特殊音楽の世界43「エレクロニクス・ミュージックとドラム」

タイトルがざっくりしすぎですが、今回はエレクトロニクスな音と生のドラム(パーカッション)の音をうまくレイヤーさせている印象深いドラマーを何人か紹介しようと思います。

 まずはマーティン・ブランドルマイヤー(Martin Brandlmayr)、Radian、Trapist、Polwechel、Kapital Bandといったバンドで活躍しているウィーン在住のドラマーです。

 フェネス、デヴィッド・シルヴィアン等々数多くのミュージシャンとの共演歴もあります。

 まずはソロの動画を。

 ドラムの生音とエレクトロニクスとのレイヤー具合が絶妙ですよね。隙間の多い演奏なのに多彩な音質の生音が、演奏に強いインパクトを与えています。

 彼の参加しているバンドで来日もしているRadianのライヴ映像もどうぞ。

 マーティンは大友良英の作品「quartets」にも参加しています。

「quartets」は石川高、一楽儀光、ジム・オルーク、カヒミ・カリィ、Sachiko M、アクセル・ドゥナー、マーティン・ブランドルマイヤーという8人のミュージシャンが参加しています。

この作品の説明が公式サイトにありました。

“《quartets》は、8名の音楽家の演奏を捉えたシルエットのみの映像が素材となっています。この演奏は「他のプレイヤーの存在を想像しながらソロで即興演奏をおこなう」という指示のもと、個別におこなわれたもので、この映像が展示室内のキューブ状のスクリーンに固有のアルゴリズムに則って再生されます。また、展示室の壁面には木や鉄などが音の振動で震える様子も常に表示されます。観客は、スクリーンとそれを取り囲む壁面を同時にすべて見ることはできないため、すべての演奏者の音を同時に聴くことはできても、全貌を見渡すことはできません。そして、コンピューターによって常に新しい組み合わせが生成されるため、どの瞬間も一度きりの「即興演奏」となります。”(公式サイトより引用)

 同じ瞬間が二度とないこの作品、9月8日まで24時間いつでも無料で観ることができます。

http://special.ycam.jp/quartets/

一聴して彼の演奏だとわかるオリジナリティあふれる演奏をするマーティン・ブランドルマイヤー、これから先も新しい音楽にとってキーとなる演奏家であり続けると思うのでずっとチェックしていこうと思います。

 次はこの連載の8回目で紹介した、日野浩志郎の「GEIST」にも参加しているニューヨークのドラマー、イーライ・ケスラー(Eli Keszler)。この連載では別の回で個別でも紹介してますね。

  彼はローレル・ヘイローのアルバムに参加していたりワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのツアー・メンバーとして参加したりと多方面で活躍中です。

  彼はローレル・ヘイローのアルバムに参加していたりワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのツアー・メンバーとして参加したりと多方面で活躍中です。

 これはBoomkatでのアルバム・オブ・ザ・イヤーにも選出された傑作アルバム「stadium」の再現ライヴです。これも細かく手数の多いドラムの演奏とエレクトロニクスとのバランスが素晴らしいで

 空間現代が運営する京都のスペース「外」で行われた彼のソロ・ライヴの素晴らしさを思い出します。

 今年、イーライは「stadium」を超える傑作アルバム「ICON」を発表しています。そこではクロアチアや中国、日本で現地録音された環境音も使われています。

 ヨーロッパでのブランドルマイヤーに対し北米でのケスラー、タイプは違うとはいえ同時代に二つの大陸で、エレクトロニクスとの関係をきっちりと捉えた優れたドラマーが同時期に出てきたことはとても面白いと思います。

次は前述のRadianでも活動しているシュテファン・ネメト(Stefan NéMeth)が結成したinnnodeです。Elektro Guzziのビァーンハルト・ボレアー(Bernhard Brauer)、Pan・Americanのスティーヴン・ヘス(Steven Hess)という二人のドラマーとネメトのエレクトロニクスの3人編成のinnode、今年「syn」という新作をリリースしました。彼らの2014年のライヴ映像を。

じわじわと盛り上がっていく演奏ですが、二人のドラマーがいる必然性がよくわかりますね。なんのために3人もドラマーがいるのかわからない某バンドとは全く違いますね。

エレクトロニクス・ミュージックにおけるドラム(というかパーカッションですけど)といえば忘れてはいけないのが、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオ(Morita Von Oswald Trio)におけるヴァラディスラヴ・ディレイ(Vladislav Delay)ですね。

ソロではエレクトロニック・デバイスも操るヴァラディスラブ・ディレイですが、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオでの彼のパーカッションはソロの活動と根本的に変わるところはないように思います。

 一瞬、電気マイルスの時代のマイルス・バンドの演奏のように聴こえるところも面白いです。

最後に超ベテランの映像を。

 エヴァン・パーカー(Evan Parker)のエレクトロアコースティックのプロジェクトからElectroacostic Nonetの演奏を。

これもまた、ポール・リットン(Paul Lytton)の叩いてるのはドラムじゃなくてパーカッションになります。

他のアコースティック楽器とエレクトロニクスが複雑に重なりあい、とても複雑で豊かな音を奏でるのはさすがだと思います。

 エヴァン・パーカーやポール・リットン、バリー・ガイ(Barry Guy)の様な超ベテランに混じり、ピーター・エヴァンス(Peter Evans)、オッキョン・リー(Okkyung Lee)のような今を代表するような世代の演奏家が一緒にやっているのも個人的には嬉しいです。

 今回のテーマから外れますが、あるアルバムがあまりに素晴らしいのでおまけとして紹介します。

 上述したElectroacostic Nonetにも参加しているニューヨーク在住の韓国人チェロ奏者、オッキョン・リー(Okkyung Lee)の新作「YEO-NEUN」がとても素晴らしいです。

ハープとピアノ、チェロにベースといった完全アコースティックの楽器の身の演奏で、室内楽のような静かなアルバムですがとても美しい大傑作アルバムです。

 配信とアナログのみのリリースらしいですがお勧めします。

F.M.N.石橋