気分はどうだい? Vol.27 「始まりは映画音楽だった」
- 2020.02.01
- COLUMN FROM VISITOR
よくエッセイなどで「私の人生のサウンド・トラックは・・」などとも表現されるサウンド・トラック。今回はその映画の音楽(サウンド・トラック)について少し書こうと思います・・サントラ・レコードのコレクターの中には映画を観ずにレコードだけを集めている人も多くいるみたいです。僕はサントラ・レコードの収集家でもないので、それについて詳しく書こうとは思わないのですが、子供の頃から映画に親しみ、そこから多くの影響を受けたことも確かで、気がつけばサントラのレコードもそこそこ持っているわけです。
子供の頃、親父に連れられてよく行ったごく普通の商店街にあった映画館。(日本版「シネマ・パラダイス」みたいな感じだったかも)もちろん日本映画が主体でしたが、月替りで公開される3本立ての洋画。字幕もろくに読めないし、それが恋愛や戦争映画でも、それらを理解できない時期(年齢)にも関わらず何故かその映画のことはよく覚えているわけです。多分、初めて見る外国の風景や出演者やその映像、特にその音楽に惹かれるところが大きかったのだと思います。必ずそれらの映画にはオリジナル・スコアの音楽が使われていました。その音楽は言語、ストーリーとは関係なくそのシーンのイメージともに今でも頭の中にインプットされています。この当時(60年代初頭)はヌーヴェル・ヴァーグで知られるフランス映画さらにイタリア映画が全盛で「道」「死刑台のエレベーター」「気狂いピエロ」「太陽がいっぱい」「昼顔」等、そしてこれらの映画から世界的な多くのスター俳優たちが生まれました。(書いていたらきりがないのでやめましたが)その他時期は前後しますがあの「風と共に去りぬ」や「OK牧場の決闘」「シェーン」などの西部劇やエロール・フリンの出ていた海賊映画、そして「タイムマシーン」といったSFもの、「ベン・ハー」などの歴史もの、そして「南太平洋」などのミュージカル映画、エルヴィス・プレスリー、マリリン・モンロー主演映画、ヒチコック作品などすべてこの時代に映画館で観ました。TVが普及するまでは映画が娯楽として一世を風靡していた時代だったのです。

で、最近、洋楽体験の最初はこれら映画音楽だったことに気がついたのです。今でもその映画のスティール写真を観ただけでもその音楽が頭に浮かびます。映画の場合、音楽のジャンルには関係なくいろいろな音楽がその映画のために使用されているわけでクラシック、ジャズ、シャンソンやラテン、民族音楽等の音楽をごく自然に聴いていたことになります。初めてのレコード体験も家に登場したコロムビアのステレオセットで聴いた親父が買ったリーダース・ダイジェストの「世界映画音楽のすべて」というオムニバスのレコードでした。さらにラジオの洋楽番組でも映画音楽がチャートに入っていて「鉄道員」「アフリカの星のボレロ」「男と女のいる歩道」「荒野の七人のテーマ」「大脱走のテーマ」ウエストサイド物語から「トゥナイト」など当時ヒットした映画からの曲が結構ありました。映画の雑誌「映画の友」や「スクリーン」を買うようになり、中学後半には友人と大阪梅田の映画館にもよく行くようになります。初めてでかいスクリーンで観た70ミリの「アラビアのロレンス」や「荒野の七人」「大脱走」「ドクトル・ジバゴ」そして「ウエストサイド物語」など一連のミュージカル映画等。初めてサントラのレコードを買ったのもこの頃です。
70年代に入るとアメリカン・ニューシネマ、日本のATGにはまることになるのですが・・さらに広告代理店(制作部の所属)に就職後もCFのアイディアを得るためという口実で映画館を梯子したことも多々ありました。現在でもいろいろな映画を観る時、選ぶ時はその頃からの自分の趣向が今だに大きく影響しているように思うのです。で、さらに自分が共鳴する多くの映画もヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュ、ティム・バートン、クエンティン・タランティーノやキャメロン・クロウ、トッド・ヘインズ、リチャード・リンクレイターなど同世代の監督が多く、彼らとの同時代的な感覚をすごく感じるのです。使用している音楽に関しても昨年観たタランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」やトッド・フィリップス監督の映画「ジョーカー」においても同じような感覚で音楽を選択しているように思うのです。

Hildur Gudnadottir (live at Convergence) London 21March / 2017
もちろん最近の映画の中にも素晴らしいサントラがあるとは思うのですが(映画評論家でさえ年間400本くらいしか観れない…現在も膨大に公開されている映画)最近観た映画の中で特に印象に残っているのは先程も触れた映画『ジョーカー』のオリジナル・スコアなのです。1月5日のゴールデングローブ賞においてこの映画で作曲賞を受賞したアイスランド出身のチェロ奏者で作曲家の<ヒドゥル・グドナドッティル>の音楽。映画内ではクリームやその他ロックの既成曲が効果的に使われていましたが、この音楽そのものがこの映画全体のトーン、ストーリー性を如実に表現していると思いました。今年2020年の米アカデミー賞で作曲賞を獲ることを期待しているのですが。
サントラ、やはり面白いです。その音楽を聴いただけで映画全体が蘇ります・・
Joker / Hildur Guðnadóttir (Original Motion Picture Soundtrack)