気分はどうだい? Vol .21 追憶の映画「ウッドストック」

あのウッドストック・フェスティバルから今年で50年。当時数十万人を動員するフェスは全米各地で行われていたのですが、特にウッドストック・フェスティバルが今だに特化したヒッピーの時代、カウンターカルチャーの頂点を示す象徴、伝説となり語り継がれている理由の一つとして映画「ウッドストック」がその大きな役割を果たしたのではないかと思います。今回はこのフェスを記録したドキュメンタリー映画「ウッドストック」のことについて当時リアルタイムで映画館で観た者として書こうと思います。

フェスそのものは1969年8月15日(金)から17日(日)までの3日間ニューヨークの郊外で開催され、約30組のバンドが参加。もちろん当時はインターネット、ましてやYoutubeなどがあるわけはなく、情報などは全くと言っていいほど有りませんでした。その開催される場所ですら・・音楽雑誌もロックに特化したものはなく、「ミュージックライフ」の一情報として取り上げられていたと思います。フェス終了後も大きな特集などは組まれませんでした。どのくらいの日本人が現場にいていたのかは知らないし、近年になって成毛滋や室矢憲治が体験談を書いているくらいだと思います。ただ大観衆の写真の中に日の丸の旗が写っているものがあって、日本人も行っていたのかというのは覚えています。このイベントのことは大手新聞も単なるアメリカのニュースの一情報として伝えていました。

*映画「ウッドストック」オリジナル予告編
Woodstock – Original Theatrical Trailer

そして現在では考えられないのですが公開はアメリカでは翌年の3月、そして日本ではなんと7月25日にやっと『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』として全国で公開されます。上映時間は184分、結構な長さでした。大々的なロードショーというものではなく、ごく普通の映画館・・僕は大阪の梅田新道の近くにあった「梅田シネマ」というところで観たと記憶しています。入場料は学割で400円(たぶん。1970年当時、珈琲一杯が100円、平均月収が5万円前後)多分配給元もこういう種類のまだまだ市民権を得ていないアメリカのロック、そのドキュメンタリーがどういうものか分かっていなかったように思うし、以前のコラムでも書いたのですが、この1969年、1970年というのは戦後の大きな激動の時期であり人々の意識も大きく変わろうとしていた時代でした。69年には人類が初めて月に降り立ち、その様子が衛星中継によって世界中に・・そして日本においては千里の丘陵で大阪万博が開かれており、かたや世界的な規模での学生運動、ベトナム戦争を巡って世界各国での反戦運動、大阪駅の真ん前の交差点では機動隊と学生が衝突し火炎瓶の炎が上がっていました。まさにその時期に日本で公開されたのです。逆に言えばタイミンが良かったのかも分かりません。当時公開された映画の中でも一連のアメリカン・ニューシネマが若者で大きな支持を受けるようになり、あの「イージーライダー」もこの年の1月に日本で公開されています。

サントラ、ポスター、それぞれ動員数が違うのが面白い、新聞は1969年8月21日の読売

で「ウッドストック」のほうに話を戻すと、このフェスの音源を収録した3枚組のレコードのリリースがやはりこの年の同月に、多分このレコードの方を先に聴いていた記憶があります。このフェスに出演していた各アーティストのレコードは持っていたのですが、この時点では出演したすべてのアーティストのことなどはわからず、ここに収録されていたものが全てだったのです。ただしジャニス・ジョプリンなどは収録されておらず彼らの音源が発売されるは随分あとのことになります。この映画で初めてジャニスの映像を観た人がほとんどだったし、他の出演アーティスト達の映像すべてがそうでした。(このフェスより前1967年6月にサンフランシシコのモントレーにおいてモンタレー・ポップ・フェスティバルが開催され、ドキュメンタリー映画が撮られていたのですが公開されたのが77年。そこでのジャニスの映像はずっとあとになって観ることになります。あのギターに火を付けるジミヘンのパフォーマンスもこの時のものです)この時点ではザ・バンド、グレイトフル・デッド、CCR、マウンテンなどの情報もなく、彼らの映像は30年後ぐらいに観ることになります。映画はスクリーンが横に3面割りになっていて、それぞれ別の映像が流れライブシーンになると一画面になるという編集が・・すべてが演奏シーンということではなく、観客や街の様子などがドキュメンタリーとして捉えられていました。まだビデオもない時代、映画館に居座って繰り返し観るしかありませんでした。現在はフェスや映画に関しての色々な書物、音や映像あらゆるものが手に入ります。

現在家にあるウッドストックの映像関係V、DVD等、殆どのものが90年代以降

以前、大阪の朝日放送ラジオで71年から大阪行われているイベント「春一番」のドキュメンタリー特番を制作したとき、プロデューサーである福岡風太にイベントのきっかけを聞いた際「あのウッドストックの映画を見て、あんなのをやろうと思った」と答えていました。多くのプロミュージシャンのインタビューでも度々目にすることがあります。明らかにこの映画の衝撃は大きく、以後音楽業界やミュージシャン各個の意識に変化をもたらし、ロックの捉え方が大きく変化する要因になったことは確かです。

この50周年にあたっては出演者ほぼすべての楽曲(432曲:36時間分)が収録されている究極のCD37枚組のBOX・SET(8.2発売)や新刊「ウッドストック1969: ロックフェスの始まり、熱狂の終わり、50年目の真実」(文藝別冊/ 8/6発売)など色々なものがリリースされるみたいです。そしてアメリカで開催予定の50周年記念コンサート<WOODSTOCK50>は会場や運営サイドとの問題が色々あったみたいですが、会場をメリーランド州に移し「50年前とほぼ同じ日程となる8月16~18日に開く」とマイケル・ラング(1969年フェスのプロデューサーで今回も)が発表しましたが、7月末、残念なことに結局キャンセルになったみたいです。

PS-1:フジロックフェスティバルのYoutube生中継を観ながらこの原稿を。時代はどんどん変わっていきます。

PS-2:カントリージョー&フィッシュ。当時の雰囲気が・・マリファナ!!
Country Joe & The Fish – Rock & Soul Music *live at Woodstock

(文中:敬称略)