カレー屋店主の辛い呟き Vol.25

「年の瀬ラップ談義」
ハッピーニューイヤー!
大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の”ふぁにあ”と申します。
今年もぼんやりしているうちに1年終わっちゃいますね。
ミナサマはいかがお過ごしでしょうか?

 

先日店内で「舐達磨」という日本の若手ラップグループの音源をかけていた時に、お客サマのメンツもフロムミナミなメンバーだった事もあって、それをきっかけに始まった濃いめのラップ談義。ミナミ時代はこんな夜ばっかでしたけど、上本町で久々に語ったそれぞれのHiPHop愛。HIPHOP好きが集まるとある「あるある」が面白かったのでここにも投下しておきます。


舐達磨のFLOATIN’

「こいつらめちゃめちゃ売れてますよね?」「今ライブやったらドコもパンパンに入ってるし」「やっぱりそんな感じなんや!」そんな感じで2019年バカほど評価を上げた「舐達磨」。僕も今年一年のヘビロテのリスト作ったら必ず入ってくる令和最初のクラシック。3人のキャラクターやフロウのバランス+リリシストとしての才能。覆面強盗をした顛末を書いたこの曲の最初の「バール買いに行かせた今藤 仕事バックれた高橋 借りに行かせた武富士~」のライン。いきなりもってかれました笑。そして、こういう談義になると必ず起こるのがビートの元ネタ話なのですね。

 

■HIPHOP好きなら必ず起こる元ネタ話
こういうシチュエーションで必ず誰かが言うセリフNO1に認定したい「コレ何のループやったっけ?」。言い方は違えどこの「元ネタなんやったっけ?」、HIPHOP好きが集まると必ず起こるこの流れ。よくウチの店でも起こる一コマは、全くHIPHOPを聴いたことがない他のお客さんがいると「パクリなん?」ってな質問があって、それに対して「HIPHOPカルチャーはサンプリング云々」的講義をするってのがデフォルト。これ上質なお金持ちが多い上本町にあるウチの店ならではの話。まぁそんなことはいいとして、この舐達磨の「FLOATIN’」のトラックメイカーさんの年代で言えばたぶんNUJABESの「Latitude –remix」を初めに聴いたと想像できるんだけど、


NUJABESの「Latitude –remix」

そもそもの元ネタは1989年にイタリアの音楽家ジジ・マシンがリリースした「CLOUD」だったりします。


このGigi Masin さんアンビエントな音楽をずっとしてた方だと思うんだけど、この「CLOUD」って曲は
めちゃめちゃ浮遊感があってバレアリック/エレクトロニカ方面が好きな人からも人気の一曲。ちなみに僕もNUJABESの「Latitude –remix」からこの人のコトを知って大好きに。


余談だけど彼のライブ映像「Gigi Masin Online Radio Festival x Boiler Room Live Set」
このライブ素晴らし。仕事するときのバックのBGMでウチでもよくかけてます。
弱ってる時に聴くと泣きそう…。

 

そしてこのジジ・マシンの「CLOUD」はビョークも2001年発表の「It’s In Our Hands」で使用してて、これまた名曲。

で、実はそのビョークやNUJABESのREMIXで使われる少し前にGigi Masinの「CLOUD」を取り上げたグループがいて、それが1990年代中頃からドイツ・ベルリンを中心に活動するポストロック~エレクトロニカ集団「トゥ・ロココ・ロット」。そもそもベース/ドラム/エレクトロニクスという編成でミニマルなスタイルだった彼等の3作目「The Amateur View」(1999)で、その少しスタイルを変えこの曲をカバー。そんな話もどっかの飲み屋かレコ屋で聞いた話。


このトゥ・ロココ・ロット」の3作目も2、3年前にリイシュー版が出てたような気も。エレクトロニカの名盤なのでその界隈が好きな方は聴いてみるといいかも。舐達磨の「FLOATIN’」の一曲から発展するイロイロなストーリーと新しい音楽への出会い。これサンプリングカルチャーの醍醐味。

そんなコトを話してると「オレNUJABESのLatitudeのremixより元のLatitudeのが好きやけどなー」と誰かが。そうそう!そうなんです。実はこの曲remix前のFIVE DEEZの「Latitude」も超名曲。


改めて聴くとスパニッシュギターが大胆にサンプリングされたトラックが印象的な一曲。そしてNUJABESのLatitudeのremixは元曲のスクラッチ音を有効に使いながら浮遊感たっぷりの「CLOUD」のシンセのループを使うことで、別曲のような仕上がりに。やっぱ「センスやばっ」と全員で改めて驚愕。
そして始まる「このギターの元ネタ…」的トーク。僕は知らなかったけど、アルゼンチン出身のテナーサックス奏者のガトー・バルビエリって人の楽曲「Fiesta」のギターらしく、家に帰ってチェックしてみるとギターというか、全部ええやんと。掘るべきレコードがまた見つかりました。笑


ガトー・バルビエリの「Fiesta」

こうやって繋がっていく音楽の沼。一生沼の中でズブズブと暮らしたいわと思うわけです。

■舐達磨とSEEDA「花と雨」
この舐達磨の「FLOATIN’」のトラックにまつわるアレコレのトークを抜粋して書いてきたましたが、少し舐達磨ってグループのコト書いておくと、メンバーはラッパーBAD SAI KUSH/G PLANTS/DELTA9KID/D BUBBLES(服役中…)に加え、プロデューサーのNaiChopLawとDJのMONDで構成。ちなみにこの曲で歌われている事故で亡くなった1.0.4.もメンバーのひとり。そして、彼らの周りにいる面々を合わせ「APHRODITE GANG」ってクルーとしても活動というのが基本情報。アムスで録られたこのMVでもそうだけど、大麻でハスリンする実体験を乗せたリアルなリリックと、情景や心情が絵として浮かんでくるようなリリシストとしての才能に、90年代を彷彿させるトラックの美しさと現状3人のキャラクターがプラスされるとそりゃ売れるんだろなと。海外でも最近、トラップ的な音に乗せてパーティーラップをする音がEDMムーブメント以降多かった訳ですが、そのカウンターとしてリアルな社会への目線と心情をぶつけるようなアーティストの音がドカーンと売れてきたり。ケンドリック・ラマーやJコールなんかのアルバムを聴いて、リリックをよくよく読み込んだりすると小説のようで、これこそ現代のリリシスト。(あ、リリシストと言われるラッパーさん達のコトも今度まとめてみよ。)舐達磨にもそんな可能性を感じます。ただ、海外と日本じゃ社会の状況も違うわけでハスラー丸出しのこのリリックがどう日本で受け止められるんか興味深かったりするんだな。ホンマにあかん人やろし。(ディスってないよ笑)
(→少し解説すると、ハスラー=ドラッグ・ディーラーを指すHIPHOPスラング。海外のラッパーの多くはもともとギャングだったり、そんな場所出身者が多かったりするわけで、そうするとまずのし上がる金儲けの手段として選ぶのがドラッグディール。そんな街で育ったラッパー達がリリックのリアルさを突き詰めるとどうしてもそういう歌になるわけだ。日本ではコレ逆のケースが多くて笑。ラップやるなら悪くないと的なグレ方。“ワルイヤツハダイタイトモダチ”のパンチラインの悪影響…。)

そして、そんな話の流れで聞いたのがSEEDAの「花と雨」が映画化されたという話。

2020年の1月17日に公開されるこの映画は、日本人ラッパー「SEEDA」の2006年の名盤「花と雨」が原案。HIPHOPモノの邦画って個人的には大体なんじゃそりゃ?というものが多かったりするわけですがこの映画はちょっと期待してみたいなと。てのも、この映画の下敷きになったアルバム「花と雨」。
そのアルバムのラスト曲かつ、タイトル曲の「花と雨」は日本のアンダーグラウンドなヘッズ達ならだれでも知ってる超有名曲。フックの「長くつぼんだ彼岸花が咲き 空が代わりに涙流した日 2002年9月3日 俺にとってはまだ昨日のようだ」のラインは、だれでもソラで歌えるんじゃないかな。


SEEDA「花と雨」

信頼する姉との別れの歌であるこの曲。初聴の時から絵が浮かぶような曲でしたが、ほんとに映画になるとはね。そして、このアルバム「花と雨」は、密売やマリファナ栽培や刑務所の日々の話も沢山。これが音源になった時はまずいろんな意味で驚いたわけですが、アルバム通して聴くと「結果儲からん商売で、しょーもない男ですわ」と嘆きなのかボヤキなのか。そんな姿が浮かんでくるような私小説的作品で、紹介した舐達磨のハスラーラップ的スタイルの元祖的作品。ほんとに名盤なので聴いてみてはいかが?
舐達磨のブレイクとSEEDA「花と雨」の映画化。なにか時代が求めてるんでしょかね。(それ風)

 

そしてこの日の「年の瀬ラップ談義」は公園に場所を移し、ビール片手に朝を迎えるコトになりました。
こんなおっさんどーなんやろね…。 ではまた。