特殊音楽の世界 33「コロナ以降」

コロナのおかげで世界が今まで経験のしたことのない状況に陥っています。

方々で散々触れられているのでもうコロナのことはたくさんだという方もいるとは思いますがやはり触れないわけにはいきません。音楽に限らないですが特に三密が基本であった音楽の世界も変わらざるを得なくなりました。「withコロナ」「afterコロナ」「新しいフェーズ」等々、何でもいいんですけどね、とにかくまったく望んでもいないし自然な流れでもないのに変化を強いられるというこの状況では何か対策をやろうとしても今までの経験は全く役に立ちません。

ライヴハウスも有観客ライヴが復活しつつありますけど、その時の感染者状況で予約キャンセルが相次ぐことがあり、入場者数限定にしているにも関わらず全部埋まることが少ないと聞きました。もちろん食品ロスも発生します。光熱費も限定入場であったとしても満員の時と同じだけ必要なわけで、開業しているだけで休業してる時よりもリスクが大きい、ということも聞きました。またライヴハウスの営業形態の違いでもリスクの大きさは違います。ツアーバンド中心でスケジュールを組んでいるところと地元ミュージシャン中心のところでは状況が大きく違うようです。ツアーができませんからね。年末まで決まっていたスケジュールがほぼキャンセル、その後のスケジュールがなかなか埋まらないところもあります。ツアーの目処が立たないんですから。

対策として配信をしているところが多いですが、配信はやはり配信、空気を震わせる音ではないのでライヴとはまた違うものだ、ということは多分ライヴハウスのスタッフの方が一番わかってらっしゃると思います。しかしそれでも、どこもかなりのクオリティの配信をやられていると思います。配信のための初期費用だってバカにならないと思うけど、配信の利点(より多くの人がその音楽に触れる機会が増える)を十分に意識されていますよね。

GIGANOISEなどのイベントなどで東京でも特殊音楽の拠点の一つとして知られていた秋葉原GOODMANの無観客ライヴ配信についてのインタビュー記事です。

GOODMANは閉店が決まっています。親会社がコロナ不況で閉店を決めたそうです。大きい資本がついているライヴハウスほど閉店の危機は大きいということですね。個人資本でやっているところは個人の頑張り(それも限度がありますが)で何とかやれるが親会社があることはどうしようもないです。同じ事情で京都のVOXホールも閉店しました。

音の問題など技術的なことも話されていますが、それよりも一番重要だと思ったのは「ライヴハウスはお客さんを待っているという今までの状態から、ライヴハウス側からお客さんのいるところへ発信していくという意識にかわったんじゃないか」という発言です。

 これから先、音楽を伝えるということの意味が、方法だけのことにとどまらず意識自体大きく変わっていくようです。

数ある配信のなかでも旧グッゲンハイム邸がやっている「リアルタイム遠距離テレセッション」はとても面白いです。

https://www.youtube.com/watch?v=ac3lzFumslA

(視聴期限あり)

テレワークでセッションする場合、どうしてもレーテンシーの問題が付きまといます。ほんのちょっとのズレでもセッションは不可能になります。

旧グッゲンハイム邸ではその問題を解決し、遠距離セッションを可能にしました。旧グッゲンハイム邸の庭からベランダに設置されたスクリーンに他地方のアーティストの演奏映像を流しながらその横で地元神戸のアーティストとのセッションが配信されています。他地方のアーティストとのセッションが移動の苦労なしにできることが証明されたのです。これはこれからの音楽の可能性を拡げる画期的な試みだと思います。ライヴ等の実演の場だけでなく音源リリースにも大きく影響を及ぼしています。

今はCDやヴァイナルなどのフィジカルよりもストリーミングやサブスクなどが主流ですが、そこで得られる金額はとても低いんです。F.M.N.でもサブスクを導入しましたがあまりの低い還元率にびっくりしました。制作費を回収するには数百万回のアクセスが必要なんです。音源販売での収入が期待できないため、ライヴやコンサート、そしてそこでのフィジカル音源やグッズの販売がバンドが期待できる大きい収入源だったと思います。それがコロナでライヴもツアーもできなくなると収入の道がほとんど断たれることになります。なのでこれから先はサブスクのように既存のシステムを使うよりはbandcampのようにアーティスト直で音源販売できるシステムがもっと増えるし主流になると思います。

レーベルの意味も違ってくるでしょう。その先駆けとなるであろうサイトができました。テニスコーツが主宰しているmajikickを中心に、アーティスト直でストリーミング&配信行なっているサイトminna kikeruです。

https://www.minnakikeru.com

現在手に入りにくい国内のインディ・アーティストの音源だけでなく国外アーティスト音源、音源だけでなくpodcastラジオ番組等々、ヴァラエティに富んでいます。そして少ないマージンでレーベルやアーティストの自立を助けること第一で作られています。

国外でも同様の動きがあります。

特殊音楽の世界で今一番重要な拠点でもあるロンドンのcafé otoというベニューがあります。café otoはレーベルも主宰しており世界の重要なアーティストの作品を数多くリリースしています。コロナ禍を受けてそこにtakurokuという配信サービスが突然登場しました。

https://www.cafeoto.co.uk/shop/category/takuroku/

ここに世界的に著名なアーティストが続々と作品を発表しています。Phewや内橋和久、大友良英等の日本のアーティストも提供しています。全作品£6です。

ライヴ活動が制限される中、多くのアーティストが新たに作品を作ったり、過去の音源をまとめたりしています。takurokuやminna kikeruのようにその作業の結果をすぐに発表できる場が作られたということの意味も配信同様大きいと思います。

しかしライヴハウスやアーティストはこうやって何とか変化に対応しようとしているんですが、イベント会社やPA&照明のような、実演に必要不可欠な周辺企業はどうしようもないんですよね。このままでの状況が続けば音楽のなり立ち方も根本から変わらざるを得ないでしょう。どういう未来になろうとも、音楽を作り聴く人たちにとって良い結果になるよう、リスナーとしても作り手としても心がけていかないといけないと思っています。

 F.M.N.石橋

 :レーベル、企画を行うF.M.N. Sound Factory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82〜88年まで京大西部講堂に居住。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。