カレー屋店主の辛い呟き Vol.36 「AWAYDAYS」

出来たら毎週1本は映画館で映画を見たいなーと思うわけで。NetflixやHuluなんてサービスは昭和生まれにしたら夢のようなサービスで、多感な少年時代こんなものがあったらどんな大人に育ったんやろと思わなくもないけど。レンタルなんてものもまだ無かった少年時代、あってもマイナーな映画はまだレンタル出来なかった青年時代。金も無いので、名画座(って言葉も若い人には分からんやろな…)の3本立ての古い映画を見て「なんでこの映画を3本のうちの1本に。抱き合わせやんけボケ」と呟やいたり、逆にその3本のラインナップに込められた映画館の視点が分かって、新たなその作品世界の広がりが感じれたり。わざわざ小箱でマイナーな映画を見て、全く意味分からんけど「良かったわー」と嘯いたり。映画館独特の匂いと、暗くなって映画が始まる時のワクワク。んで、新しいカルチャーに触れて目の前にドアが開くような新鮮な感覚。それはオッサンになっても変わってなくて。新しい出会いと刺激を求める週1回の身近なエンターテインメントを楽しみに劇場に足を運ぶのが昔から変わらない日常。ただ、クリストファーノーランの「TENET」を見て、よー分からんけど「良かったわー」と嘯くことはもー無いけどさ。いや、マジわからんし…。あの映画。俺だけかな…笑

さてさて。いよいよ朝晩寒くなって来ましたね。ウチの店でも2台の石油ストーブのうちの1台に火を入れ営業を始めたこの頃。コロナの再流行なんてニュースもありますが、ミナサマいかがお過ごしでしょか? 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の”ふぁにあ”と申します。今回は、そんな日常の中でまた1本の映画に出会ったのでそのお話を。その映画は、本国の公開から11年経って日本で公開された「AWAYDAYS」。“1979年のマージーサイドを舞台に破滅的な若者たちと、日本ではほとんど紹介されることのなかった英国フットボール発祥の文化“Football Casual”<カジュアルズ>の黎明期を描いた映画“ってことなんやけど。最初にこの映画の情報を聞いたとき、「ん?カジュアルズ?どこかで聞いたことあるよーな?」って思ったんよな。

■“Football Casual”<カジュアルズ>ってなに?

映画の中身を話す前に、この映画の時代背景や<カジュアルズ>のコトを少し書いてくと。コトの起こりはこの映画で描かれてる70年代後半のリヴァプール。何千というリヴァプール(今、南野くんが所属してるチームね)のサポーター達が、チームに帯同してヨーロッパを回ってるうちにアディダスのスニーカーを手に入れ、それを履いてロンドンのチームとのAwayGameに乗り込むその姿に、ロンドン子達が衝撃を受けて真似をしていったって流れがあって。そもそも、今では当たり前なスポーツカジュアルやけど、その当時はあくまでスポーツをするときに着るもので、そんな恰好をしてるヤツは珍しかったワケ。この映画で描かれてる1979年その当時のイギリスは、首相のサッチャーの政策もあって労働者階級の若者達は、仕事も金もなく、将来への希望もゼロ。金がないからプッシャーにでもなって稼ぐかしかない時代。まぁなんしか鬱憤を抱えるそんな若者達は暴れるしかないわな。

そして、彼らの娯楽の一つがフットボール。今の日本のサッカーファンとは少し違って。んー「サッカー好きだから応援しよ!」ってなわけじゃなくてさ。イギリスってか、世界中かー?大体、上流階級が住む街にも、スラム街にもプロのサッカーチームがあって、スタジアムがあって。たとえば、大阪でゆーたら西成にあって、難波にもあって、梅田にもあって、少し離れたら尼崎にもあって、芦屋にもあってみたいな距離感。それぞれの街のアイデンティティを一番表して、地域のレペゼンを受ける存在がチームだってこと。例えば、西成のチームと尼崎のチームが対戦するとしたらどーやろ?そりゃやんちゃなサポーター同士もめるやろ?笑(関西の人なら分かると思うけど…)だからこそ、例えば、マンチェスター出身のOasisのギャラガー兄弟は、下町育ちなのでマンチェスターシティのファンで中流階級以上のファンが多い同じ街のマンチェスターユナイテッドを憎悪してるし、同じリバプール出身のビートルズでも、ポール以外のメンバーはリバプールのファンで、ポールは同じ街のエヴァートンのファン。これ解散の理由と言うイギリス人もいるとかいないとか(知らんけど笑)。

余談やけど、昔the orbのアレックスパターソンとツアー?かなんかの時に、アメ村の喫茶店でサッカー好きやでーって言うと盛り上がって「オマエはイギリスやとどこのチームのファンや?」と聞かれ「ウエストハムや!」って答えると、温厚なアレックスが真っ赤な顔してバーンと立ち上がり、胸ぐらを掴み「あんな糞みたいなチームのどこがえーねん?スタジアムは小便の匂いしかせーへんし!ほんま死ねーー!」と怒鳴られ、おもむろにシャツを脱ぐと「チェルシー」(だったと思う)ってチームのTatooがドーン。「オマエとは仕事は出来ん。明日からのスケジュールはキャンセルやー」と。結局、話を逸らそうと大慌てで、マンチェスターユナイテッドの悪口を焦りながら言い続けると「オマエはいいヤツやー」と機嫌を直すとゆーオチ。そんだけフットボールと、地域のアイデンティティとの繋がりが深いってのがイギリスって国のお国柄。未来の見えなかった若者達が、地域のレペゼンを受けるチームに帯同して暴れまくるそんな時代。そんな時代の若者達のユニフォームが<カジュアルズ>で、そんな若者達を描いたのがこの「AWAYDAYS」って映画なんス。

でね。僕がその<カジュアルズ>達のカルチャーの話を身近に感じたのは、「GRIFFIN」のマネージャーをしていた時期。Voの射延氏になんでフットボールカルチャーにそんだけ詳しいのか?なんで「WEST HAM」のユニフォームを着ているのか?(これが後にorbのアレックスとの喧嘩の伏線になるんやけど…)なんて話を聞いていると「弟のヒロキがもっと詳しいねん」と言われた約20年前。今ではすっかり連絡をとらなくなってしまったカレー屋の僕が、この映画の最後のクレジットで見たイノベヒロキ(LRF)の文字。いや、衝撃やったし、知らんかったし。なんで本国公開から11年も経った時期に公開されたん?って疑問も全て繋がった気がしたよ。映画の内容は次に書くけど、あの当時の自分とは違う場所に立ってる自分とあの頃の自分がバーっと映画の内容とオーバーラップして、ちと映画館の下のスタバで泣きそうに。んでアメ村の中古レコード屋にあの頃のように映画内でかかってた曲のアルバムを探しに行ったりさ。個人的にはすごく思い入れのある映画の1本に、あの瞬間なったわけさ。

GRIFFIN「FINAL CHAPTER dvd」から05年のlive。今見てもいいLiveやなーと。
イノベヒロキさん率いるLRF

■ポストパンク時代のエナジーが詰まった作品

映画「AWAY DAYS」予告

前段が長くなってもーたけど、この映画。“本国では公開当時『さらば青春の光』、『トレインスポッティング』、『コントロール』、さらには『スタンド・バイ・ミー』等の映画を例えに、さらにこれら全ての要素を詰め込んだ、若者の生き辛さを描いた小説『ライ麦畑でつかまえて』(J・D・サリンジャー著)のジャックナイフ版である”と映画のサイトに書いてる通り、自らの居場所を探し、強き者へ憧憬を抱いた結果、避ける事の出来ない運命にもがき苦しむ。ある種、時代や国によってそれぞれ形は違えど、若者の普遍的テーマを描いた作品。だけどジャックナイフ版ってのがミソで、とにかくストリートでリアル。主人公達は暴れまくるんだけど、日本のヤンキーモノ映画とは違ってBOXカッターで斬りつけるエグい描写。これ路上のリアルやろ。品川ヒロシ監督や某LDHの映画の製作陣には見てほしい笑(冗談です。いろいろと日本の事情もあるんだろーし)でも井筒監督の映画ってコレに近いからやっぱ作り手の問題なんかね…。

物語はスタジアム内外で暴れまくるチーム「パック」に憧れ、仲間に認めてもらう為、危ない行動に突き進むカーティーと、そんな「パック」に飽き飽きして音楽や、生きる意味や死生観みたいなもんを語り合える友を求めるエルヴィス。そんなの2人の友情からのボーイズラブ的感情(なんかな?)を軸に、ポストパンクの名曲をバックに疾走してくんやけど、最初からずっと流れる破滅のムード。繰り返される「いつまで続く?」「終わりなんだろ?俺たちはもう…」。この台詞を聞きながら、映画のサイトでYoung ParisianのTuneくんも書いてたけど、ずっと大好きな北野武の「Kids Return」のラストシーンの名台詞「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかな?」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ」を思い出す。「Kids Return」ではこの後の主人公達や観客に、この台詞で、希望の一筋が与えられてるって個人的には思うんやけど、この「AWAYDAYS」ではそんな希望は無くて、主人公達の別れとそれぞれの違った生き方が暗示されててマジ痛い。大人になると誰しもが感じる、思い出の中の友の変わらない姿と、変わってしまった自分。そんなコトを考えてもーた約1時間半。なんか切ない話やったっス。

YOUNG SAVAGE」ULTRAVOX! 映画を観てこの曲を探しにアメ村のレコ屋回ってみた…。

あとこの映画。劇中の音楽がまた良くて。当然この時代のイギリスを描いてるから当たり前なんだけど、まだ“!”時代のULTRAVOX!の名曲を久しぶりに聴いてアガッたりJOY DIVISIONやMAGAZINE、

ECHO & THE BUNNYMENなどポストパンク時代の名曲が劇中鳴り続けてるわけさ。話はオモロいけどなんでこの曲って興ざめする映画がチラホラあるやん?でも、この映画は完璧。んで、劇中主人公達が訪れ頭突きをかますレコード屋の店員は1970年後半の当時リバプールのレコード屋で働きながら音楽活動を始めてた「Dead or Alive」のピート・バーンズがモデルなんやろな(知らんけど)と想像したり、主人公達が再会するECHO & THE BUNNYMENのライブで、 ECHO & THE BUNNYMENとして(だったかどうかあやふややけど)演奏してたのが、後にArctic Monkeysのアレックス・ターナーとThe Last Shadow Puppetsでコンビを組むことになる、若き日の当時THE RASCALSのマイルズ・ケインだったり。このコラムを読んでくれてる皆さんには、多分大好物な音や、音楽的小ネタもふんだんに織り込まれてて、その辺りのカルチャーが好きな人は必見だと思うけどな。

映画「Awaydays」の中から The Rascals 「All That Jazz」
ECHO & THE BUNNYMENのカバー

世の中的にはマイナーな映画でも、自分にとって大切な作品になることもあるし、それは意外と家で寝転がりながらNetflixを観ててもそういう作品に出会わないよなってのが、個人的実感。週1本年50本ぐらい2、3時間作って映画を観る時間を作れなきゃ何の為の大人だって思うんだよな。こんな映画を観てまうとさ。コロナとか色々あるけど映画館に出かけてみてはいかが?一番身近なエンタメやで。

では今回はこの辺りで。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ

〒543-0031 大阪府大阪市天王寺区石ケ辻町3−13

ホイミカレー:毎週火木金12:00-売り切れ次第終了 アイカナバル:月—土18:00-23:00