気分はどうだい? Vol.26 「圧倒的なその孤高の存在感」

2020年に入り今年も去年同様1970年から50周年ということで洋楽ロックのいろいろな記念物がリリースされるはずです。更にあの大阪万博からも50年、そして日本での2回目のオリンピックなどが・・自身においても40年近く結局ずっと音楽の仕事をやっているわけですが2019年もいろいろな音楽を聞きました。以前コラムにも書きましたが普段家では向こうのラジオ局をかけっぱなしというのが多かったです。で、50周年記念のアルバムも結構聴きました。69年にリリースされたレコード達の。何か50年前の自分を回想しているような一年でもありました。その中でもダントツで聴いたのが<69年ウッドストック・フェスティバル>の38枚組の限定ボックスの音源でした。1969枚しか発売されなかったため、即売り切れだったみたいですが・・新譜のアルバムも偏っているとは思いますがいろいろ聴きました。現在向こうのいろいろなロック雑誌に2019年のベストアルバムのチャートなどが出ています。もちろん聴いていないアルバムも多いわけですが興味が有るものはすべて聴いたように思います。ストリーミングが充実しているせいか、それで聴くことが多かったです。昔なら現物を聴かないといけなかったわけですが・・さらに現在Dをしている神戸ラジオ関西の番組でも約700曲近くの洋楽ロックをオンエアーすることが出来ました。

それらの中での、僕の個人的な2019年のNo1ベスト・アルバム(新譜)はなんだろうと考えたのです….色々あったのですが<ニック・ケイヴ & ザ・バッド・シーズ>の2019年12月18日にリリースされた17作目のニュー・アルバム『ゴースティーン』になりました。

ニック・ケイヴは1980年前半の<ザ・バースデイ・パーティ>の頃からほとんどのアルバムを聴いてきました。彼に関しては過去の作品もいろいろなところに書かれているし、この新譜の内容に関してもそれらの方が的確なのかも分からないので、あまりニック・ケイヴを知らない人は是非検索を・・初めて動いてるニック・ケイヴを観たのは1987年公開のヴィム・ヴェンダース監督の映画「ベルリン・天使の詩」でした。もちろん映画として現在でも自分の中ではベストに入るわけですが、この世界観には凄く、たぶん影響を受けました。部屋にはレコード額に入れたLDが今だにあります。

映画「ベルリン・天使の詩」でのニック・ケイヴ・・


Wings of Desire- Nick Cave and the Bad Seeds

で、今回のアルバム『ゴースティーン』。サウンドそのものは凄く綺麗なサウンドスケープなのですが、歌はやはりダークで孤高で今回もいつのように突き放された感覚があります。デヴィッド・ボウイの最期の「ダークスター」やレナード・コーエンの後期のアルバム、スコット・ウォーカーのソロ後期、ルー・リードやヴァンモリソン、そしてボブ・ディラン・・・共通して言えるのはそれぞれが白人シンガーの個人のキリスト教(神)における宗教観からくる歌詞が多いということです。家がクリスチャンだったので子供の頃から教会や聖書云々のそういう世界感は理解しているつもりなのですが、やはり国や人種(ルーツ)や環境の違いをまざまざと感じるのです。<She loves you> 的な歌詞であればそういうことを全然気にしなくて楽しめるというか、ハードロックであろうがフォークであろうが人間相手に対するラブソングやドラッグなどについて歌っているのであれば英語であっても全然問題ないのですが・・

『ゴースティーン』<ニック・ケイヴ & ザ・バッド・シーズ>


Nick Cave and The Bad Seeds

例えばドストエフスキーの「罪と罰」…いまだに普遍で偉大な小説とされていますが、翻訳されたものを読んで表面上は分かっていても、あのキリスト教ありきのテーマになっている宗教観(神に対する)はいまいちわからないものがあります。と同じような感覚がニック・ケイヴの歌にはあるのです。たとえその歌詞を翻訳で読んだとしても。ボブ・ディランがその昔ボーン・アゲイン・クリスチャンに改宗した時も、その精神的な事は本人でないと分からないし、それが作品に反映されていたとしても理解できないわけです。今回のこのアルバムのMV(上記)を観てもらえれば分かるのですが凄くわかりやすい言葉で歌われています。そのためその一語一語が重く、たぶん選ばれた言葉の意味には大きなものがあると思うのです。向こうのリスナーはそのあたりをどう捉えているのかはか分かりませんが…このアルバム、向こうのいくつかの主要な音楽雑誌では2019年のNo1になり、最高傑作だとも評されています。

そういう分からないところに惹かれるのか、より深いところで理解しようとしているのか・・でも常に惹かれるのです<孤高の人の唄>に、ニック・ケイヴに・・