第28回The True Story of Acid House: Britain’s Last Youth Culture Revolution (English Edition) Kindle版

The True Story of Acid House: Britain’s Last Youth Culture Revolution (English Edition) Kindle版
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伝説的なDJ、プロデューサーであり、音楽の探求者であったアンドリュー・ウェザオールがなくなった。自分としてはアンディが回すようなパーティーをやりたくってクラヴ・ヴィーナスというパーティーを20年以上前に始めたのでショックだった。アンディを日本に呼んだ時色々喋って楽しかった。僕が彼のやっていた世界で一番最初のアシッド・ハウスとフットボールをくっつけたファンジン、ボーイズ・オウンや彼らがやっていた野外パーティーなど色んなことを聴いたから、次の日ホテルに行ったら「久しぶりに昔のこと思い出したから、テリー・ファーリーや昔の友達から取り囲まれて糾弾された夢を見たよ」と言ってた。仲間内で何があったか聴かなかったが、ボーイズ・オンはスティーヴ・ホールのボーイズ・オン、テリー・ファーレーのジュニア・オーイズ・オン、アンディのボッカ・ジュニアに別れた。

 

ルーク・ベインブリッジの『アシッド・ハウスザ ・トゥルー・ストーリー』は僕がここで紹介したパンクのオーラル・ストーリーの名作『プリーズ・キル・ミー』のアシッド・ハウス版だ。前半はアシッド・ハウス前夜、カムデン・パレス、タブー、ピラミッド(ヘブンの月曜日のゲイ・パーティー)、バズビーズ、スペシャル・ブランチなどのことが語られる。僕もこれらのパーティーに行っていたので、懐かしい。そして、これらをやっていた人たちがイビサに行って、シューム、スペクトラムを始めるわけだが、僕はシュームとか一度行ったんだけど、サウス・ロンドンのやばいエリアの小さなスポーツ・ジムでやっているし、中入ったらスモークで何も見えないし、どうもお客はフットボール・フーリガンぽいし、ここはやばいんじゃないと20分くらいで帰ってしまったんだよな。というか、この時期にロンドン面白くないわと日本に帰ることにした。完全に僕はアシッド・ハウスが爆発した時に日本に帰ってしまった。そして、友達からイギリスが大変なことになっている観に来いと言われて、見に帰ったら、コベント・ガーデンの服屋では店員さんがカウンターの上で踊っているし、クラブに行ったら誰もお酒を飲まなくなっていて、水とオレンジ・ジュースだけを飲んでいた。半年でこんなにも変わるのかと思った。そんな変化がこの本に書かれている。そして、今は寡黙なエヴァンジェリストのイメージが強いアンディのお茶目な発言もたくさんあって笑ってしまう。というかアンディが売人してたってびっくりした。

 

「あの頃、俺は3つの仕事を掛け持ちしてたんだ。映画の大道具の仕事と、DJ、そして毎週エクスタシーを10個売ってたんだ。15ポンドで仕入れて、25ポンドで売って、毎週100ポンド儲けてた、それだけであの頃は生活していくのには十分だった」

 

でもその頃のアンディはレコードもたくさん買っていた。今もだと思うけど。

 

「DJでは50ポンドしかもらえず、レコードに100ポンド使っていた」

 

100ポンドって、だいたい24000円くらいかな。1988年は毎月10万円あればイギリスで生きて行けたんだよね。今だと毎月50万くらい稼がないとイギリスで生きていけなんじゃない。日本だと今は30万も稼げば金持ちだから、日本って、イギリスに2倍近くの差を作られてしまったね。10年のデフレって本当に怖いよな。

 

アンディはちょっと被害妄想がすごい感じがする。その頃のアンディはまだウィンザーに住んでいて、家に友達のお父さんがウィンザー・キャッスルのコールドストリームガーズ(あの赤い軍服着て、女王様守っている人ね)が家に来て「君が悪いものをウインザーで売っているという噂があるんだけど、そんなことしてないよね」と聴かれて、もちろん「そんなことしてませんよ」と答えたら「そうだと思った、君を貶めるために悪い噂を誰かが流しているんだろ、気をつけたまえ」と帰っていったそうです。「君を貶めるために悪い噂を誰かが流しているんだろ、気をつけたまえ」ってむちゃくちゃイギリス人らしい返答なんですけど、警察じゃなく、コールドストリームガーズがそんなの調べに来るか、というかこの頃まだアンディがウィンザーに住んでいたってびっくりだ。この件があってアンディはウィンザーからロンドンに引っ越しをすることにした。

 

そして決定的な事件が起こるニッキー・ホロウェイ(この人とイビサのアルフレッドを日本に呼んだのが僕の一番最初のDJブッキングの仕事でした)のザ・トリップで回している時に、アンディはまだDJやりながら、そこでEを売っていたんですけど(昔のDJやクラブの店員の一番の仕事ですね。今はこれをやると売ったDJや店員よりもパーティーをオーガナイズしていたオーガナイザーが実刑を食う法律に変わったので、パーティーがやりにくくなってます。オーガナイザーもそこまでバイトの管理出来ないでしょう。クラブ・オーナーが確実にバイトの人選などもちゃんとしろという政策何でしょうね。正しいといえば正しいですけど。クラブをやるのも大変な時代になっていると思います)、そこに「君がエクスタシーを持っていると聴いたんだけど」と言って来た奴がいたので「誰に聴いたんだと」聴き返したんだけど、どうもデニム(当時のレイヴァーの格好、日本で言うゴアパン・デカね)を着ているんだけど、こざっぱりしてるんで、怪しんでいると後ろの方で、テリーたち仲間が「ノー、ノー、ノー」といっているので、アンディはDJブースを飛び出し、「どうしたの」と彼女が聴いてきたので、「車を裏口に回せ」と裏口から逃げた、そしてそれ以来ドラッグを売ることはやめたそうだ。

 

日本でも初期のレイヴの頃にゴアパン・デカ(ゴア・トランスの人たちが着る絞り染めのスボンを履いた刑事さん)がいる、ってみんなパラノイアになっていたけど、そんなに警察って暇かと思ってた。大体警察って、単独行動しない。家とかに踏み込む時も4、5人くらいで来るから、そんな富士の山奥の方まで一人か二人で来ないだろとずっと思っていた。アンディのこの件も被害妄想だと思うけど、売るのやめてよかったよね。

 

変な話ばかり抜粋しましたが、この本を読んでたら、あの頃に帰りたくなります。そして、もうこんなこと起きないんだろうなと。ちょっと前まではまたアシッドハウスみたいなことがまた起こるだろと思ってたんですけどね。アシッド・ハウスが本当に最後のヤング・カルチャーの革命だったのかなと。それとも僕が歳をとっただけだとも思います。

 

この本もまだ翻訳されてませんが、みんなワーキング・クラスの口語英語なんでシンプルで読みやすいと思いますので、読んでみてください。