルタンほど画期的なことをやっているわけではないのですがターンテーブルを楽器としてみるとこれほど優れた演奏家もいません。
日本のターンテーブリストも紹介しておかねばなりません。
ノイズ・ミュージシャンで京都のパララックス・レコードの店長でもある毛利桂。彼女はポータブル・プレイヤー1台だけで凶悪なノイズを演奏します。
マークレイのことも、他にもまだまだ紹介したい人はいますが、また次回以降に。
ここでお知らせです。以前このコラムでも紹介したトゥバ出身の驚異的なヴォイス・アーティスト、サインコ・ナクチュラクが来日、内橋和久とともに日本で3回のみ公演します。
関西は京都の1回のみです。
7オクターブ出る声でホーミーも操る驚異的なパフォーマンスはもう二度と日本で見ることはできないかもしれません。どうかお見逃しなく。