特殊音楽の世界20「特殊音楽家と映画」
- 2019.07.01
- COLUMN FROM VISITOR
今回は特殊音楽家といってもいい人達が手がけた映画音楽の話をします。
メロディーやリズムに頼るのではなく音のテクスチャーにも拘るような音楽をやっている人達に映画の音楽を任せたくなる気持ちはわかりますね。
そして音楽家側も映画というある種の縛りを十分に楽しんで、自作では出せない思わぬ成果を残すことも多いと思います。
まず最近の映画を。
「へレディタリー 継承」
この映画の音楽を担当したのは、以前このコラムでも紹介した驚異のサックス奏者コリン・ステットソンです。
映画ではとても不気味な重低音が鳴り響いています。この映画音楽を楽しむためにぜひ劇場での鑑賞をお勧めします。音からも怖さが伝わりますよ。
映画と音楽の関係で言えばやはりこの人、サリー・ポッター。
「タンゴ・レッスン」等、幾つもの名作を残している監督ですが、Feminist Improvising Groupやthe Film Music Orchestraでも活躍していたインプロヴァイザー/作曲家/ヴォーカリストでもありました。
ヘンリー・カウのバスーン奏者、故リンゼイ・クーパーとは映画も含め多くのコラボ作品を残しています。また彼女はFeminist Improvising Groupの名前でもわかるようにジェンダーを意識した活動を続けている人でもあります。
彼女の演奏がこれ。
そして彼女が音楽も担当している映画がこれです。
300年生きて女性から男性へと性別も変わってしまう人物の一生を描いたもので、主演のティルダ・スウィントンが印象深い映画でとても面白いです。
映画と音楽家といえばこの人を忘れてはいけません。ジム・オルーク。彼の映画好きは有名です。元々日本にやってきたのは映画を撮るためだったそうです。彼は若松孝二作品を始め多くの邦画で音楽を担当しています。その中でも若松作品ではありませんが特にこれをお勧めします。
「海炭市叙景」
バラバラの5つのエピソードが進み、最後にそれが同時に交差するとても切ない映画ですが、音楽もその5つのエピソードそれぞれにテーマ曲が割り振られ、最後のその5つのテーマが融合するというとても複雑で面白い構造になっています。
映画は、最後にそれぞれのエピソードが交差はするけどもなんの解決も決着もないまま終わります。それだけに音楽共々後を引きます。
これ、サウンドトラック出して欲しいんですけどね。
サウンドトラックは映画が終了したらなかなか売れないし、再発しようにも映画の制作会社が潰れていて権利関係もどうなっているかわからないということが多いんです。そのためサントラ単独で発売される機会は少ないしし出ていたとしても、再発しようと思っても権利を探す段階で諦めてしまうということも多いんです。
ぜひ再発して欲しいサントラが「赤目四十八滝心中遂」。千野秀一によるこのサントラは音楽作品としても掛け値無しの名作です。なのに今やネットで予告も観られません。
この映画、元ハナタラシの大宮イチが重要な役で出ています。寺島しのぶの代表作ではないかと思うくらいの映画ですので、サントラ共々何かの機会で見かけたら是非。
最後に、映画としては全くオススメしませんが、サントラ(CDで発売されていてまだ手に入ります)は傑作の「幽閉者 テロリスト」。日本赤軍の足立正生監督作品で音楽は大友良英です。
映画は正直なかなか厳しいものなんですが音楽はインプロ/音響・アルバムとしてかなり面白いです。
このサントラのレコ発ライヴが当時東京で開催され、その時に観た飴屋法水の机とりんごを使った演奏が驚異的でした。
机とりんご、って意味わからないと思いますが文字通りその二つを使った演奏は「楽器」とはなんなのか、ということを根本からひっくり返されたようなとても衝撃的なものでした。大げさでなく生涯で一番ショックを受けたライヴだったと思います。
今回は劇場映画に限りましたが、歌詞やメロディー、リズムに頼らなくても多彩な表現ができる音楽と映像の相性はとても深いので、これからもそういう映画があれば紹介していきたいと思います。
F.M.N.石橋
:レーベル、企画を行うF.M.N.SoundFactory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82~88年まで京大西部講堂に居住。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。
(文中敬称略)