気分はどうだい? Vol .24 「死者のカタログ」
- 2019.11.07
- KYOTO
2019年も残り2ヶ月、今年も多くのロック・ミュージシャン達が世を去りました。この原稿を書いている最中もリトル・フィートのポール・バレア(71)の訃報が…今回はロック・ミュージシャンの「死」について思うところを・・
最近は昔出版された音楽に関する本や雑誌を読み返すことが多いのですが、その一冊に1979年2月25日にニューミュージック・マガジン社から増刊号としては3冊目となる「死者のカタログ」―ミュージシャンの死とその時代-―を読み返しました・・この本は50年代、60年代、70年代のそれぞれの時代のロック・ミュージシャンの死から浮かび上がるそれぞれの人生(時代)を捉えようとしています。これが出版されて既に40年。音楽雑誌『ニュー・ミュージック・マガジン』が『ミュージック・マガジン』に誌名を変更する1年前。編集者、執筆陣もほとんどがまだ30代前後。この本が出た1979年のこの時点ではジョン・レノン、ボブ・マーレー、イアン・カーティス、(シド・ヴィシャス・79年の2月に亡くなっているのですがこの本にはまだ出ていない)もまだ存命でした。70年代を総括すると言うことで最後の年に企画、出版されたのだと思います。(以後No2は制作されていません)2019年の今でもロック・ミュージシャンの死といえば1970年初頭にいずれも27歳で亡くなったジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス、ジム・モリソンがアイコンとして登場してくるわけですが。
40年前この増刊をリアルタイムで読んでいた時(29歳でした)は読者も勿論ミュージシャン達も自分たちの人生が今後どうなっていくかなど10年先のことでさえわからなかったし、ましてや40年後など想像すら出来るものではありませんでした。1979年、ロックというジャンルが認知され最も勢いのある時代だったのです。50年代中頃から登場したロックンロール、そしてその「ロック」が時代と呼応した激動の60年代、ビートルズの解散で始まった70年代、ロックはさらに大きな市場を獲得していくことになります。この年もパンクという新しいムーブメントが登場し(日本においてはインベーダーゲームの大ブームであり、YMOなどのテクノが)まだまだ新しいバンド、新しい音楽の形態が次々と登場してきました。まだ「新しい」という言葉が通用した時代だったのです。
60年代後半から70年代初頭、彼らの死そのものがセンセーショナルなものであればあるほど、それがロック的なものとして捉えられていくようになります。勿論それらミュージシャンを支持していたリスナーにとっては大きなショックであり喪失感がありました。リストアップされた7割以上のミュージシャンが20代の若さで世を去り、200人近い死者のほとんどが、なんらかな意味で突発的な死に方をしているとも書かれています。
その「死」が最も大きな意味を持ったのはこの本が出版された翌年1980年12月8日のジョン・レノンの死でした。全く誰もが予想もしなかった最期。この事件によりビートルズの時代は完全に終わったということを誰もが実感せざるを得なくなります。
60年代後半までの<ROCK>は当時の大人達や社会を否定し反抗、対抗していく武器としての反体制的(カウンター・カルチュアー/ 対抗文化)な若者の音楽であり、世界中の若者が叫んだ「DON’T TRUST OVER 30(ドント・トラスト・オーバー・サーティー)」=「30歳以上の大人を信用するな」のスローガン。しかし70年代後半、それを声高々に言っていた者達が30歳を越えようとしたまさにその時期だったのです。サブカルチャーだったロックが商業主義的なメインカルチャーになった時期でもありました。
この本の中には30歳になったばかりの大滝詠一のインタビュー(写真)、そして松平 維秋、中村とうよう、相倉久人、石坂敬一などがミュージシャンの死について素晴らしい洞察で文章を寄稿しています。すべて故人・・40年の時の流れを感じます。
そして、あとがきに『「70年代」に死したミュージシャンの特徴はハッキリしている。(中略)60年代、あるいはかつての自分をひきずっていたことだ。そしてその死に方は、決して美的ではない。暗い影がある。彼らの死は、意地悪い言い方をすれば、70年代を生き抜けなかったということだ。』そしてさらに『このことは、ミュージシャンに限ったことではない。ミュージシャンとともに生きてきた聴き手にもつながることであり、同時代を生きる人間すべてにつながることだ(中略)だが問題なのは「死ねない」ミュージシャン、そして「生まれてきたミュージシャン」、そして「死ねない」聴き手、「生まれてきた聴き手だ』とも・・
1950年中頃に誕生した<ROCK>…プレスリー登場から65年、多くのロック・スターが生まれそして消えていきました。そして今<ロックの世紀>で最も中心的な役割を担っていたミュージシャン達、リスナー達そのものが消えようとしているそんな時代の始まりだと思うのです。
<敬称略>
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<60年代終わりから70年代に死亡した主なミュージシャン>
*以前この増刊「死者のカタログ」を元にUPされていたものに追加修正し資料として再掲載。区切りとして1967年~1979年、ロック系が中心。勿論このリスト以外にも多くのミュージシャンが…
<1967年>
ジョン:コルトレーン(1926.9.23-1967.7.17:肝臓炎)
*ブライアン・エプスタイン(1934.9.19-1967.8.27:ドラッグ)
ウディ・ガスリー(1912.7.14-1967.9.3:ハンチントン舞踏病)
オーティス・レディング(1941.9.9-1967.12.10:飛行機事故)
<1968年>
フランキー・ライモン/The Teenagers(1942.9.30-1968.2.28:ドラック)
ウェス・モンゴメリー(1925.3.6-1968.6.15:心臓障害)
<1969年>
ジュディ・ガーランド(1922.6.10-1969.6.22:ドラック)
ショーティ・ロング(1940.5.20-1969.6.29:溺死)
ブライアン・ジョーンズ/The Rolling Stones(1942.2.28-1969.7.3:溺死)
*シャロン・テート(1943.1.24-1969.8.9 :マンソン・ファミリーにより刺殺)
*レナード・チェス/チェス・レコード社長(1917.3.12-1969.10.16:心臓麻痺)
マジック・サム(1937.2.14-1969.12.1:心臓麻痺)
*メレディス・ハンター/オルタモント-フェスの観客(1969.12.6:撲殺18歳)
<1970年>
ビリー・スチュワート(1937-1970.1.17:自動車事故)
ジェイムズ・シェパード(1935.9.24-1970.1.24:強盗殺人)
タミー・テレル(1945.4.29-1970.3.16:脳腫瘍)
アル・ウィルスン/Canned Heat(1943.7.4-1970.9.3:ドラック)
ジミ・ヘンドリックス(1942.11.27-1970.9.18:窒息死)
ジャニス・ジョプリン(1943.1.19-1970.10.4:ドラック)
アルバート・アイラー(1936.7.13-1970.11.25:自殺)
<1971年>
キング・カーティス(1934.2.7-1971.5.13:刺殺)
ジム・モリスン/The Doors(1943.12.8-1971.7.3:入浴中心臓麻痺)
ルイ・アームストロング(1900.7.4-1971.7.6:心臓障害)
ジーン・ヴィンセント(1935.2.11-1971.10.12:潰瘍)
デュアン・オールマン/ABB(1946.11.20-1971.10.29:オートバイ事故)
<1972年>
マヘリア・ジャクソン(1911.10.26-1972.1.27:心臓麻痺)
リー・モーガン(1938.7.10-1972.2.18:射殺)
レス・ハーヴェイ/Stone the Crows(1944.9.13-1972.5.3:感電死)
ブライアン・コール/The Association(1942.9.8-1972.8.2:ドラック)
ベリー・オークリー/ABB(1948.4.4-1972.11.11:オートバイ事故)
ダニー・ウィットン/Crazy Horse(1943.5.8-1972.11.18:ドラック)
<1973年>
ロン・マッカーナン/Grateful Dead(1946.9.8-1973.3.8:肝硬変)
クラレンス・ホワイト/The Byrds(1944.6.6-1973.7.19:自動車事故)
ポール・ウィリアムス/The Temptations(1939.7.2-1973.8.17:自殺)
グラム・パースンズ(1946.11.5-1973.9.19:ドラック)
ジム・クロウチ(1943.1.10-1973.9.20:飛行機事故)
ジョン・ロスティル/The Shadows(1942.6.16-1973.11.2:感電死)
ボビー・ダーリン(1936.5.14-1973.12.20:心臓障害)
<1974年>
ヴィニー・テイラー/SHANANA(1949-1974.4.17:ドラック)
グレアム・ボンド(1937.10.28 -1974.5.8:自殺)
デューク・エリントン(1899.4.29-1974.5.24:癌)
キャス・エリオット/The Mamas & the Papas(1941-9.13-1974.7.29:心臓病)
ビル・チェイス/Chase(1934.10.20-1974.8.9:飛行機事故)
他メンバーのウォーリー・ヤーン、ウォルト・クラーク、ジョン・エマも死亡
ロビー・マッキントッシュ/Average White Band(1950.5.6-1974.9.23:薬殺)
ニック・ドレイク(1948.6.19-1974.10.25:自殺)
<1975年>
T・ボーン・ウオーカー(191.5.28-1975.3.16 :肺炎)
ピート・ハム /Badfinger(1947.4.2-1975.4.27:自殺)
テイム・バックリー(1947.2.14-1975.6.29:ドラック)
アル・ジャクスン/Booker T.&the MG’s(1935.11.27-1975.10.1:射殺)
<1976年>
ハウリン・ウルフ(1910.6.10-1976.1.10:手術合併症)
ゲイリー・テイン/Uriah Heep(1948-1976.3.19:ドラック)
ポール・コゾフ/FREE(1950.9.14-1976.3.19:ドラック)
ダスター・ベネット(1946.923-1976.3.26:自動車事故)
フィル・オクス(1940.12.19-1976.4.8:自殺)
キース・レルフ/The Yardbirds(1943.3.20-1976.5.12:自宅で感電死)
フィル・リード/Flo & Eddie(1951-1976.11:転落死)
トミー・ボーリン(1951.8.1-1976.12.4:ドラック)
フレディー・キング(1934.9.30-1976.12.28:心不全)
<1977年>
スリーピー・ジョン・エスティス(1904.1.25-1977.6.15:脳梗塞)
エルヴィス・プレスリー(1935.1.8-1977.8.16:心臓麻痺)
マーク・ボラン/T. Rex(1947.5.8-1977.9.16:自動車事故)
ビング・クロスビー(1904.5.2-1977.10.14:心臓麻痺)
ロニー・ヴァン・ザント/Lynyrd Skynyrd (1948.1.15-1977.1020:飛行機事故)
スティーヴ・ゲインズ/Lynyrd Skynyrd (1949.9.14-1977.10.20:飛行機事故)
キャシー・ゲインズ/Lynyrd Skynyrd (1948.1.9-1977.10.20:飛行機事故)
ローランド・カーク(1935.8.7-1977.12.5:脳卒中)
<1978年>
グレゴリー・ハバート/BS&T(1947.5.19-1978.1.31:ドラック)
テリー・カス/Chicago1946.1.31-1978.1.24:ピストル事故)
リック・エヴァース/キャロル・キング元夫(1978.3.21:ドラック)
サンディーデニー/Fairport Convention (1947.1.16-1978.4.24:脳内出血)
キース・ムーン/The WHO(1946.10.23-1978.9.7:ドラック)
ジャック・ブレル(1929.4.8-1978.10.9:肺血栓)
<1979年>
チャールズ・ミンガス(1922.4.22-1979.1.5:急性心筋梗塞)
ダニー・ハサウェイ(1945.10.1-1979.1.13:自殺)
シド・ヴィシャス/Sex Pistols (1957.5.10-1979.2.2:ドラッグ)
ローウェル・ジョージ/Little Feat (1945.4.13-1979.6.29:ドラッグ)
ミニー・リパートン(1947.11.8-1979.7.12:癌)
<参考資料>
70年代発売のニューミュージックマガジンのスクラップ・ブック
ニューミュージックマガジン年鑑
ニューミュージックマガジン1979年2月増刊号「死者のカタログ」