特殊音楽の世界39「クリスチャン・マークレー、ジョン・ラッセル、アイラー本のこと」
- 2021.03.02
- COLUMN FROM VISITOR
- クリスチャン・マークレー
前回はお休みをいただきました。3年ちょっと、休載なしで続けたので一回お休みさせていただきました。
今回はここですでに何度か紹介しているんですが、今年11月20日から来年2月23日まで東京都現代美術館で長期間の展示が決定したクリスチャン・マークレーのことと、他2点お知らせしたいことを書くことにします。
今回は動画が多いですよ。
まずこれを。デヴィッド・サンボーンのナイト・ミュージック出演時の動画です。
マークレーは「ターンテーブリスト」のパイオニアでもあるわけですが、日本でその名前が知られるようになった80年代中期はまだターンテーブルで演奏するということを理解してもらえず「DJ」と混同されることも多かったです。特に情報誌(懐かしいですね)ではターンテーブルで演奏すると伝えても、「それはDJと言います」と担当者から馬鹿にするような感じで訂正されたりもしました。
1999年に京都Club Metroでマークレーのライヴをやった時もこのプレイヤーを4~5台持ち込んでいました。ヴィンテージのプレイヤーで、このプレイヤーでないと思うように演奏できないということでした。
ちょっと笑えるのがこれ。けっこう好きな動画なんで紹介します。
クリスチャン・マークレーという名前を日本の多くの人に知らしめたのはやはりこの作品だと思います
タイトル通りカバーなしで売られています。そのため手に取るたびに(たとえターンテーブルに乗せることはなくても)自然とレコードの傷が増えていくことになります。
レコードの「記録して再生する」という特性をそれまでとは全く別の角度から考察したものです。
これね、最初に日本で売られていた時はジャケもないし傷もすでについているからという理由でゴミみたいな値段で売られていたんです。
record without a coverと同じようなコンセプトで有名なものがこれですね。
動画を見たらわかりますがレコードには足跡がびっしり付いています。タップダンスを片面プレスしたレコードをギャラリーの床に敷き詰めその上を観客が歩くことで付いた自然な足跡や傷をそのままにしてパッケージしたレコードです。
これを買った時レコード店で検盤したお店の人に「うわ〜、ひどい傷と汚れですね。他のものと替えますね。」「そのままでいいです」と言ったけどそれを理解してもらえず買うのに少し苦労した覚えがあります。
この2作でわかるようにマークレーは「記録」と「時間」の関係にとても注目しているように思えます。記録物である「レコード」が年数を経ることによりその「記録」そのものも変化していく様態に注目していたと思います。
「時間」に焦点をあてた映像作品がこれです。
この「Clock」はあらゆる映画の、時計の映像や時間を示すセリフのある素材を映像内の時計の映像に合わせて編集したものです。
映画のフッテージを組み合わせ編集するという映像作品は、有名なものではアンディ・ウォーホルの「KISS」等々他にもありますが、マークレーはやはり映像でも「時間」ということに注目点を置いているように思えます。
マークレーは2017年に札幌国際美術祭のために来日しています。その時の大友良英とのライヴ映像がこちら。Found objectsのタイトル通り楽器やターンテーブルの演奏ではなく、舞台に置かれた様々なガラクタで音を出しています。
最近の作品ではこれですね。
これは楽譜の代わりにピアノを弾いている(弾いていないのもあるようですが)100枚の写真を譜面がわりに、20人のピアニストがその手や指と鍵盤の位置を見て音を出す、という作品のようです。
タイトルの「Investigations」がどのような意味を持つのか興味深いです。
マークレーは他に写真作品もたくさんあります。
東京都現代美術館でのマークレー展、いったいどのようなものになるんでしょうか。実演もあるんでしょうか。とても楽しみで気になります。
次に先日逝去したイギリスのフリー・フォーム・ギタリスト、ジョン・ラッセルの追悼映像を紹介します。
フリー・フォームなギタリストといえばデレク・ベイリーが有名ですが、ジョン・ラッセルもその独自な演奏とフリー・フォームな音楽への貢献度でベイリー同様歴史に残る重要人物でした。
個人的には弦をジャランと弾く、いかにも「弦」を鳴らしてるラッセルの響きが好きだったんですけどね。
ラッセルは91年から即興演奏の月例コンサート「Mopomoso」を主宰しており、今回の追悼映像もその「Mopomoso」のメンバー(?)が作ったようです。
2時間以上ある映像ですが、本人の講演や演奏記録だけでなく、多くの人が2分程度の追悼演奏を提供し収録しています。
スマホで撮った映像からちゃんとしたスタジオで収録されたような凝った映像作品まで、ありとあらゆる記録方法で収録されており、しかも全く名前も初めて聞くような、様々な国のインプロヴァイザーの演奏を聴くことができる面白い映像作品になっています。
ジョン・ラッセルのことを全く知らなくても、2分程度に収められたフリー・フォームな演奏のショー・ケースとして観ても大変面白いと思います。
次に紹介するのは書籍です。
60年代に活躍し70年代に死去したフリー・ジャズのサックス奏者、アルバート・アイラーの研究本「50年後のアルバート・アイラー」です。
これは音楽本としては近来稀に見る名著だと思います。
ある音楽がその時代にどう捉えられていたのか、その時代がどういうものであったのか、他の国にその影響力がどう波及していったのか、そして今の時代にどう関係していっているのか、音楽分析だけでなく文学、映像、当時の評論に至るまで細かく分析している好著です。
それぞれ的確に分けられたテーマで考察された章に分かれ、しかもその章ごとに考察と現役ミュージシャンのインタビュー(もしくは対談)を挟む構成でとても読みやすいです。
たとえ一度もアイラーを聴いたことがない人でも音楽に興味がある人ならば面白く読めると思います。そしてこれを読めばアイラーを聴いてみたくなるのは確実です。
もちろんアイラーをちょっとでも聴いたことがある人にとってはこの上なく面白い本だと思います。
F.M.N.石橋
:レーベル、企画を行うF.M.N.SoundFactory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82~88年まで京大西部講堂に居住。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。