カレー屋店主の辛い呟き Vol.24
- 2019.12.01
- OSAKA
「渡辺信一郎についてのあれこれ」
大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の”ふぁにあ”と申します。
なんだかこの頃、急に寒いですな。ミナサマいかがお過ごしでしょうか?
ドアが無くて半分屋台みたいなウチの店にも、受難の季節がやってきました。ついに、冬の命綱のストーブに火を入れ、ヌクヌクとするもぼんやりした毎日を送っています。十中八九お客さんに「眠そうですね?」と言われるもんな。最近。あー何書こう。なんか全然頭が働かないや。毎月だらだらと文章を書かせてもらって、今回で24回目と早や2年。何書こうか思いつかない時もあるんだな。基本カレー屋アンド飲み屋なので面白エピソード満載の毎日でもないし。うーん。
と熟慮した結果、今回は結構前に書こうと思ったネタを思い出しながら書いてみようかと。それは、アニメの演出・監督の渡辺信一郎さんについてのお話。みなさんお馴染みの!って…。んっ?ウチのお客さんに聞いても意外と知らないんだな。ちょうどいいテーマなのかもね。
■渡辺信一郎って誰?
別にアニメオタクじゃないけど「渡辺信一郎」作品は、監督名だけでワクワク。僕にとっては宮崎駿、細田守、今敏、んで今をときめく新海誠なんかと同じで、「監督買い」出来る監督さん。この人の作品から溢れ出る音楽愛、そして絵が無くてもヘビロテするサウンドトラックに感動や感心をもらってます。実は、前にこの人について書こうと思ったのは、今年の4月。監督としては5年ぶりのシリーズ「キャロル&チューズデイ」が始まるタイミングでした。結果その時は違うコト書いちゃったのだけど。後でその「キャロル&チューズデイ」については書くとして、先に渡辺信一郎氏についてご紹介しますね。
一般的に彼の評価を決定づけたのが、監督として初のテレビシリーズとなる1998年に放映された「カーボーイビバップ」。僕も深夜にやっていたこのアニメの放送をたまたま見てたちまち「渡辺信一郎」作品の虜に。
賞金稼ぎの一味が2071年の火星を中心とした太陽系を舞台に活躍するSFなアニメ作品。なんてーか、粋な台詞回しや、クールな映像はルパンというか、松田優作の「探偵物語」。基本ハードボイルドな雰囲気だけどドタバタコメディの回もあって、なんだか主人公達と一緒にこのアニメの中で生きているように感じた作品でした。そしてこの監督の大きな特徴である効果的な劇伴。20年後の今見ても新鮮。
ファンの中で人気の最終話名シーン。
死地へ向かう主人公「スパイク」、止めない相棒「ジェット」と、止めたい「フェイ」の対比。ブルースなスライドギターからの主題歌。ハードボイルド感全開!
そして、2004年に放映された「サムライチャンプルー」
オープニング。Nujabes&singo2の「battlecry」
アニメタイアップな主題歌全盛の中、異質でカッコ良すぎ! 江戸時代の日本が舞台なんだけど、監督自身が好むヒップホップカルチャーが全編を通じて根底にあって、ブレイクダンスを用いた殺陣とか、音楽だけじゃないその世界観。全編のBGはNujabesとかFORCE OF NATUREとかのHIPHOPやアブストラクト~クラブミュージック。ちなみに「サムライチャンプルー」のサントラは未だに良く聴く好盤。よくこんな企画通ったなと思わせてくれる、マネージメントを含めた製作者側の良心や熱意が感じられる作品です。そして、「渡辺信一郎」作品のイチ特徴でもある、登場キャラクターの文化や風俗を含めた多民族感と、聖地巡礼(ファンがアニメのモデルとなった場所を巡るやつ)的な、僕たちの日常にアニメの世界観を近づけるのではなくて、アニメの中の世界を作りきる箱庭の中のリアル。この作品でもその特徴が色濃く出ています。そして、この2作品は欧米でも放映され、カルト的評価を受けることとなります。
2013年には久々の監督作品となる「坂道のアポロン」。
「坂道のアポロン」演奏シーン。少女漫画原作のジャズが物語の重要なピースになってる作品。
2017年にはサイバーパンクの古典「ブレードランナー」の続編「ブレードランナー2049」が劇場公開される少し前のタイミングで、旧作と新作を繋ぐアニメ「ブレードランナーブラックアウト2022」を制作。
『ブレードランナー 2049』の制作スタジオであるAlcon Entertainmentから
オファー受け作られた短編アニメーション。これタダで見れるクオリティじゃないよな…。
Flying Lotus「More」 (feat. Anderson .Paak)のPV。
ブレードランナーの時にもコンビを組んだ「Flying Lotus」と再タッグを組んだPV。Flying Lotusはもともと「カーボーイビバップ」からの大ファン。ちなみに余談だけど、彼の主宰する「Brainfeeder」や「Stones Throw」などのレーベルのアーティスト達は渡辺信一郎のファンが多いんです。僕もあるアーティストの来日時にレーベルサイドからコンタクトを取れないかと聞かれたことがあります。
と、彼の仕事を簡単にここまで列挙してきた訳ですが、各作品テーマやテイストは違えど共通するのは彼の作家性の高さとゆーか、架空の世界を作り上げる世界観へのこだわりの強さ。なので、その世界観にどっぷりダイブできた人達からは熱狂的支持を集めるけど、入り込めない人はどーしていいのかわからんと。
そして、その世界観に入り込むチケットの役割をしているのが、僕にとっては彼が作品で使用する音楽だったりします。なのでね、ミュージックラバーが多いだろうこのコラムを読んでくれた方には一度彼の作品を見てもらいたいんだよな。
■新作「キャロル&チューズデイ」について
OP。楽曲提供はNulbarich
今年の4月から10月まで放映されていたこのアニメ。物語は人類が火星に移住してから約50年後、AIが音楽を提供するようになった時代において、2人の少女が協力して音楽を生み出しながらミュージシャンを目指すというゴリゴリの音楽モノ。渡辺氏自身も「音楽マニアとしては、いつか音楽ものをライフワークとしてやらねばなるまいと思っていた」とインタビューで語っていた意欲作。後に話しますけど、いろいろと音楽愛がデカすぎて、スケールもドーンとアホな具合。ようやったなと思います。マジメな話。
で、今作品最大の特徴は、主題歌および作中歌を、声優とは別の歌い手が担当するというコト。NETFLIXで全世界放映が決まっていたこともあって「世界のどこに持っていっても通じる音楽にしたい」という希望から全編英語歌詞。これも日本製のアニメとしては相当に異例。
そしてね。全編の音楽を担当するのが「Mockey」。個人的に記事見返しながらプチ熱狂。セレクト渋すぎる…。
Birds of a Feather 2015年のライブ。いいライブ!
「Mockey」ことドミニク・ジャンカルロ・サロレは、ファイストやジェイミー・リデル、ジェーン・バーキンなどの作品にも参加しているカナダ出身のマルチプレイヤー。今年日本でライブツアーしてましたね。
行けなかったけどさ。
で、主役の2人の少女キャロル&チューズデイと重要な登場人物であるアンジェラの歌い手には、全世界オーディションで、3人の女性シンガーを選び、そのシンガー達と、各回で登場するアーティスト達が歌う作中歌のコンポーザー陣がまた豪華。ずらっと書き出すと
Eirik Glambek Bøe (Kings of Convenience/キングオブコンビニエンス)
Evan “Kidd” Bogart (エヴァン・”キッド”・ボガート)
Tim Rice-Oxley (Keane) (ティム・ライス・オクスリー/キーン)
☆Taku Takahashi(m-flo)(タク・タカハシ(エム-フロウ))
Madison McFerrin (マディソン・マクファーリン)
Taylor McFerrin (テイラー・マクファーリン)
Alison Wonderland (アリソン・ワンダーランド)
Justin Hayward-Young (ジャスティン・ヤング)
何だこれ(笑)今年のフジロック第一弾アーティスト決まりました!って言ってこのままこのリスト出しても通用しそうなメンツだし、なんかメジャーな人からアンダーグラウンドな人まで、そしてアコースティックからゴリゴリのEDMまで…。いいバランスだし。個人的にこれがフェスのラインナップだったら確実に参戦してるハズ。アニメのHP(http://caroleandtuesday.com/music/?lang=ja)で詳しくこのアーティストさん達のBIOがあるので、ご興味のある方は是非。
ちなみにThundercatさんは歌ってますよ。
絵は動いてないけど。キャラがサンダーキャット笑
渡辺信一郎氏の音楽オタクぶりと音楽愛がここまで書いただけでも爆発している今作品。面白い取り組みもあってNordやギブソンなんかの実在する海外楽器メーカーとタイアップして、作中の楽器に企業ロゴが入っているんだな。やっぱり主役には、ギブソンのハミングバードを持たしたかったんだよ。きっと。ハチドリかわいいし。そして、作中の音楽シーンは渡辺氏の過去作「坂道のアポロン」でも使われた、歌手や演奏家・ダンサーのパフォーマンスをマルチカメラで撮影して、それをガイドにアニメーターが手描きで作画するという手法でパフォーマンスの臨場感を再現と、一人の音楽オタクが、音楽の魅力に全力で向かい合ったような作品。音楽が好きな人ならクスリとする場面もチラホラあるワケです。
で、そんな舞台装置の上で跳ね回るキャラクターの原案は、30代以上の方なら「ツルモク独身寮」で、若い人は日清のCMシリーズなんかでもお馴染みの、僕も大好きな窪之内英策。
HUNGRY DAYS × BUMP OF CHICKEN 「記念撮影」フルバージョン
個人的にツボな部分がタップリな作品でした。アニメに興味の無い方でも音楽が好きな人なら引っかかるトコたくさんあるんじゃないですかね。「音楽の力を信じる的」ストーリーなんだけど、ある種、渡辺信一郎監督を筆頭に制作陣も、「音楽の力」を信じて作った音楽に特化した作品なんだと思います。
ラストの「We are the world」的楽曲。
ビヨンセの「Halo」の作曲者でもあるEvan “Kidd” Bogart作。
こういうエモいバラード得意です。
↓
一応、参考ビヨンセの「Halo」
と、ここまで「渡辺信一郎」氏の作品についてご紹介してきましたが興味少しでも湧いてきましたか?
00年代に比べると、最近少なくなってきた大人が楽しめるアニメ。冬の夜長に渡辺信一郎作品でもいかがでしょ。Netflixなんかで見れると思いますよ。(たぶん)次回作がどんな形のものになるのか楽しみです。では、今回はこのあたりで。