特殊音楽の世界38「2020ベスト」
- 2021.01.01
- COLUMN FROM VISITOR
(今回は敬称略です)
音楽紙やweb媒体では2020年ベストアルバム選出が年末の恒例ですが、実は私はほとんど目を通してません。
特にジャンル別のベストなんてそこから抜け落ちるものが多いに違いないと思ってます。80年代のサンプリング文化でジャンルは一旦無効化したはずなので、それ以降さらに多種多様化した音楽をジャンルで括るなんてほぼ不可能ではないのかと思っているからです。
ジャンル内に収まるような、あるジャンルに特化した音楽の面白さもわかりますがそれから逸脱した音楽は結局どこにも引っかからないことになるんじゃないでしょうか。
Web媒体はともかく雑誌となると締め切りの関係で年末近くのリリースは入らないことになりますしね。
でもジャンルに関係ない選者個人の判断によるベストを見るのは楽しいです。自分では思いもつかなかった見方や全く知らない世界を教えてくれるからです。
ということで今回は私の狭い知識による独断での2020ベストアルバムをリストアップしてみます。
コロナ禍でライヴが減ったこともあって、今年はフィジカルなリリースだけでなくbandcamp等を利用したデータ配信での作品アップがとても目立った年でした。
Bandcampで配信されたものの中にもたくさん名作があったのですが、今回はフィジカル・リリースでのベストに限らせていただきます。
最初はやはりこの人のこの作品。
山本精一「セルフィー」
もうここで触れる必要がないほど、多くの人がベストに挙げられていると思いますが、2020年を代表する大名作だと思うのであえて紹介します。
前作の(これも今年リリース)「CAFÉ BRAIN」も素晴らしかったですが、「セルフィー」は山本精一の持つ多様な側面をもれなくフォローしており、更にそれを決して散漫に並べるではなくトータルに一つのアルバムにまとめるという、とても難しいことをポップにやり遂げた奇跡のような1枚だと思います。
羅針盤、なぞなぞ、crown of fuzzy groove、想い出波止場、ありとあらゆる山本精一の要素がこのアルバムの中に最強の状態で存在しています。
次に、山本達久「ashioto」「ashiato」。
山本達久はbandcampでも素晴らしい作品を続々と出してますが、フィジカルで出たこの2枚のアルバムの凄さは特別です。
「ashioto」はこれを。
ジム・オルーク、石橋英子との活動や、劇団「マームとジプシー」の音楽、UAや七尾旅人、前野健太のサポート・ドラマーとして活動する山本達久を初めてみたのは、この連載でも紹介したことがある新世界ブリッヂでの内橋和久主催のF.B.I.(フェスティバル・ビヨンド・イノセンス)でした。(90年代半ばくらいかな?)
当時山口県在住であった山本達久のことは、すごいドラマーがいるとすでに他地方でも噂にはなっていたみたいですが、より多くの人の関心を引くようになったのはF.B.I.がきっかけだったのではないでしょうか。
F.B.I.での出演は一楽義光(aka.ドラびでお、山口在住)推薦による山口在住のミュージシャン(勝手に「山口組」と呼んでいましたが)の一人としてでした。
初めてみたときの衝撃はすごいものでした。今までどこにもないような柔軟なドラム演奏、しかも若い。なんかすごい人が出てきたな、とおもったものです。
その後、東京でジム・オルークや石橋英子との活動でその才能をさらに花開かせるわけですが、このソロ連作2枚はそうした着実な活動の成果が結実した傑作だと思います。
本人がこの連作について話しているインタビューがあります。
音を聴くのが一番ですが、このインタビューも面白いです。
ドラマーでありながらその枠を飛び出し、しかしそれでもやはりドラマーである、という全く新しいタイプの音楽家であるかもしれません。
https://www.cinra.net/interview/202010-yamamototatsuhisa_ymmts
そしてこの連載の35でも紹介したのですが、新宿「裏窓」からリリースされた穂高亜希子+西村卓也(シェシズ、工藤冬里、篠田昌已等々)+高橋幾郎(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ、不失者等々)によるCD-Rです。
詳しくは特殊音楽の世界35を読んでいただければわかりますが、やはりこのCD-Rの切実さと迫力は今年聴いた中でも群を抜いています。
次が手前味噌になるかもしれませんが、私が自信を持ってリリースしたもので客観的にみてもベスト・アルバムだと思っているF.M.N.からの2枚を紹介します。
ONJQ(大友良英new jazz quintet)Hat and Beard。
http://bridge-inc.net/?pid=149222698
これ、自分で出して言うのも何ですがすごい作品です。濃厚にして強力、パワーと繊細さ、緻密な疾走感、ここまで濃密な傑作は近年それほどないと思っています。
劇伴も含んだ大友良英作品の近年の充実度から言っても頂点に位置するかもしれません。いや、これから先もっと先を行ったものをどんどん出す予定なのですが。
ゆらゆら帝国や坂本慎太郎を手がけるPeace Musicの中村宗一郎のmix&masteringによる素晴らしい音場のライヴ・アルバムです。
次は2005年にリリースしたLovejoy「かけがえのないひととき」リマスター/ボーナスディスク付き再発盤。
http://bridge-inc.net/?pid=151452157
元アーントサリーのbikkeと、数多くのミュージシャンをサポートしまた数多くの映画や舞台の音楽を手がけてきた近藤達郎を中心に長年活動してきたLovejoyですが惜しいことに一昨年活動停止を宣言しました。
Lovejoyは20数年以上の長い活動でしたが活動ペースが非常にスローで発表作品はアルバム3枚、コンピレーション参加2枚だけという少なさですが、それにもかかわらずその音楽は多くのファンに愛され、そして山本精一、小川美潮、sakana、見汐麻衣、あふりらんぽ、白波多カミン等々多くのミュージシャンにも愛されてきました。
日々の生活に寄り添う歌詞、印象的なメロディをこれ以上ない達者なバンドによる流麗でパワフルなアレンジで聴かせる「かけがえのないひととき」は長い間廃盤でしたが、アルバム未収録曲もふくむデモ・ディスクをつけた2枚組で再発したものです。
デモと言ってもその完成度はすごいです。個人的には内外のネオアコの数ある曲でもベスト1だと思っている「百人の人に嫌われても」(既発アルバムには未収録)を騙されたと思って聴いてみてください。
とは言いながらもLovejoyの動画も少ないんです。年に2〜3回ライヴを行えばいい方、というくらいのスローペースだったので惜しいことに記録もあまりありません。
20年前の動画ですがdorive to 2000での動画を最後に紹介します。
2021年はいったいどうなるんでしょう?音楽も今や否応なく全く新しいフェーズに突入していると思いますがその結果が今以上にはっきり出てくるように思います。
それがどんなものであれ、とにかくライヴが安心してできる世界が戻ってくることを切に願っています。
F.M.N.石橋
:レーベル、企画を行うF.M.N. Sound Factory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82〜88年まで京大西部講堂に居住。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。