カレー屋店主の辛い呟き Vol.34 「mid90s」

いやー良かった!先日の連休中に見た「mid90s」って映画。個人的には今期best1かも。てか、良かったとゆーか、mid90sをリアルタイムで過ごしてきたオッサンからすると、あんま使いたくない表現やけどエモなったとゆーかさ。90年代半ばのLAのスケートカルチャーを舞台にしたこの映画。“まだ何者でもない少年達が、これから何者にでもなれる”キラキラとか、新しいカルチャーを見つけた時の高揚感とか、苦さとかスクリーンからバシバシ伝わってきてさ、いやマジで眩しかった。んで、眩しく感じてしまう自分に衰えも感じたりとかさ。今回はこの映画と、それに絡んだ90’s初頭のアメリカのカルチャーのハナシを出来たらって思うんよ。

さてさて。よーやく涼しくなって来ましたね。ミナサマいかがお過ごしでしょか? 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の”ふぁにあ”と申します。これを読んでくれてるミナサマはどんな90’sを過ごしてたんすかね?まだ生まれてないって人もいるんやろか?日本ではバブルがそろそろ終わりを迎えたearly90’s。

映画の話の前にちょっと脱線して、僕が経験したその当時のアメリカのハナシを少しだけ。この映画を見ながら強烈な既視感があって、色々なコトが急に色を帯びてきたワケだ。僕がいたのはNYだけどこの映画で描かれてる90年台中盤までの空気感てか、当時のスケートカルチャーの創世記のコトが少しでも伝わればと思うんよ。まぁおっさんの昔語りやけどな。

■後の「Supreme」そして「alife」

大阪ミナミの街で毎夜フラフラ遊ぶアホな大学生だった1990年。ミナミの街で今は懐かしのDCブランドのデザイナーや、空間デザイナー(今の子はなんのコトかわからんやろうけど…)のおっさん達から「なんしかNY行かな」と言われつづけたバブルの終わり。インターネットが無くて向こうのカルチャーをパクってもばれへんかったそんな時代。初めての海外で、英語も1mmも話せず、予備知識もなく降り立ったNY。「でっかい街やからホテルぐらいあるやろ」とホテルの予約もせず、タカをくくって深夜に着いたマンハッタンはまだスラムがあった時代。着いたバスターミナルで殺気を感じて飛び乗ったイエローキャブ。「チープホテル!プリーズ!」と言い続けると着いたのが、イーストビレッジの安ホテル。今となってはおしゃれなエリアになってるんだけど90年代初頭は銃声が一晩中鳴ってるようなエリアだったな。

その当時のイースト・アルファベットシティのトンプキンズスクエア。ホテルの前にあった。

結果、いろいろあってお金とパスポートが無くなって(笑 ) 結局、日本料理屋でバイトをすることになって住んだ寮みたいなシェアルームがここより少し南のエリア。2週間ほどの旅行がトータルで7ヶ月ほど滞在することになるんやけど本筋とは違うので別の機会に。でもその偶然が「mid90s」でも描かれてるいろんなcultureとの出会いに繋がるねんな。その当時、まだマンハッタンの家賃が僕らみたいな若造がギリ手の届く値段で(たぶん2DKに7人ぐらいで住んでたけど笑)、住んでた周りのエリアにはインディーズ系の店がチラホラと。なんかしらんけど新しい価値観てか、新しいcultureが生まれるいろんな要素があったんやろな、今考えてみたらさ。で、そんな若者が集まる店の一つが「UnionNYC」ってゆーセレクトショップやったワケ。

スケーター系のセレクトショップ「UnionNYC」のちの「Supreme」

結構きれい目なセレクトショップで、値段帯もその当時の貧乏極まりない僕たちでは手の届かない店だったけど店員がスケータばっかで、前の通りにスケートのミニランプを置いて誰かが必ず遊んどった。僕たちはお金も無くてスケートもヘタクソやったからコーヒー飲みながら道路に座って見てるだけやったけどさ。観光客なんか誰もいない地元の店って感じで、だらだら集まりながら適当にハナシをするようなスポット、それが、その後毎年のようにNYに行く度に観光客も、自ブランドのラインナップも増えて、のちの世界的ストリートブランドの「Supreme」になるんだから世の中わからんもんですわ。

「Supreme」初期の宣伝PV NYのMid90sはこんな感じだった。

そして、僕たちが仲良く遊んでたのが「alife」って店に出入りしてたメンバー達。その頃はDIY丸だしのショップやったけど、2Fの事務所で仕事が休みの日にダベって、前の通りで音楽をでかい音で聴いて、下手ながらスケートも教えてもらって。まぁ「mid90s」で描かれてるようなむちゃくちゃな日々。

最初の「alife」後にこのショップやメンバーも世界で活躍することに

ショップはセレクトショップなんやけど、スニーカーにメンバーがペイントしたりした一点モノなんかが多くて、それをわからんくらいの高値で売ってて。今思えば、デザイン&アートの自分達のプレゼンテーションって側面が大きかったのかも。だって遊びに来てたメンバーが誰も買えない値段やし…。たぶんalifeのメンバー達もね 笑 「ルイヴィトンの靴にタグ書いて売りたいけど靴仕入れられへんねんな」って誰かが言って、「いづれコラボさしたんねん」ってゆーアホな貧乏人どもの会話のいちシーン。なんか強烈に覚えてるし「なんかワールドクラスのアホやなぁ」と。まぁ後から意味付けしたら既成の価値観を壊すようなインディーズカルチャーが生まれつつあったなんて言えるけど、当時はそんな感覚もなくて強烈に体に悪いボトルリカー片手に「道路にチョークでタグ書いて遊ぼーぜ」的な毎日。国籍も、人種も、好みもバラバラな面々が「アホとクール」ってゆー価値観で繋がって、スケートってのがその繋がりの象徴的なアイテムやったってコト。新しいcultureが生まれるときってそんなもんなんかも。だからこの「mid90S」って映画も単なるスケーターの話じゃ無くて、その当時の普通(じゃないけど…)の若者の日常のハナシ。この捉え方結構重要かと思うねんな。

Public Enemy「Fight The Power」

日本ではスケート=パンク/スラッシュ的なイメージがあるとは思うけど、それはたぶんウエストコーストの90年代後期のイメージを切り取ったもので、イーストでは基本HipHopを聴いとった。やっぱ思い出すのはパブリックエネミー。「mid90s」でも日常かかってる音はそうやったし、LAでもそーやってんなと。ただchillな時はCRJ系のインディーズや、クラシックなソウルががかかってたり。すごくパーソナルな関係性になって実はこんなんもえーねんなって教えあう感じやったんやろか。この映画でもエモいシーンでHipHop以外の音が流れた時にそんなコトを思い起こしたワケだ。なんか、長くなってもーたけど、この当時のNYでも「mid90s」で描かれてるよーなcultureが開花していろんな才能が世に出る前夜だったってコト。そりゃオモロいし、ワールドクラスのアホ達のエピソードも沢山あるんやけど、負のエピソードも沢山あって一言では語れないんよな。まぁ死ぬまでに纏めてみたいとは思うんやけど。ただ、90’sのカルチャーを引っ張ることになるヤツラのいちシーンにたまたま遭遇したコトはラッキーやったし、この自伝的映画を撮った監督のジョナ・ヒルも世代は10歳ほど下やけど映像にしたくなる気持ちはめっちゃ分かる。やっぱその後の僕の人生にも強烈な影響を与えたわけやしね。

■「mid90s」は青春映画の新たなmaster pieceに

前置きが長くなりすぎたけど…。この「mid90s」は、最近なら「ミッドサマー」や「レディバード」とかを制作した、映画好きならレーベル買いをしてまうA24の作品。監督は俳優のジョナ・ヒル。ちなみに監督の妹さんが主演の「ブックスマート」もめちゃいい映画。最近、アメリカの青春映画系のインディーズって名作が多いんよな。ストーリーは1995年ぐらいのLAを舞台に13歳の少年スティービーがスケートショップに出入りする少年達と出会い、自由奔放さに憧れて彼らの仲間になろうとするとするところから話は動き出すんだけど、憧れた彼らもいろんな葛藤を抱えてて〜そしてウンヌンカンヌンといったハナシ。監督のジョナ・ヒルが単なる90sノスタルジックやスケートプロモのような映像にはしないとルールを決めたって言ってるよーに、大きな事件が起きる訳じゃないけど、些細な台詞や、繊細な心の動きにフォーカスした演出で、何が起きたかじゃなくて流れてる時間をそのまま見せてくれるよーなさ。誰しも経験のある少年〜青年時代の眩しさと痛さの1シーンをバスっと切り取って目の前に突きつけられたような作品。映画を見ながら自分の過去の痛さを思い出してずーっとなんかどっか居心地悪かったもんな。笑

そしてこの映画のもう一つの魅力は、監督のジョナ・ヒルが少年時代に体感したmid90sのカルチャーへの深い愛と効果的な音楽の使い方。オープニングのシーンで主人公が兄貴の部屋に忍び込む時に映るHipHop系マガジンのオリジン”SOURCE MAG”とか、MIXやRADIOSHOWを録音したTAPEとか、もちろんジョーダンのスニーカーとか、主人公に暴力ばかりふるう実は弱気な白人のマッチョ兄貴の着ている奇麗なNasのTシャツの描写とかさ。当時そのカルチャーを体現した者しか分からない細かいアイテムのディテールや、白人の若者が持つマッチョでタフなHipHopカルチャーへの憧れとその距離感とかが絶妙に描かれていて本当にリアル。で、そのリアルさは全編貫かれてて、それが作り物でないある種ドキュメンタリー的タッチな作品に仕上った最大の理由。あと、16mmで撮ったというざらついた質感もその理由の一つやけど、これはラストシーンに繋がるコトでもあんねんな。言わんけど。

Souls of Mischief「93’Til infinity」

んで、音楽も効果的で、主人公スがドキドキしながら若者がたむろするスケボーショップのドアを開けた瞬間にバーンってこの名曲がかかるんやけど。この曲ってまさに主人公がこれから経験する新しい世界のコトがリリックになってるのよ。曲タイ&対訳で調べたらいっぱいネット上に落ちてるから掘ってみてもオモロいし。この新しい世界の扉を開けるこのシーンにピッタリの曲。

そして、主人公が初めてその仲間入りをして、なだらかな坂をスケートで下るシーンでかかるママス&パパスの「Dedicated to the One I Love」。基本、映画全編当時の音が流れる中で、唯一オールディーズが流れるこのシーンはエモさ満開。まだ下手だけど仲間に一生懸命ついていく主人公の姿がさ。はー。ええなーと。ちなみに主人公を演じてるサニー・サジックを含めこの他の仲間3人もプロのライダーさん。主人公役のサニー君は演技経験があるんやけど、他はほぼ演技素人さんばかり。この辺りもmid90sのスケートカルチャーへの監督のリスペクトの現れ。んで、そのライダー達が全編ほんまにいい演技をしてるねんな。逆にゆーたらこのサニー君の下手なスケートの演技も抜群なんやけど。

morrissey「We’ll let you know」

個人的にはこの映画で一番美しくて好きなシーンでかかるモリッシー。主人公がメンター役のナケル・スミス(彼もsupremeの契約ライダー)とパーソナルな悩みを打ち明け合い、またあの特徴的ななだらかな坂を下り、いつものパーク(この場所はLAの数々のスケーターがここから世に出た、伝説的なスケートパーク。当時は違法な場所だったらしいけど、今はナイキが買い上げスケートパークに)で一晩明かすってゆー大事なシチュエーションでなんでモリッシー?って人もいるんやけど、実はこの当時意外とモリッシーとかchillな時に聴いてました。ちなみに僕もモリッシーをちゃんと知ったのはNY滞在時やったし。

んで、これも歌詞掘ってみたらほんまにピッタリの曲。サウンドだけじゃなく歌詞でも一種の比喩表現で、踏んできてますわ。この「Mid90s」後で考えてみると感情が動くシーンではHipHop以外の音源が使われてて、それは当時の状況そのままでもあるし、監督の仕掛けた罠?に気持ちよくひっかかったなと思うんス。

結構長文になったけど、この「Mid90s」は間違いなく2020年以降の若者のマスターピースとなる作品やし見といて損の無い作品。おっさんからすると危なっかしいけど、昔自分もそうだったように若者は自分で壁を超えていくんよなーと改めて思うし、その目線で、主人公と若くして子供を生んだシングルマザーとの関係性からのラストシーンの母親描かれ方なんかを見るとなんか深いなーと。んで、あるワンシーンでホームレス役に今となっては全然活動が伝わってこないラッパーを起用して、主人公達に人生を語らせたり。掘れば掘るほどまだまだ書きたいことは沢山あるけど、今回はこの辺りで。なんか全体的にエモい文になってもたし。エモいとかゆーとるし…。はー。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ

〒543-0031 大阪府大阪市天王寺区石ケ辻町3−13

ホイミカレー:毎週火木金12:00-売り切れ次第終了 アイカナバル:月—土18:00-23:00