カレー屋店主の辛い呟き Vol.43 「魚豊という漫画家の話」
- 2021.07.06
- OSAKA

大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の”ふぁにあ”です。相変わらずのコロナ禍の中、皆様はいかがお過ごしですか? 国や府のエラい人達から繰り出される、対コロナのオモシロ作戦に翻弄され続けながらも、当店は、相も変わらずボンヤリ営業中。ありがたい話で収入が下がったコト以外は、個人的にはなーんにも変わってないな。貧乏は強い!てか、デブが少しやせても、デブはデブやからってのと一緒とゆーか。(より分かりづらい…)イキッて言えばお金にフォーカスせんよーになったんやなーと。まぁそんな感じの日常が続いとります。んで、昨年の今頃、ここで何書いてたんやろーと自分の書いたバックナンバーを読んでみたら、当時の安倍政権の政府や、官僚に「ジョジョの奇妙な冒険」を読んでから出直せボケと怒ってた。笑 早いねー1年。んで、マジでなーんも状況は変わってなくて笑けてくる。酒出すなの次は、ゴールデンステッカー制度ってな…。もはや、漫画やで。まぁ、怒ってても、呆れててもしゃーないので、オモロく生活するコトだけに集中しよかと思てますけど。はぁーなんだかねー
さてさて。今回はコロナ禍だったこの1年。少なくなった飲み代をいいコトに、バンバン買い続けた漫画の数々の中から、必ず読むべきと思った作品&作家さんをご紹介。もうすでに漫画読みの中では、何を今更とゆーほど、この一年で評価が確立した漫画家さん。この方の書かれてる作品に、この一年エグラれっぱなしやったし、コロナ禍の、いろんな状況に対しての、自分なりの指針になったマンガやったな。
■「チ。―地球の運動について―」魚豊

僕がこの魚豊(UOTO)さんを知ったのは、ビッグコミックスピリッツの連載がスタートしたタイミング。余談やけど、僕のマンガ生活の流れって、毎週一度ネットカフェに籠って週刊、月刊誌を追いかけて、一緒にWeb連載もチェック。その後、気になった作品はWeb版をダウンロード。んで、個人的保存版って作品は紙で。そして個人的殿堂入り作品は2冊買い(誰かに貸して帰って来ないこと想定..)と段階を経ていくんやけど(なんか改めて書いてみるとまぁまぁキモいな…)、この作品は連載3、4話目で名作の香りしかせんかった。なんしか、誌面から漂う熱量が半端ないねん。
この「チ。―地球の運動について―」は、15世紀のヨーロッパを舞台に、異端とされていた地動説を証明しようとした人々を描いた作品。地球を中心に天体が動いているのか、地球が太陽の周りを動いてるのかみたいなアレな。その当時のキリスト教的世界観のなかでは、「地球動くわけねーだろ」ってのが常識かつ絶対。でも、科学的立証を積み重ねてみると、どーも違う。それちゃうやろ?と言うと、異端信仰とされ拷問。さらに言い続けると火あぶりでジエンド。そんな時代に真実を追求する人達の物語やね。
物語の最初の主人公ラファウは、「この世はバカばっかやで、成功するのチョロいチョロい」と考えてる合理的な考えを持つ神童。その当時、学問の最高峰とされている神学を学べば成功が得られる彼。そんな彼が地動説を唱える研究者に出会ってしまい、そのつぎはぎだらけの常識は“美しいのか?”と問われることでストーリーは加速して行くねんけどさ。出会ってしまうんよな、生きてるとこんな場面にな。気づかんかったら、そのままぬるま湯に浸かってられたのになぁ。ほんまはちゃうと分かってながら、社会的成功の為、積み重ねるロジックって美しないよなぁ。まるで、今の日本の姿とリンクするわ。社会的な尊敬と成功を目指すのか、美しい真実に殉ずるのか。主人公ラファウの決断と、その言葉とは。ってのが最初のストーリー。その後も様々な登場人物と、いろんな壁が出てくるんやけど、それは読んでのお楽しみ。
絵の素晴らしさや、テーマの選び方も素晴らしいんやけど、この「チ。―地球の運動について―」の最大の魅力は、地動説とその時代ってゆー舞台装置の中で人生観や、哲学を描いているところ。社会的な成功を得るために、自分の好奇心を殺せるんか?そして、そのロジックには美しさがあるんか?とかな。例えば、何かを表現したい人間にとってコレって永遠の課題。んで、的確に読者の感情を揺さぶる、作中のパンチラインの多さ。いつもこのマンガを読むたびに、何か突きつけられてる気分になるねんな。ちなみにこの作品を描いてる作者「魚豊」氏は、まだ23歳の俊英。めちゃめちゃ成熟してるのか?逆にこの年齢やから描ける話なのか? オッサン読者からすると分からんけど奇跡的な作品。んで、この作品の根底にある、人生や哲学を描くって作風は、この作品を見てから急いで買った、前作で実質的デビュー作の「ひゃくえむ」の頃からなんよ。驚き。
■「ひゃくえむ」魚豊

この「ひゃくえむ」は、魚豊氏初の連載作品。講談社のマンガアプリ「マガポケ」で連載されてたんやけど、僕は読んでなくて、「チ。」の単行本1刊のタイミングでまとめ買い。100m走と極めて漫画向きではではないシンプルなスポーツを描いた作品。スポーツマンガとしては、「スラムダンク」にしろ、「キャプテン翼」にしろ団体スポーツで、逆転の3ポイントや必殺シュートがあるから、広がりと、盛上がりを作れる訳やから。約10秒で終わってまう、走るだけのスポーツを漫画にするってなかなかのチャレンジやんな。
舞台は、ある小学校。軸になる登場人物は、走るコトだけは1番のトガシと、いじめられっ子の転校生小宮。偶然の交流の中で、トガシは小宮に「100mだけ誰よりも速ければ全部解決する」と言い放つ。そう、いつの時代も、足が速けりゃ子供時代はなんとかなるからな。笑 そしてトガシと小宮は秘密で特訓を開始。トガシにとって足がはやいことは、学校という小さな社会の中では、承認欲求と自分の居場所作りの唯一のツールやし。小宮にとって、走ることは、いじめられっ子の現実から唯一離れられる現実逃避の瞬間。いわば、理性ではしるコトと、本能で走るコトの内面の対比が描かれる。そして、迎えた運動会当日。小宮を嘲笑するクラスメイトに、理性では、損をするのが分かっていたトガシの本能が爆発する。「ブチカマせ小宮くんッ!!君は速いッ!!」。コレ極めてマンガ的なカタルシス。やけど、本当は現実も、物語は理性を本能が越えた時、初めて動き出すんやで。まぁ良くも悪くもやけど。
そして物語進み、その後の彼らの姿が描かれる。100m走の小学生チャンピオンのトガシが、歳を重ねるうちに才能が枯渇して勝てなくなっていく様を。そして、頭ではわかっていても、本能で走ることを辞めれない小宮を。そして2人の人生は理性と本能を行ったり来たりしながら交差して進んでいく。まさに、100mという競技をメタファーに人生の生き方を描いてることが、この作品が単なるスポ根マンガとちがうトコ。「あなたは100m=人生をどう全力で駆けるのか?」ってことを描きたいのかなと思うわけ。
両作品とも、分かりやすい敵をぶち破るんじゃ無くて。社会や常識の壁、自分の未来や時の流れを敵として、あなたならどうする?と読者に生き方を、突きつけてくるよーな2作。「言いたいことも言えないこんな世の中はーPOISON」と、かの反町隆史作詞の名曲を歌いたくなるよーなこんな世の中やけど。笑
何が大切なんかねと、熱さを思い出したくなる「魚豊」氏の作品。あきらめたオッサンやオバハン。希望ないわーとぼやく若者。みんなに読んでほしい快作なんで、お暇なかたは是非!お店で語り合えればサイコーです。
ほな、今回はこの辺りで。
ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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