シロート・クロート・グレーゾーン Vol.9
- 2021.04.02
- COLUMN FROM VISITOR
- ヴァイブス・カーテル, バウンティ・キラー
9回目のシロート・クロート・グレーゾーン書きます。江頭です。さて先月に船出をするとかなんとか書いたのですが、かれこれご縁があり在籍していましたカエルスタジオミュージックを退職することとなりました。出向でも出稿でもなく出航です。実に在職15年。ほんとにいろいろとお世話になりまして、お仕事をご一緒させて頂いた方々には感謝申し上げる次第でございます。
この原稿を書いている時点ではまだ決まっていないことも多いので、書けませんが来月には諸々決まっていると思いますので、またお知らせできればと勝手に考えております。とりあえずは自分に「お疲れさまでした」と言いたい。引き続き音楽にまつわることを仕事にしようかとも考えております。
2019年に故人になられましたカエルスタジオの麻苧さんに「一緒に仕事しませんか?」と、お誘いをうけまして今に至るわけですが、振り返りますと随分と色々な経験をさせてもらったと思います。大阪城ホールでのライブ制作も日本武道館での制作も、舞洲で1万人級の野外イベントなどを主催できたのもカエルスタジオミュージックで仕事をしたからこその経験であったのだと思うわけでございます。もちろん所属アーティスト達があっての事ですので当然そこにも感謝ですし、47都道府県ツアーを二回も経験させてもらったRED SPIDERには感謝の念に堪えないわけであります。
ということで、今回は在職した15年を振り返り、ダンスホールレゲエのトピックスを書こうと思います。まずこのダンスホールレゲエというシーンで仕事をしていると、そこでは半ば当たり前のように思っている事が実は世間的に常識外であることに気づかされる事があります。それがVYBZ KARTEL(ヴァイブス・カーテル)です。それはそれはとても常識外だと思うのです。
このジャンルに興味が無い人にとっては誰それ?な話なのでしょうが、ヴァイブス・カーテルはジャマイカのトップアーティストです。オチじゃなくて先に記しておきますが2011年に殺人罪で有罪判決を受けて終身刑となり現在も収監中です。いいですか?現在は収監中でカーテル受刑者なのです。それでも現在もトップアーティストです。ジャマイカの法制度はよくわかりませんが、終身刑であれ35年後の2046年には仮釈放の可能性があるようです。でも仮釈放の時点で70歳オーバーのお爺さんになっています。
カーテルはダンスホールレゲエ界では非常に有名なDeeJayでして、以前にも説明したかもわかりませんが、ダンスホールレゲエではマイクを持って節回しをつけて歌う人をDJといいます。いわゆるレコード回しのDJと区別するために文字としてはDeeJayと表記されることが多いです。
カーテルのキャリアは当時トップアーティストのBOUNTY KILLER(バウンティ・キラー)の楽曲のリリックを書くいわゆるゴーストライターとして注目を浴びヒット曲を連発させたことによりその名前が知れ渡る様になります。
一時はバウンティ・キラーが取り仕切るグループであるAlliance(アライアンス)に属していましたが離脱。同じグループに所属したDeeJayのMAVADO(マヴァド)との間でビーフ(確執)が発生。カーテルは地元ポートモア・エリアの手下や他のDeeJayたちと共にPortmore Empire(ポートモア・エンパイア)を立ち上げる。以降2007年から2009年にかけてお互いにディス曲をリリースしまくりの激しい応酬。グループごとにも抗争するし、それぞれがレペゼンするエリアも巻き込んでガチ抗争。
マヴァド側が”Gully(ガリー)”と呼ばれるエリアでカーテル側は”Gaza(ガザ)”と呼ばれるエリアです。もちろんギャングも沢山いますからキナ臭い感じで、ガチな抗争です。ちょうどこの時期にカエルスタジオでZUMZUM MAGAZINEというフリーペーパーを編集し出版していた時期だったので、ジャマイカ在住の方の現地リポートや写真なんかをまとめたりしていて、この辺りの情報をすごくチェックしていたのを思い出します。興味本位で抗争地域を地図でチェックしてみたりしていましたが、距離感を大阪で置き換えると淀川区と住吉区で抗争してる感じぐらいですかね?しらんけど。その確執が最高潮に盛り上がったのがコレ
いわゆるDeeJayクラッシュです。ジャマイカの年末の風物詩『STING』のメインイベントです。関西弁の字幕がエエ感じですね。なんかHIP HOPのMCバトルなどと比べられるときもありますが、やはりDeeJayクラッシュの方がエグイですよね。最終的にはこの一連のイザコザも2009年末頃に抗争をやめるようにとジャマイカの首相が仲裁し沈静化しました。最後はカーテルとマヴァドが記者会見をしてチャンチャンだったと思います。記者会見の映像もYouTubeを探せばあると思いますけど、終始二人ともニヤニヤしながら記者会見をしていて、見ているとなんかコレ仕込みちゃうか?なんて思ったり、思わなかったり。
その後のカーテルはますます創作的でありつづけ、数多くの曲がリリースされ快進撃は続きます。それはダンスホールレゲエだけにとどまらず、カーテルを全く知らないひとでも、この曲は聴いたことがある人もいるかもしれませんが、DIPLOのユニットMAJOR LAZERがカーテルを起用。DIPLOは異ジャンルですけど、なにか新しい事が始まろうとしている感で当時はワクワクした記憶があります。
ダンスホールレゲエだけにとどまらずにRHIANNAとかMISSY ELLIOTやBUSTA RHYMESなどともコラボレーションしたりしていますね。世界的にヒットした曲はRamping ShopとかClarksでしょうか。そういえば、この曲が流行ってる時にクラークスのワラビー買ったな…
で、先述のとおり2011年には殺人罪で逮捕されます。終身刑が確定して以降は牢獄です。そして現在に至るのですが、なんとですね!収監されてから現在に至るまで獄中から大量の曲がリリースされ続けているのです。というかヒット曲もいっぱいあるし、本人は出演していませんがMVなども次々と投下され続けています…
刑務所内でレコーディングするんです。どういう事なんでしょうか??日本では考えられませんよね。ちょっとしたことで警察に捕まっても即活動自粛の国ですからね。殺人で服役中の囚人が獄中からヒット曲をリリースするなんぞ想像外やでしかし!
以下にカーテルが獄中からリリースした曲のYouTubeをリンクします。いっぱいリンクしますので、気になるのがあれば聴いてみてください。他にも大量にあります…
色々とリンクしましたが、こんなのは、ほんの一部です。実際には鼻血が出るぐらい曲がリリースされていて、アルバムとかリミックスなどなど大量に音源があります。刑務所からありえへん数のリリースです。いとおかし!
今回はこのへんで、今月もありがとうございました。 江頭 善史