第25回 Unknown Pleasures: Inside Joy Division (English Edition) Kindle版
- 2019.12.03
- COLUMN FROM VISITOR
前回このコラムを書いた時、半分しか読んでなかったポスト・パンク・バンド、ジョイ・ディヴィジョンのオーラル・ヒストリー本『この妬けるほどの光、この太陽、そしてそれ以外の何もかも』全部読みました。イアン・カーチスの奥さんデボラ・カーチスが「彼はサッチャーを素晴らしいと考えていました」と語っていて、あっやっぱりと思いました。ポジティヴ・パンクというバンドたちはそういうバンドだったわけです。荒廃した都市の中で「イアンは興味を惹かれていました。ああした華麗さ、制服だの威風堂々な行進といったもののすべてが好きだったんだと思います」(デボラ・カーチス)というように、別にそれで民族浄化をしたりする気はないと思うけど、パンクの混沌の中でそういったものに憧れたのはよく分かる。そして、何もかも嫌になって死を選んだことも。いやよく分からないか、この本を読んでもよく分からなかった。残された人たちも一体何が起こったのかまるで分かっていない。死というか自殺というのはそういうものかもしれない。
でもなぜ彼らが今も重要なバンドなのかそれはよく分かっている。バンドの取り巻きの一人だったジョン・ウォズンクロフトが「彼らがディジタル時代のパラダイムになっていたもの、その多くをあの頃から扱っていたからです。疎外、孤独感、空間、実体性、都市空間、こういったものすべては基本的にディジタルな美意識であって我々がこうして現在いることになったその状態を彼らは二十五年か三十年くらい前に取り上げていた。」答えている。なんとなくなく分かるけど、分からない。でも今僕たちは今の僕たちのこの状況を表現してくれるバンド、打破してくれるバンドを求めている。そんなバンドがいないから、僕たちはもう終わってしまっているのに、彼らに救いを求めるのだ。
難しい話になってしまったが、僕が彼らに一番求めていたのはレーベルのオーナー、トニー・ウィルソンの「ロックンロールの偉大なところは、くだらん御託だのハイプだのその他あれこれなんてものどころか、あれが実に、まったくもって正直である点でね。すべては歌に尽きるんだよ。どれだけバンドに金をかけたところで、素晴らしい曲がなければ、二千万ポンドかけたって一銭も入ってきやしない。」に尽きると思う、だから僕は彼らの伝記を読みまくるのである。彼らがどういうバンドなのかよく分かる。カンのようなドラム、ストゥージズのようなギター、これらの音がうるさすぎて聴こえないから高音部分ばかり弾いたベース、そして、ジム・モリソンをもっと下手くそにしたようなヴォーカル、これらを足せばジョイ・ディヴィジョンになるような気がするんだけど、ならないんだよ。
ジョイ・ディヴィジョンになくてはならい要素って、なんなのかと思うんですけど、やっぱりベースのピーター・フックのバカっぽさでしょうか。彼の自伝『アンノン・プレジャーズ インサイド・ジョイ・ディヴィジョン』からどれだけ彼がバカぽいか書きますね。
彼らがファクトリーと契約する前にバズコックス、ストラングラーズのプロデューサーだったマーティン・ラシュットが彼のスタジオで、デモ・テープ作ったらどうかと誘ったんです。後にヒューマン・リーグで大ヒットを飛ばすマーティン・ラシュット、ちゃんとアンテナを張っている偉い人ですよ。マーティン・ラシュットも彼らが売れたら一儲けという思惑はあったでしょうが、無料で録音という破格の行為をピーター・フックは踏みにじるのです。
ストラングラーズを当てて小金持ちになっていたマーティン・ラシュットは当時ジャガーXJSに乗ってました。それをスタジオの前で確認したピーターはある噂が本当かどうなのか調べたくなりました。ジャガーに乗っている奴は車の鍵を閉めない。この噂僕も知ってました。ジャガーに乗る奴、鍵閉めなさそうでしょう。今はピッってスイッチ押すだけだから、全員、ピッってやりますけど、当時はガチャガチャって車の鍵をかけるのって、めんどくさかったんですよ。いや、めんくさいけど、外国で車の鍵閉めない奴なんかいないんですけど、なんかジャガーとかポルシェとかに乗っている奴って鍵閉めなさそうでしょう。で、ピーターは確認したら、鍵がかかってなかった。そして、なぜかマーティンの車の中には、車からパチったたくさんの高級カー・ステレオがあったそうです。日本の方には想像つかないかもしれませんが、外国は車はなかなか盗めないから、中のカー・ステレオを盗む奴らがたくさんいたんです。だから盗まれたくない奴はわざわざカー・ラジオを外して、トランクに入れたりしてたんです。自転車もタイヤだけパクるとか普通なんです。なぜマーティン・ラシュットの車に、取り外した高級カー・ステレオがたくさんあったのから知らないですけど、ピーターは「一個くらいパクってもわかんないんじゃないの、いやーでもあいつ俺たちのレコード会社になるかもしれないよな」と格闘のすえ、パチるの辞めたそうです。
当たり前や!
鉄板滑らない話ですけど、これ普通に自伝に書かないでしょ。この自伝が出た時マーティン・ラシュット死んでましたけどね。マーティン・ラシュットがなぜ車に大量のカー・ステレオがあったのか謎のままです。
完全にヤンキーですよね。ジョイ・ディビジョン、ニュー・オーダーの魅力って、インテリにこのヤンキーさだったなと。
彼の自伝はアホ話てんこ盛りで面白いです。日本語に訳されているのは『ハシエンダ マンチェスター・ムーブメント』しかないんですけど、彼の英語はそんなに難しくないので、英語の勉強にいいかもしれません。『ハシエンダ マンチェスター・ムーブメント』なんか、彼らが経営しているハシエンダがどれだけ酷いことになっているのか、調べるためにハシエンダのセキュリティになるところから始まるんですよ。ジョイ・ディビジョン、ニュー・オーダーのベーシストがクラブのセキュリティやるとか考えらないでしょ、でもそういうところが労働者階級ぽくっていいんですよね。そんで、俺はここまでやったのに、他のメンバーは何もしなかったと、ハシエンダの権利が売りに出されたら、他のメンバーに内緒でその権利買ったりしてるんです。そりゃ他のメンバー怒って、首にしますよ。ダムドも同じことになっているんですよね。ラット・スキャビーズが他のメンバーに内緒でスティフ時代のアルバムの原盤権買っている。これやったらダメなことですよね。一緒に戦ってきた仲間じゃないすか。
次回はもっとヤンキーな人の自伝を紹介したいです。その人とはハッピー・マンデーズのショーン・ライダーです。