Botanical House Vol.6 緊急インタビュー 本日休演

 

 本日休演は常に変化しているバンドだ。筆者は幸い彼らの拠点と同じ京都で生活をしているから、本日休演はもちろんのこと、リーダーでヴォーカリスト/ギタリストの岩出拓十郎の活動やライヴに触れるチャンスがとても多いが、少なくとも岩出は会うたびに異なるモードで音楽に向き合っている。本人はおっとり、のんびりしているし、本日休演自体も積極的ガツガツとライヴやイベントに繰り出しているわけでもないので傍目には確かにマイペースだが、岩出自身は日一日とアップデート、進化していると言っていい。アーティストや作品などの具体的なキーワードはもとより、音作り、録音方法、機材まで、あらゆる組み合わせ…しかも、まだ誰も手をつけていないような突飛なアイデアを岩出は常に思考している。そのすべてが完成してカタチになるとは限らないし、断片のまま収束してしまうこともたびたびあるが、そのトライ&エラーこそが本日休演をプログレスさせていて、そのプロセスがそのまま彼らの作品となっていることは間違いない。

 結成以来のオリジナル・メンバーで岩出と並ぶもう一人のソングライターでヴォーカリスト/ギタリストの佐藤拓朗(接近!UFOズのリーダー)が現在再びバンドと距離を置いているが、それでも岩出にはその危機的状況を生かしてプラスに転じさせる柔軟性と引き出しの多さがある。2018年のフジロックでの素晴らしいパフォーマンスで一定の成果を出した本日休演は現在次なる制作モードに入っているが、岩出のその飄々としたフレキシビリティがあればきっと大丈夫だろう。

 そんな本日休演は10/12に京都磔磔で開催される企画イベント『Botanical House Vol.6』に出演する。対バンは、岩出もリスペクトする「渚にて」、そして同じ京都を拠点とする「数えきれない」。いろいろなアイデアに手を出しても最終的に「日本語ロック」というフォルムの中で勝負する本日休演。バンド進化のカギを握る岩出に現在の本日休演について語ってもらった。

――去年、サード・アルバム『アイラブユー』をリリースしてからの本日休演の活動についてまずおしえてください。今は新曲を多くライヴで発表していますが、『アイラブユー』以降の岩出くんの創作モードとして、何かテーマになっているもの、リファレンスになっているもの、音楽的なヴィジョンになっているものがあればおしえてください。

岩出拓十郎:ライブでは新曲は4曲くらいやってます。「アレルギー」「何もない日」「線路」「ウソの旅」などです。ライブでまだやってない新曲も結構あります。『アイラブユー』以降、しばらくキーボード無しでギター2人、ベース、ドラムの編成でライブをしていたので、バンドがソリッドになってタイミングを好きにズラしたりすることに、より自覚的になった気がします。現在は佐藤(拓朗)以外のメンバー3人+サポートの人という感じです。ギターかキーボードで入ってもらってます。3人で骨を作って、そこにサポートの人が何かフレーズを入れてもらって曲の推進力やダイナミズムを出してもらう形になってます。バンドで作ってきたタイム感やセッション感覚を共有するのはなかなか難しく色々試行錯誤中です。以前からタイム感を重視して曲を作ったりしていましたが、もっと身体的な感覚で、時には重力や偶然に任せるようなリズムの揺らし方、それを他の人が回収するようなセッション感覚は人数が減ったからやりやすくなったのかもしれません。

 ただそれとは相反しているかはわかりませんが、できる曲はメロウな曲が多いですし、チェリーレッド(レーベル)のネオアコ・コンピやステレオラブを聴いたりしてます。ジョン・レノンの『ロックンロール』や戸張大輔みたいなエコーにまみれたような音像のものを作りたい気持ちもあります。

 演奏の機微ばっかり鮮明な音で聴いてもしんどいし、いい音像のムードあるものが聴きたいです。だからこれからの方向はバンドの身体性と自分の中のエコーメロウムードを掛け合わせたものになるかなと思います。これまでと同じといえば同じですが。

 あと最近もっと宇宙的でありたいと思ってますね。何が宇宙的ななのかわかりませんが、とにかくもっといけると思ってます。虫の声とか聴いてますね。トレンドとかが一番いらないかな。身体と空間はやはり宇宙的だと思います。その二つをどう交わらせていくかが鍵な気がします。

――本日休演はこれまでに3枚のアルバムを発表し、その3作品ともが実は全く異なるタイプの作品になっていることに改めて気付かされます。これまでの3枚のアルバムを今の感覚で位置づけてもらえますか?

岩出:ファーストの『本日休演』。これはバンド初期の何も固まってない感じ。確かバンドをやるとき呪術的かつポップという漠然としたコンセプトがあったが、このアルバムに反映されているのかどうか。やりたいことを手当たり次第にやるという勢いはある。演奏も歌も下手。ちょうど大学に来て、吉田寮やその中の厨房とか訳の分からない場所があって、録音も全部東京の友達が始めたレーベル(ミロク)のジョーくんがやってくれて、アイデアを出し合って1週間くらいでガーッと録った。制限も知らないので、吉田寮に落ちていた楽器も使い尽くして、何でもやってやるぜ俺たちは生きてるんだ、とかいった実感を得ていた。素直にバンドしてると思います。この時のライブは初期衝動にまみれてました。埜口(敏博)が途中で叫び出したりとか。「何でもやってやれ期」。

 セカンドの『けむをまけ』はアコースティックで風通しの良いものをパッと作ろうとジョーくんのアイデアから始まったのでフォーキーなアルバムだけど、途中でそれもどうでもよくなった。この頃、北アラブ音楽やレゲエなどをバンドに取り込み、リズムに目覚めた。樋口(拓美)という色々やってくれるドラマーに交代したのも大きいかもしれない。また埜口の曲のアレンジに顕著ですけど、ライブでの「ひとりランデブー」などはデモやファーストの演奏のヨレた感じを推し進めたり、「青空列車」ではパソコン上で切り刻んでループした感じをその場で実際に演奏したりというような、メタ的な視点を入れてアレンジをするようになっていきました。アルバムではVHSやアンプやテープに通したり外で録音したり、曲ごとに質感を少し変えたり。これはバンドの中に僕以外にもソングライターがたくさんいたということもあるし、ライブでも毎回アレンジを変えたり、同じことはやらない精神がより自覚的になった結果かもしれない。またベースの有泉(慧)がヴェイパーウェイブが好きでそれをみんなで聴き、音像により興味が湧いた。「リズム&メタ音像実験期」。

 サードの『アイラブユー』に着手する前、けむ」以降の実験性が暴走してライブでもアレンジをどんどん進化させていき最終的にメタ的になりすぎて演劇的になったりエクストームな方向にいって、曲の体が腐り落ちる。それで初心に戻りもっといい演奏をしようとなった。ちょうどヒップホップのヨレビートにもハマっていて、それを自然にやるには身体に落とし込み、グルーヴについてもっとちゃんと考えなきゃいけない。3年くらい「アラブのクエスチョン」を演奏して6連でも5連でもない訛ったリズムを俺たちは体得していたので、ヒップホップ的なヨレもそのリズムの延長にあり難なくできた。この辺から身体的な演奏に意識がいった。「全てにさよなら」では演奏のヨレを図で描いてそれを身体化した。アルバム構想では、影響を受けたヴェイパーウェイブ的音像や世界観などを自分たちの身体的演奏や曲にどう反映できるかを考えた。ムーンライダーズのトリビュート・アルバムへの参加曲である「ヴィデオボーイ」などがその例です。

 けれど構想中に埜口が亡くなって、埜口の残した素材を使うことと生きている自分の演奏に合わせるということの方が意味のあることでリアルだと思えた。自分たちの身体と音源になった埜口の霊魂、という2つの要素ができたんです。それで晴れて埜口が残した曲や自分の曲も、自ずと物語性を帯びはじめた。ライブ演奏もエモいものになっていきました。

 埜口の生前のライブ音源を古めかしい良い音質にしてアルバムの最後に置くと、アルバムとしての物語が昇華してメタもリアルも超越した。音像やメタ思考というリスナー的視点より、そういったものが本来喚起するはずの時間を超越した魂の世界が開けた気がします。そういう意味では少しカルト的になったかもしれない。「身体魂期」。

――さて、現在は岩出くん一人のソングライター体制になっていますが、この状況を岩出くん自身はどのように受け止め、どのように有効的に展開していこうとしていますか?

岩出:結局そうなったかという感じです。さみしくもあります。前は賑やかだったので。ただそういう状況で自分ばかりが歌っていると、シンガーとして自覚的になり、前は恥ずかしさみたいなものもありましたが、淡々と山を登るような心持ちに近くなった気がします。曲自体も以前より自分の生活や人生の物語に沿っている内容になりました。それでメロウで暗い曲が増えたのかも。ソングライターが1人なのでバンドの世界観もそれがそのまま反映されて、これまでより個人的になっていくかもしれません。特にどうしようとかよりそのまま出たものをやっていくのがいいと思っています。アレンジについても、曲を繰り返して、その都度、ここは違うとか何が足りないとかみんなで考えます。基本的に各自のフレーズは考えてもらってます。ドラムのタイム感を言ったり「物音感」を意識してやってもらうことが多いです。

――岩出くん個人は、この1、2年ほどで積極的に鈴木博文、ギリシャラブ、現在作業中という京都の女性3ピース・バンドの象の背などをプロデュースしています。プロデューサーとしての作業で最も難しい部分、重要視しているのは、具体的にどういうところにありますか?

岩出:プロデュースと言っても何をするのかよくわからないです。余計なことするくらいなら別に何もしない方がいいような気もしますし。雑用みたいなことだけやる場合もあります。その人の良さの根本的な部分は何かは考えます。それに沿って自分が何ができるか。音楽的にもっとこうというところは手伝えるけど、それによってその人の感じを消さないようにしたいです。バンドの場合は一員みたいになって一緒にアイデアを出して考えたりすることが多いです。博文さんは歌声も「この人」というのがあるので、曲の印象とか歌の内容で感じたことをもとに好き勝手にこっちでやらせてもらいました。

――また、プレイヤーとしてもラッキーオールドサンのサポート、河内宙夢&イマジナリーフレンズ、ラバーズ・ロック~レゲエ系のバンドであるラブワンダーランドなどでベースやギターを弾いています。多くのバンドをかけもちしたりセッションすることで、本日休演にフィードバックされるのはどういう部分でしょうか?

岩出:それぞれのバンドによって違います。まずラッキーオールドサンについては、一緒にサポートしている田中ヤコブくんがめちゃたくさん弾くから渋いサイドマンでやってます。基本的にリズムギターとちょろっとオブリガードだけでどれだけ貢献できるか、また他の人の音にどう足せるか。そんなに弾かなくても成り立つことや結構弾いても別にいいことなどがわかりました。

 河内宙夢&イマジナリーフレンズではベースを弾いてます。一番低音によってリズムを揺らすと結構影響力がある。その辺りを思いっきりできるのでやってます。ベースは弾かなくても主張があって面白い、ギターでも同じようにやってみてもいいし、本日休演のベースでそれをやってもらっても面白いかもしれないです。またベースもギターと同じくらい思い切りカッティングのように弾くと、ギターより弦の圧力が強い。だから腕のカッティング圧が上がりました。

 ラブワンダーランドはレゲエの形式の中でのより細かな部分でのグルーヴの研究、ベースのスウィング感、ドラムとの噛み合わせ、ギター・カッティングの抑制の仕方などなど、レゲエはやはり難しいので学ぶことが多いですね。

また録音したものをいろいろいじったり、ディレイとヴィヴラートをどう使うかなど試してます。このバンドは他のバンドよりもメタ感は強くて音像にこだわりたいと思ってます。そのあたりが本日休演にも返ってきてます。バンドや曲のテーマも彼岸や夢についてで、生身の肉体で演奏することとその情景の距離感、バランスについて考えてます。メンバーと共有するのも結構難しいです。自分が得意とするようなパンク・カッティングも自意識がありすぎるし、かといってうまく演奏すると油断して普通のバンドになりそうだし、その辺の微妙なバランスについて考えたいですね。それこそプロデューサー的感覚なのかもしれませんが、バンドの演奏者としてはもっと祝祭的な祈る人の立場としていたいです。まあ、結局、本日休演もこれと似たようなことをやっていると思います。

――さて、現在、ニュー・アルバムの制作はどのような状態で進んでいるのでしょうか? リリースの目処もあわせまして、現在の様子をおしえてください。

岩出:録音は年内に終わらせて、来年には7インチ・シングルやアルバムなどなど出す予定です。全て《New Folk》(ラッキーオールドサン、台風クラブなどをリリースするレーベル)からです。プロデュースでは現在、象の背と伊藤尚樹くんを手伝ってます。チェックしてみてほしいです。

――京大軽音部から誕生した本日休演と岩出くんは2010年代以降の京都のインディー・シーンを大きく変えた重要アーティストですが、自分たちが活動することによって京都の音楽の現場のどういうところを変えたと自覚していますか?

岩出:そう言ってもらえて光栄ですが、それ以前をあまり知らないので、何を変えたかよくわからないんです。自分の周りに共感できる人達がいて、使える場所もあって、やれることがあるからやっているという感じです。京都のサイズ感や磁場のようなものの影響はある気がします。良くも悪くも同じ人達とずっと一緒にいちゃう感じとか。いつまで京都にいるかはわかりませんが、生かしつつやっていけたらと思います。周りにいい曲を作れる人が何人かいますし、アレンジと録音も一応できる、映像も撮ってる人もいるので、その辺りの人で提供したりバックをやったりというのもやってみたいですね。まだ計画段階ですが。うまく行きそうならそのメンバーでアルバムまるごとアイドルに提供とかできたら面白いです。もちろん河内くんやラブワンダーランド、象の背とイベントなんかもやりたいです。

――今回出演してもらう『Botanical House』は京都・磔磔で行われているレギュラー・イベントです。京都という町、磔磔という場所での思い出があればいくつかおしえてください。

岩出:磔磔はたまに音が難しいです。ちゃんとリハができないと失敗しますので、怖いことが多いですね。空間現代と対バンした時は、息づかいから音の響き方まで完璧な演奏の空間現代に比べて、自分たちの演奏がダメすぎて恥ずかしくて解散しようかと思いました。あと、磔磔の楽屋は大きいテーブルが二つあるんですが、どついたるねんと対バンしたときに、ドラムの樋口が1人でどついたるねんのテーブルに乗り込んで全員と渡りあっていて「凄い」と思ったのが印象に残ってます。樋口以外は違うテーブルでそれを見ながら肩もみ合ってたんですけど。ちょうど埜口の最後のライブだったかと思います。磔磔の楽屋に来るたびにそれを思い出します。

インタビュアー:岡村詩野