シロート・クロート・グレーゾーン Vol.10
- 2021.05.03
- COLUMN FROM VISITOR
江頭です。10回目のシロート・クロート・グレーゾーンです。先月にも航海だとか新たに出航だとか、なんとか書いたのですが、15年在籍した会社を退職しまして、5月に独立してあたらしく会社を立ち上げることになりました。
会社名は株式会社ベースラインということにしたんですけど、社名を決めるにあたって、なにか音楽にまつわるワードにしようということで、いろいろ候補がありましたが、結局は自分の好みで決めるのが一番よかろうと思いましてですね、最終候補の2つの中から決めたわけであります。
候補その1がRIMSHOT(リムショット)で、あのアレですねドラムのスネアの表面と同時にふち部分(リム)を叩く、ドラムスティックを水平にもってカツンと叩くあのスネアのあの音のアレです。そして候補その2がBASSLINE(ベースライン)です。これはそのままベースのフレーズのことですね、で、こちらに決めました。どーでもええ話で、すみません。ということで、社名になにか特別な意味があったりするわけではないのですけど。
社名をどうしようか悩んでいる時に友人や知人に相談してみたんですけど「そんなもんなんでもエエやん」という意見とか、ニヤニヤしながら「株式会社アドレナリン」とか「株式会社ライオット」とかヘビメタバンドみたいな名前を適当に意見されるので、途中から人に相談するのはやめました。
まぁ結局はそういうことで、自分自身で決められたのでよかったのだと思いますけど。なにごともそうですが、ネーミングというのは、なかなか大変な作業ですね。子供の名前を決める方がまだカンタンでした。
つーことで、たいした見通しもないのに世間の荒波へと、ひとり航海をするわけであります。どうか皆さま、難破しそうになってアタフタしている私を見つけた時には救援ボートで助け舟お願いします。で、なんの会社かって?それは今から決めていくのです。はい。
そんなこんなで、前回に引き続いて、冷静に考えると不思議でいっぱいのダンスホールレゲエの魅力にフォーカスしつつ書いてみたいと思います。今回はRIDDIM(リディム)です。これはRHYTHM(リズム)のことで、ジャマイカ訛りの英語発音でリディムとなります。ようするにリズムトラックですね、オケとかバックトラックとかともいいますね。アーティストはその歌のはいっていないオケに歌とか、ラップとか、声を吹き込む(レコーディングする)わけですね。そして曲ができるというわけで。
まぁ、ここまでは普通の話なんですが、ダンスホールレゲエの他と一線を画す最大の特徴として、同じRIDDIMに複数の歌い手がレコーデイングしてリリースするというのがありますね。これは他のジャンルにはない特徴です。
同一のRIDDIMに別の歌い手がそれぞれタイトルをつけてシングルリリースするんですね。その昔はアナログでのリリースですから、レーベルからは同オケの7 inchレコードが複数タイトル販売されるわけです。これってめちゃくちゃ経済的ですよね。1つのRIDDIMで大量にリリースするわけですから。
しかもまたイイ感じなのが、そのRIDDIMに、いちいち名前がついているんですね。「スレンテン」とか「ヘブンレス」とか「マスターピース」とか「バッドカンパニー」とか様々です。黎明期には、そのRIDDIMに乗せて初めて歌われたタイトルが、そのRIDDIMの名前になったり、リリースされたなかで一番セールスがよかったタイトルが自然とそのRIDDIMの名前になったりすることが多かったようですが、どこかのタイミングからはRIDDIMの名前が先行してリリースされていきます。
また、独特なのが、同じRIDDIMの複数の曲が、1枚のLPやCDとしてコンパイルされて商品化され、いわゆるONE WAY(ワンウエイ)と呼ばれるアルバムがリリースされます。つまり全部オケが同じアルバムです。
まず先にアルバムのリリースがあり、そこからシングルカットしていくという主流のプロセスとは真逆ですね。大量シングルリリースからのアルバム化という他ジャンルにはない謎のアルバム、“ワンウエイのアルバム”がリリースされるわけですね。
ダンスホールレゲエをよく知らない人からは「単調でなんか全部おんなじに聴こえる」なんていうことを耳にしますが、そらそうやろね。オケおんなじやねんからね。この同じRIDDIMで複数曲がリリースされるという独特の文化がダンスホールレゲエの醍醐味のような気がします。その時代ごとやシーズンごとに流行っているRIDDIMというのが存在するわけです。
以下つらつらとYouTubeをリンクしていきます。この曲は超有名なRIDDIMでSLENG TENG(スレンテン)ですね。いわゆる打ち込み系RIDDIMのスタート地点。打ち込み系の“1丁目1番地”でしょうか?これを語らずして!というやつです。1985年制作です。WAYNE SMITH(ウェイン・スミス)のこの曲がオリジナルですね。なんか聴いたことあるな?みたいな人もいますよね?めちゃくちゃ有名な曲なんですけど。知らないですか?という私も当時は小学生なのでリアルタイムでは知りませんけど。
このRIDDIMは現在までに何度も何度も数々のレーベルにリメイクされながら古今東西ありとあらゆるアーティストがリリースをしています。始まりはジャミーズ・レーベルからのこの曲で、これもめちゃ有名な話ですが、日本のメーカーCASIOから発売されていたカシオトーンのプリセットパターンの“Rock”を元に制作されています。もろそのまま使っています。デジタル革命の始まりですね。コンピューターライズドというやつです。
時代がいきなり飛びますが、1999年制作のSTREET SWEEPER(ストリート・スイーパー)です。えーと今から22年前ですね。天才トラックメーカーSTEELY & CLEVIE(スティーリー&クリーヴィー)制作です。当時のいわゆるレゲエのクラブに行くと、イカついおにいちゃんと網タイツのおねぇちゃんが沢山いた。ダンスフロアーでかかっていたのは、たしかこんな曲だった。懐メロですな。かっこええRIDDIMです。
これは2003年なので、今からかれこれ18年前。最近のような気もしますが、まぁまぁ昔ですね。CORDEL“SCATTA”BURRELL(コーデル“スキャタ”バレル)制作のBAD COMPANY(バッド・カンパニー)です。個人的には数多あるRIDDIMのなかで、こいつが一番好きかもしれません。そう!新会社名はバッドカンパニーの方がよかったんちゃうやろか?いや、サブイな。
2002年に世界的な大ヒットとなるDIWALI(ディワリー)という化け物RIDDIMも登場したりしました。その他にもイケてるRIDDIMが量産されて曲が大量にリリースされ、“ワンウエイのアルバム”も大量にCDでリリースされ、ほんの数年前までは活況でしたが、とあるタイミングで、RIDDIMが先行して流行りが作られていくようなマーケティング手法が急速に廃れたような気がします。どうでしょうか?
おそらくですが、アナログレコードからCD時代を経て音源のデーター化が進み、そしてダウンロード販売の時代を経由してサブスク化したことや、またYouTubeでのMVによる公告収入化なども存在感を増しながら、時代が変化してしまったのが要因なのでしょうか。
ま、世の中の流行り廃りはテクノロジーの進み具合と共に変わっていくものですから、おそらくこれで正常運転なのでしょう。そう考えるとTikTokとかは“ワンウエイのアルバム”に近い感覚かもしれませんよね。知らんけど。
今年はFUJI ROCK FESTIVAL開催がアナウンスされましたね。ただしコロナ禍のなかで海外アーティストの来日は叶わぬようですが、そのぶん特別なFUJI ROCKとなるのではないでしょうか。そういえば数年前にCHRONIXXがFUJI ROCKにラインナップされていましたよね。新曲がめちゃくちゃカッチョよいのでリンクしておきます。今っぽい音色がグッドです。
今月も読んでいただいて、ありがとうございました。また来月に。
江頭 善史