第29回 ビンテージ・ギターをビジネスにした男 ノーマン・ハリス自伝

ビンテージ・ギターをビジネスにした男 ノーマン・ハリス自伝
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2回前の連載で“このコラムは植草甚一になった気分で翻訳されていない音楽書を紹介していきたい”と書きましたが、今回は気づいたら締め切り日間近で、今から洋書を読んで紹介するのは無理ということで、今まで読んだ日本語の音楽関係書を紹介します。コロナで暇になっていたのに僕は一体何をしていたのでしょう。本当は『THE HEEBIE-JEEBIES AT CBGB’S  A Secret History of Jewish Punk』というユダヤ人がロックにどれだけ貢献してきたかと言う本を紹介しようとしていたのですが。この本は電子書籍化されていないので、なんか読むのを躊躇してしまうのです。

 

本はお風呂で読むことが多いので、紙の本は湿気でボワボワになってくるので、読む機会を先延ばしにしてしまうのです。明日は一日ソファーに寝転がって本を読もうと考えるのですが、なんかいつもキンドルに入っている電子書籍を読み続けてしまうのです。と言うわけで前に読んでいたユダヤ人繋がりの『ビンテージ・ギターをビジネスにした男 ノーマン・ハリス自伝』を紹介したいと思います。僕は裏方の本が大好きです。と言うかこういう裏方本の方にこそ、アーティストの本当に姿が垣間見れて美味しいのです。

 

実はロック評論家の人たちがロックとはと自慢げに語っていることにはまだまだ謎が多いのです。ロック誕生前夜の音楽シーンが本当はどんな姿をしていたのか、よく分かっていないのです。ロックをやっているなら絶対弾かなければならないフェンダー社のストラトキャスターというエレクトリック・ギターがあるんですが、それがどういう意図で作られたのか、全く解明されていないのですが、この本を読んでいるとそんなロック前夜の姿がギターを通して見えてくるのです。

 

どうもストラトキャスターというのはウェスタン・スウィングという音楽で演奏している早弾きギターリストのために作られていったのじゃないかということが匂ってくるのです。このウェスタン・スウィング・シーンで、ルバーブ・レッド、レッド・ホット・レッドという名前で演奏していたレス・ポールだ。ストラトキャスターと並ぶロック・ギターの代名詞レス・ポールに名前をあげた男だ、全部繋がっていくのだ。NYで宅録の元祖みたいなシャレたイメージのレス・ポールが、実はルバーブ・レッドというジャムとかにする野菜の名前を芸名にしていたなんて笑ってしまう。

 

本ではこう書かれています。

 

“40年代終盤から50年代にかけての南カリフォルニアが(フェンダーやリッケンバッカーがあった場所)、ウェスタン・スウィングの中心地だったという事実は案外知られていない(ようするに歴史的にはウェスタン・スウィングは30年代とか40年代には終わっていたと思われているのですが、ロスではそのブームが遅れてやってきたということですね。アメリカは広いんだなと)。大恐慌の時代にこの地に南部から大量の人口が流入したのをひとつの理由として、親しみやすくてアーシーな曲調にホットなギターを絡ませたウェスタン・スウィングはダンス・ミュージックへと昇華し、当時大人気を博した。悪名高きスピード・クーリー、(地球上最速ギタリストと称された)ジミー・ブライアント、ハンク・ペニーら、その道のスターたちは、新たに登場したテレビという媒体にも頻繁に露出した。

ウェスタン・スウィングがかつて最も新しい宇宙世代の音楽のように受け止められていたという歴史を現代の私たちが認識するのは難しい。しかしそれは紛れも無い事実であり、数多くのミュージシャンとギター・メーカーがウェスタン・スウィングを盛り上げるために強く結びつき、双方が最新のトレンドに乗ろうとしのぎを削った。

オレンジ郡のフラトーンに住むレオ・フェンダーという男は、最先端の未来的フォルムのギターを設計して工場での製造に踏み切った。彼が市場に送り出したギターはありあらゆるウエスタン音楽に取り入れられ、進化を促した”

 

これを読んでいるだけで、ストラトキャスターや、ビートルズに愛されたリッケンバッカーがなぜあんなに斬新なデザインだったのかよく分かります。

 

そして、テレビに出て時の人となっていたウエスタン音楽のスターたちはノーマンがビンテージ・ギター・ビジネスに乗り出した頃には落ちぶれ、ノーマンにギターを売るようになっていたのです。そんな中でレス・ポールなどの一部の人が演奏する場所を変えながら変わり目をうまく乗り切っていったのでしょう。残った人は本当に一部の人なのです。ノーマンはそんな人たちを蔑んだりせず、ボブ・ディランやトム・ペティのような彼の有名な顧客と同じように接しています。それは彼もまたあともう一歩の所で成功を手に出来なかったアーティストだからか、いやそんなことはない、彼は全員がこの大きな音楽シーンの中の一部だということを理解しているのです。だからこそビンテージ・ギターという商売を永遠にやり続けてこれたのです。まだまだ音楽の歴史には謎が多い、毎日が色々な発見をさせてくれる。本当はカリフォルニアの暖かい風を浴びながら音楽のことを調べていくような老後を過ごしたいと思うのですが、もう僕には無理なようですね。なんでノーマンみたいにちゃんとビジネスをやっていたらよかったなと思う今日この頃です。

 

ノーマンはバンドやりながら、足りない生活費を稼ぐためにマリファナとヴィンテージ・ギターを売っていた人です。マリファナを売るのはリスクが大きいとバンドとヴィンテージ・ギターに商売を専念した人、チープ・トリックのリック・ニールセンやジョー・ウォルシュもそんなとこありますよね。リック・ニールセンはジェフ・ベックに、ジョー・ウォルシュはジミー・ペイジにあのレス・ポールを売った人です。あーそんな人になりたかったな、ミュージシャンと本当に熱く音楽談義が出来るのはギター・ディーラーですよ。楽屋にレアなギターを持っていって、買ってくれないかという商売本当にいいですよね。楽屋に薬を売りにくるドラッグ・ディーラーより何百倍もいい。今からなれないかな、絶対になれません。

 

今回僕が紹介したエピソードはほんの一例です。この本にはもっともっと驚きのエピソードが詰まっています。音楽好きの人なら絶対読まなければならない、楽器を弾かなくっても、なんか楽しくなるような本です。