特殊音楽の世界37「特殊音楽を楽しむための書籍紹介」
- 2020.12.02
- KYOTO
今回は特殊音楽を、いやそれだけでなく、これを読めば音楽をより楽しむことができると思える本を3冊紹介したいと思います。
音楽の本って理論や小難しい解説ばかりで、その種類の音楽に詳しくないとなかなか読む気がおきないものばかりとお思いかもしれませんが、今回紹介する本はとても読みやすく、しかもどのようなジャンルの音楽にも通用するようなことが書いてあります。
まず『音楽と美術のあいだ:大友良英』
著者は大友良英さんとなっていますがインタビューと6人のアーティストとの対話で構成されています。
近年アートと音楽の距離が縮まり、音楽家が美術展に積極的に作家として参加することも増えました。でもその場合、それは「アート」なのか「音楽」なのかどっちなんでしょう?いやどっちでもいいのかな?多分どちらでもいいんでしょう。しかしながら実際観に行くとどういうわけか、これは「展示」であって「音楽」は単なる付随物?、またどう観てもこれは「展示」じゃなく「ライヴ」だろう、と「アート」と「音楽」の領域を逆に意識させるものも多いです。その度に、じゃ「アート」と「音楽」の領域ってなんだ?その違いは?そもそも「音楽」ってなに?と思うわけです。
この本にはその疑問に答えてくれるようなヒントがたくさん詰まっています。この本で大友さんと対談している3人のアーティストの動画を紹介してみましょう。
3年前の札幌国際芸術祭での梅田哲也さんの出品作品のトレイラーですが、わたしはどちらも現地で体験しました。特に「りんご」の印象は強く、その時に覚えた、それまでと全く別の次元の時間と空間に居るような感覚は今でも忘れられません。
掘尾寛太さんの、これも3年前の札幌国際芸術祭での作品。
あともう一人、毛利悠子さん。先日Ginza Sony Parkで行われた毛利さん作の音響彫刻と山本精一さんとによる素晴らしいコラボレーションの動画がこれです。
3人とも面白い他のインタビューがネット上にいくつもあります。いちいち紹介はしませんが自分で検索して読んでみてください。
これ観てどう思いますか?私にはやはり「アート」というよりも「音楽」のライヴに近いものを感じます。なぜなんでしょう?この本の巻末の「美術(展示)と音楽(公演)のあいだ」という、キュレーターでもありギャラリー梅香堂主でもあった故後々田寿徳さんの文章がその答えを導いてくれるように思います。本の長い文章を勝手に引用するわけにはいかないので一番納得のいった部分を簡単にまとめてみましょう。是非本で全文を読んでみてください。
インスタレーションのような「展示」は周到な計算による効果が作品の制度としてある。しかし音楽(公演)(註:本文では梅田哲也さんの作品について書かれています)の場合、その制度をあらかじめ知ることはできない。予測不能な空間と時間の経験こそが本質。そしてそこに直接作者=演者が身体的に介在することにより、作品は演者との予期せぬ出会いの場となる。
これ、ライヴ、ですよね。
本の中ではこういったインスタレーションというよりライヴであるとしか思えない作品を作っている6人のアーティストと大友さんとのわかりやすく、しかも読み物として面白い対話が収録されています。
もう一冊は『うたのしくみ:細馬宏通』。
細馬さんの多角的な考察がどのようなものか、よくわかる一文があったので引用してみます。「『ブルースが最初にレコーディングされたのはいつか』という風に、どこか一点にブルースの発祥を決めるような問いかけはあまり意味がない。それより『ブルース』の名の下に、いったい何が起こったのかを問うていく方が、よりよく当時の状況へと入り込んでいけるようです。」
ロックンロールをチャック・ベリーのダック・ウォークの足さばきで解説する本なんて他にはないでしょう。
ビートルズの「サージャント・ペパーズ」をきっかけにレコードのない時代、どのように音楽が伝わり流行っていったかを20世紀前後の社会状況まで踏まえて解説した本もなかったでしょう。
なにより二階堂和美さんの「深く」の発音だけで二階堂和美が何者なのかこれだけよくわかる文章もないでしょう。
ここで楽しい動画を二つ。
この本でも紹介されているカルメン・ミランダの動画です。カルメン・ミランダが何者なのか、それもこの本にたっぷり紹介されています。
もう一つ、これは本の中ではキャブ・キャロウェイの章で軽く紹介されているだけなのですがあまりに見事なので、キャブのオーケストラで踊るニコラス・ブラザーズのダンスを。
最後にもう一冊。曲の認知度と実際にその曲が「聴かれた」頻度の差が、おそらく一番ある曲、ジョン・ケイジの4分33秒について書かれた『「4分33秒」論:佐々木敦』
ここで4分33秒の動画を一つ。イギリスの老舗名レーベルMUTEの設立40周年で4分33秒トリビュート盤が去年リリースされました。デペッシュ・モードやノイバウテン、ニュー・オーダー、phew等50以上のアーティストが4分33秒をカバーした恐るべきボックスセットです。
そのボックスセットからライバッハによるトレイラーを最後に紹介します。
ここでお知らせです。
山本精一プロデュースのスペース、ミングルで山本さんと私でトークショーを開催することになりました。当日はフリマもあります。平日ですがもしよければお越しください。
12/22(火)23(水)
『FMN石橋 & 山本精一の邪夢邪無トーク・セッション#1』
~ヤバく不思議なレア音源の紹介と、年末恒例・ミングル・フリーマーケット(CD.本etc)~
〇フリーマーケット 17時から
〇トーク・セッション 19時半から
入場料 一日 1500円・両日 2500円
F.M.N.石橋
:レーベル、企画を行うF.M.N. Sound Factory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82〜88年まで京大西部講堂に居住。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。