第41回 『サウンド・マン』グリン・ジョンズ(著) 新井崇嗣(翻訳) 

『サウンド・マン』グリン・ジョンズ(著) 新井崇嗣(翻訳) 
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アーティストの裏方さんが書いた本が大好きです。なぜ好きかというと、けっこうアーティストのあかん部分を赤裸々に語っているからです。一番面白かったのはビートルズのエンジニアを勤め、その後プロデューサーとなったジェフ・エメリックの『ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実』です。こちらは第11回で紹介させてもらっています。

今回はジェフ・エメリックに匹敵するエンジニア、プロデューサーのグリン・ジョンズの自伝です。本当はデヴィッド・ボウイのエンジニア、プロデューサーとして大活躍したケン・スコットの『Abbey Road to Ziggy Stardust』を紹介しようと思ってたんですが、まだ翻訳されてなく、僕の英語力が悪いせいか、あまり面白くなかったので、なんか躊躇してしまっていました。でも音的にはケン・スコットの作る音が僕は大好きなんです。どこか切なくって、セクシーな音作りなんです。『ジギー・スターダスト』なんてまさにそんな音ですよね。このアルバムは世界が後5年で終わるという歌から始まるんですけど、本当にロンドンのレスター・スクウェアで世界が終わるんだという切ない風景が浮かんできます。僕はこのアルバムを小学校四年生の時に買ったのですが、10年間くらい世界は本当に終わるんだろう、そしてそんな世界をスターマンが救出してくれるんだろうとずっと思ってました。いや、今もいつかスターマンは現れて世界を救うだろうと思ってます。そうじゃないと生きていけないですよね。歳とってスターマンがベーシック・インカムなのかAIなのか分かりませんが、その前に僕のスターマンは年金だったんだななという歳になってしまいました。悲しいです。

まさにそんなアルバムを完璧に仕上げたのはケン・スコットでした。ビートルズだと『ホワイト・アルバム』です。このアルバム、ビートルズの中で一番セクシーで、切ないですよね。そんな彼の音の秘密についてはどうやって作っているのかというのは本を読んでてもあまり分かんないです。感性の人なんでしょうね。

ジェフ・エメリックの本は一緒に実験している感じが楽しめたんですけど。で、グリン・ジョンズの本はどんな本かというと、アーティストと一緒にロックしている感じが楽しめるのです。僕はボウイの『ジギー・スターダスト』とビートルズの『ホワイト・アルバム』の音が好きと書きましたが、もう一つ大好きな音がありまして、それがザ・フーの『フーズ・ネクスト』なんです。その音を録ったのがグリン・ジョンズなんです。『フーズ・ネクスト』のことを知る人は少ないんですけど、むちゃくちゃロックなんです。今の若い人が聴いても多分どこがロックなのというかもしれません。でもこのアルバムが一番ロックだったことがあるんです。30年前くらいのローリング・ストーンの名盤500ではベスト3位くらいに入ってたんですが(現在は圏外です)、日本の評論家の人たちはなぜこのアルバムがロックなのか理解してなかったんです。だからフーは日本でずっと評価が低かったのです。フーの音楽とは、ピートがギターを壊すとか、キース・ムーンがむちゃくちゃドラム叩くとかそんなことなんじゃないんです(日本の昔の評論家はそんなことばかり書いてました)。フーの力というのはロックを信じる力なんです。『トミー』や『フーズ・ネクスト』を聴いてたらロックを信じる力を得られたのです。ロックを聴くことによって自分にはない何かをやれるんじゃないか、何か変えれるんじゃないかという力を得ることが出来たのです。何を大袈裟なことを言っているんだと思われてると思うのですが、フレーミング・リップスのウェインも同じことを言ってました。フレーミング・リップスのショーが儀式のようなスタイルになっているのは、あれは一生懸命彼が若い頃観たフーのライブを再現しようとしているのです。観客に何か力を与えようとしているのです。

そんな音楽を完璧に作ったのがグリン・ジョンズなのです。『トミー』の時にはまだこのマジックが生まれてないのですが、『フーズ・ネクスト』にはまさにピートがライブで追い求めていた音が再現されているのです。

グリン・ジョンズがなぜそんな音を作れたかというと、彼は元バンドなんです。しかもローリング・ストーンズやヤードバーズがライブ・ハウスで凌ぎを削っていた頃の同期なのです。他のアーティストと同等な位置でいるんです。ジェフ・エメリックの本を読んでいるとゴミ屑のように扱われているんですが(当時のエンジニアの地位ってそんなものだったんです)、グリン・ジョンズは同じ窯の飯を食っていた仲間なので、アーティストも元仲間ということでじゃけんには扱えないんだと思います。イギリス人こういうのうるさいですからね。偉くなった奴が上から目線になる人間をすごく蔑みますから。

彼の出身地はエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジと同じサリーなんです。グリン・ジョンズもそうなんですが、同時期にみんな生まれて、みんなロックな音を作れるようになっているんです。サリーはキュー・ガーデンなんかあるところで、ロンドンのへの通勤圏で、中流の人が住む町なんですけど、そこの水には何かがあるとしか思えないのです。中流で金持ちの子供だったということが一番の理由なような気がしますが、僕はドイツの空爆の影響がブリティッシュ・ロックを生んだじゃないかと思ったらりしているのですが。日本も大空襲受けたんですけど、なんでロックが生まれなかったんですかね。逃げまどうだけで、勝たなかったからですかね。ロンドン周辺はあんだけ空爆されたのに(日本ほど酷くないですけど)、ナチに最後まで抵抗して、勝利したからですかね。コロナが終わったらサリーに1ヶ月くらい住んで、ロックて何だったろうと考えたいなと思います。

この本はそんな本じゃないですけど、フー以外に、ビートルズ、ストーンズ、初期のイーグルスと一緒に冒険している感じが楽しめます。