第40回 エルヴィス・コステロ自伝 エルヴィス・コステロ(著) 夏目大(翻訳)

エルヴィス・コステロ自伝 エルヴィス・コステロ(著) 夏目大(翻訳)
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アーティストの中で一番文才があるのはコステロじゃないかと感じさせてくれる自伝です。

アーティストの中で一番文才があるのは俺だと自負しているのはモリッシーだと思うのですが、そんなモリッシーの自伝より500倍くらいウイットにとんでいます。

トルーマン・カポーティーやF・スコット・フィッツジェラルドの小説を読んでいるような気持ちにさせてくれます。ここで書評を書くより、一本書き写したい気分です。

実は僕一冊だけ『スキゾマニア』という小説の本を出しています。読んだ人から「これ小説じゃないよね」と言われてしまいます。

だから今は小説を写経しております。バンドやる時はまずコピーをするじゃないですか、そうしないと曲がどうやって作られているのか分からないので、だから僕もそうやって人の書いた小説を書き写して、何とか小説というものの体力みたいなものを感じようと思っております。

全部書き写したいなと思うのが、この自伝です。話は色んな方向に飛ぶのですが、なんとなく時系列通りにまとまっていくテクニックが天才的です。

突然、時代が変わってポール・マッカトニーやボブ・ディランとのエピソードが出てくるのですが、その話がなんとなく彼の歌詞とリンクしたり、このアルバムがどういう意味があったのかというのと関係したりしているのです。

すごく謙虚なところもいいです。コステロは時代を変えたくらいのアーティストなのに、もう誰も僕のことなんか気にもしてくれてないよねという悲しい気持ちが全体を覆っていてそれがまたいいのです。アーティストだったらそういう状態に落ち入ることってよくあると思うんです。でも卑屈になってなく、他のアーティストのことはとってもリスペクトしてるんです。それは音楽を愛しているからだと思うのです。

コステロは、ミュージック・ビジネスが完成してから出てきた人です。サー・ポール、ディランらは今僕らが知っている音楽ビジネスを作ってくれた人です。僕らが食えているのって、この人たちのおかげなんです。この人たちが道を切り開き、畑を耕してくれたから、今僕らはこの世界で生きていけてるんです。コロナで全然食えなくなっても僕はなんとも思わないんですよね。だって、僕らが食えるようにしたわけじゃなく、この偉大な先人たちが食えるようにしてくれたから、僕たちいるんだと思っているからです。

そういうのに反発したのがコステロなどのパンクだったわけです。コステロ自身はパンクというよりも耕してくれた世代で成功出来なかったアーティストでもあるのですが、若い世代がそれらの世代に反発したのに賛同してパンク・アーティストになった人です。この自伝でもその感じはとっても伝わってきます。

オールド・ジェネレーションが仕切ってパンク、ニューウィイブ世代に声をかけて行われたカンボジア難民救済コンサートというすごいイベントが79年にありました。僕にとっては久々に生のフーが見れて、しかも凄い演奏を聴かせてくれました。完全にパンク、ニュー・ウェイブの連中を超える凄い演奏をしているんです。完全に別格なんです。youtubeに上がっているので見てください。

僕はこの時の「シー・ミー・フィール・ミー」を観て、俺はロックを信じれると思ったのです。この感覚みんな持つみたいで、サビの所のお客の興奮とか気が狂ったようです。ハマースミス・オデオンであんなにお客が一体になることは滅多にないです。

コステロはこの自伝でその時に出演した元レッド・ツェッペリンのロバート・プラントが、そのステージへの階段を上がる時に「天国への階段だな」と皮肉を言ってしまったと書いています。びっくりします。この自伝でそのことをあやまっていますが、絶対そんなこと言えないですよね。

ピストルズの面々もロバート・プラントにサン・モリッツ(当時僕はこのクラブが大嫌いなんですけど、お世話になっていた追っかけのお姉さんたちが行こう、行こうというのでよく行ってました。今はギャズズ・ロッキンブルースをやっている場所です。というかいまだにあるってすごいことです、今度ロンドンに行った時は久々に行ってみようかなと思います。ピストルズのメンバーとピート・タウンゼントがあったのもこのクラブです。そして「フー・アー・ユー」って曲が生まれるんですが)で会った時、土下座する悪ふざけで止めていたのに、これからステージ上がる人間にそんなこと言うか。コステロ凄いです。この時一緒にやっていたデイヴ・エドモンズが「ジョークだよ」と止めなかったら、「殴っていた」とロバート・プラントも後で語っていたそうです。もし殴っていたら、歴史が変わってたかもしれませんね。ピストルズが土下座した時も、ロバート・プラントは一瞬蹴飛ばしたら面白いかなと思ったそうですが、グッと我慢したそうで、歴史にはもしはないですけど、感慨深いものがあります。 こんな凄い話を、いい小説のようにサラッと書いているのがコステロの自伝です。本当に奥深く考えさせられることがこの本には書いてあります。僕はこの本を人生のバイブルにしようと思っております。