カレー屋店主の辛い呟き Vol.46 「タバコにまつわるハナシ」

こないだ近くのコンビニにタバコ買いに行ったら、「10月からタバコが値上がりになります!新しい値段表も渡しときますねー」とおにいちゃん。知らんかった…。ふぁ!俺のタバコ、ついに600円や !! まぁ、今570円やから、変なおつり出んだけ有り難かったりもするんやけど。せやけど、今一日2箱吸ってるから1日1200円。やから、月36000円。ってコトは年43万!はぁ‥なかなかや…。

コンビニ前でコーヒーを飲みながら、ため息しか出なかった大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の”ふぁにあ”です。ミナサマお元気ですか? 今年のフジロックでも、散々煙草に振り回されて、喫煙スペースから出れんかった愛煙家の私。辞めようと思ったコトは一度も無いけど、もう時代遅れなってこたぁ分かっとります。でも、そんな狙い撃ちせんでもなーと思うわけさ。吸い始めた時からしたら、もう値段3倍。せめて、煙草代として沢山払ってる税金で喫煙スペースばんばん作れよ!って前から思ってるんやけど、あかんのかね。もう世界的には、大麻の解禁がバンバン始まって、1onzで250ドル位なんやから、1日2箱ペースで吸ってると、もう海外みたいに大麻のが経済的やんってな時代もスグよな。そもそもスペイン語でマリファナって、安いタバコってな意味やし。「日本でも〜」とかゆーと生きづらくなりそうなんでやめとくけどさ。ワハハ。

宇多田ヒカル「First Love」当時16歳が作ったメロディと詞。今聞いてもエグいわ。


せやけど、時代が変わるのは早いもんで。「最後のキスはタバコのフレィーヴァーがしたー」と16歳の宇多田ヒカルが歌ったのが1999年。約20年でヒット曲からタバコを連想させるもんは無くなっていったし、007シリーズのジェームズ・ボンドも2002年以降の作品から、しれっとタバコを吸ってない。オマエは、たしか1日60本のカスタムメイドのタバコを吸う男やったはず。なに禁煙しとんねんと笑

エンタメの分野でも、どんどん隅っこに追いやられるタバコ。今後、紙巻きのタバコを吸うシーンのある、映画も少なくなるんやろなぁと思うと悲しいわな。てなワケでね。今回はタバコが印象的な映画でも紹介してみよかと。映画やと副流煙とか関係ないし。少しはタバコ吸うヤツを大目に見てくれる人が増えたらええなーと。(ないか…笑)

■タバコが印象的な映画たち
そんな映画を、何本かリストアップしてみて思ったのは、結局ここまでの人生best10の映画を選んでみても、何本かは確実に入ってくるよなってコト。タバコ関係なく名作ぞろいやし、このタバコのシーンが名作と言わせる要素の一つとも言えるんかな。そんだけタバコって小道具は重要やったってことな。見たことある映画ばっかかもしらんけど、コレを機にもう一度見てみるのもオモロいかもよ。

『コーヒー&シガレッツ』(2003)

タバコと言えばまずはコレ。タイトルどおり「コーヒーとタバコ」を口にしながら、登場人物が会話をするだけの作品。何がオモロいねんと思うかもしんないけど、セリフと会話の間、アホなジョークと演出で、純喫茶で隣の席のオッサンの会話を盗み聞きしてるよーなオモロさ。西成の純喫茶で同じよーなコト度々あるもん。


監督・脚本のジム・ジャームッシュは、まずキャスティングから始めて、その役者のイメージや雰囲気を活かした脚本を書く「当て書き」って手法を取ってて。過去作品でも「ストレンジャー・ザン・パラダイス」のジョン・ルーリー、「ダウン・バイ・ロー」のトム・ウェイツ、「ミステリー・トレイン」のジョー・ストラマーといったミュージシャン達の、もはや演技なのか、素なのかわからん感じが、作品に、妙な違和感と独自のテンポを与えてると思うんやけど、この作品は、そんな彼の流儀を一番貫いた作品かもしんない。少しづつ撮りためてきた11本のエピソードを一つにまとめたこの作品。イギー・ポップとトムウェイツや、ビル・マーレイとウータン・クランのGZAとRZAとか興味深いキャスティングのメンツが、ほとんど本人役で、コーヒーとタバコを片手にただ話すだけ。でも、そんな日常のみの映画を観たあとの至福な感じってなんやろか?いつもこの映画を観るとえー時間すごしたなと思うねんな。
イギー・ポップとトム・ウェイツのエピソードとか、ケイト・ブランシェットの一人二役のエピソードとか、それぞれ11話に好きなシーンはあるんやけど、やっぱ、ここでは、最後のエピソード「Champagne」。名優2人の演技と、カメラワークが美しすぎて、毎回姿勢を正したくなるよ。ビルの清掃員の老人2人が、薄暗い地下室で、10分の休憩時間に嗜む紙コップのコーヒーとタバコ。マーラーの“悲くして美しい世界”が聴こえてくる中、「コーヒーをシャンパンだと思って飲もう」「人生を祝うために」とコーヒーをシャンパンだと思い込んで、飲むことを薦めるんやけど「オレは労働者階級のコーヒーのほうが好きだ」と返すこのシーン。この2人の人生の相棒であり、象徴するものとしてのコーヒーとシガレッツ。このマーラーの曲で使われてるフリードリヒ・リュッケルトの詩の意味を最近知って、見返すと泣けてきた。歳とったな…。

マーラー「私はこの世に忘れられ」(ピアノ連弾版)映画とは違うバージョンやけど、訳詞が書いてるので。

んでね、ジャームッシュ作品では、他にもタバコを吸うシーンが度々出てくるんやけど、後一本選ぶとしたらコレやろな。

『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991)


地球のある夜。舞台はロサンゼルス、ニューヨーク、バリ、ローマでは、ヘルシンキの5都市。同じ時間、同じ惑星の異なるタクシーで繰り広げられる、ついてない人達の物語がオムニバス形式で進行してく、ジャームシュらしいダラダラとした会話が続くだけの作品。彼の作品は好き嫌いがはっきり分かれると思うんやけど、僕は言うまでもなく大好き。とぼけた演出と、それをつかさどる間がたまらんのだわ。んで、この作品の中ではやっぱウィノナ・ライダーが、ヘビースモーカーのタクシー・ドライバー役をしてるロサンゼルスのエピソードが好き。

咥えタバコをスパスパ吸い、ブルーカラー代表のよーなタクシードライバーをしながらも、自分の将来を見据え、人生設計を立てているブレない女と、ハリウッドのキャスティングディレクターとゆー派手な世界に生きながらも、男に振り回され自分の人生に迷いを感じてるおばさんの30分の偶然の邂逅。そして、おばさんはこの30分で、また、揺るがないモノを得て、思い出して、タクシーを降りるって話なんやけど。
なんかねー。生き方とか、若さとか、老いとか、いろいろ考えてまうな。んで、ドライバー役のウィノナのかっこかわいいこと。上の耳にタバコを挟んでる姿とか、よくないっすか?むちゃくちゃチャーミングでティム・バートンの作品の彼女より、個人的には断然こっちなんよねー。

ナイト・オン・ザ・プラネットの予告


『スモーク』(1995)


タバコといえば当然この映画も外せない。実は、ちゃんと観たのはめちゃめちゃ最近。店でこの映画のハナシになってえーよな!と話していくと何にも覚えてないし、あってない。よく考えたら、原作者のP・オースターのファンで、この映画の原作と脚本を読んでただけやった…。ジジイになるとこんなことになるんやで笑 んで、急いで観てみたら、やっぱめっちゃ良かった。ま。どーでもええハナシやけど。

物語の舞台となるのは1990年のNY・ブルックリン。ボンクラ達のたまり場になってるハーヴェイ・カイテル演じるオーギーのタバコ屋。そこに集まる面々も、なんとも複雑な関係性の人間ばかり。ストーリーは進み、いろんな事件が重なり合う間に、絡み合った各々の人生も解きほぐされていくってな、おハナシ。脚本が人気作家のポール・オースターってコトもあって、メインストーリー進行中にところどころ挿入される“小話”が秀逸すぎて、いちいちグッとくるんよ。

んで、90年代でもタバコ屋店頭でタバコ吸いながら、野球の話に白熱したりするようなヤツらは、ボンクラ認定されてたんやなと考えるとオモロいね。ウチのカレー屋も当然タバコが吸えるワケで…。いや、ミナサンちゃんと会社務めしてたり、会社の社長だったり、医者だったり、社会的な地位も、仕事もちゃんとしてる人ばっかやけど。まぁ、僕を含めて何人かのホンモノのボンクラもいるけどさ 笑 タバコってアイテムがあると、やっぱ、仕事の種類や、生き方を越えて、コミュニケーションの場が産まれるねんな。ウチもこの映画のタバコ屋のよーに、少しは街にちゃんと溶け込む店になってきたのかなと。
しかし、最近この映画のよーなボンクラ達の会話劇中心の良作品が減ってきたよーな気がするわ、好きなんやけど。これ、タバコの衰退ともしかしたら関係あるんかね。なんかそんな気がするね。

『レザボア・ドックス』(1993)

映画とタバコってテーマやと、絶対避けられんクエンティン・タランティーノの監督第1作。後で、も少し書くけどこの人の映画には、欠かせないアイテムがタバコ。この映画は、宝石店強盗計画に失敗した男たちがたどる運命を、タランティーノ節満載で描いたクライムドラマ。その、タランティーノ節の最たるものが、タバコを吸いながら、あんま本筋とは関係ないコトを話すシーン。緊張と緩和。ドラムのブレイク。なんてかソレが、作品にいいリズムを産んで、登場人物達の人となりを伝える役割をしてると思うねんな。この映画のオープニングでも、いきなりギャング達のタバコをプカプカ吹かしながらのアホな会話がずっと続く。監督デビュー作の一番頭で、コレが「クエンティン・タランティーノの映画じゃい!」と映画界や客に宣言するよーなね。このオープニングを観て、当時鷲掴みされたし、映画史に残るオープニングやと思うで。

レザボア・ドッグスのオープニング。超有名な無駄話シーン

少し余談やけど。彼の映画で度々登場するのが、この「レッドアップル」ってタバコ。『パルプ・フィクション』(1994)で、ユマ・サーマンが何げなく吸っている銘柄が「レッドアップル」やし、ブルース・ウィリスが、ジョン・トラボルタと一触即発になる前に、買い求めるタバコもコレ。『キル・ビル Vol.1』(2003)ではユマ・サーマンを横から追っていくところで、レッドアップルのポスターがあったり。他にも沢山の登場例があるんやけど、実はこのタバコはタランティーノの創作。んで。ついに、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)では、この作品のエンドクレジットの時に、ディカプリオがレッドアップルの歴史を語るコマーシャルが流れる。このこだわりと遊びが、僕も含めたタランティーノ信者の心をくすぐり続けるねんな。

レッドアップルのエンドクレジットの広告

『狐狼の血』(2017)
東映実録ヤクザ映画のDNAを色濃く継いだこの作品。何かと、コンプライアンスや、なんやーとうるさく優しい世の中で、久しぶりにオモロいバイオレンスモノ。先日、part2も観てきたけど、なんとかシリーズ化出来そーな気がするな。個人的には1作目のが良かったけどさ。もともと、人生ベスト10の映画を選んだら「仁義なき戦い」が上位にランクインする私。血が沸騰するんスね、こーゆーの観ると。

当然アウトローを描いた作品なんで、登場人物ほぼみんな咥えタバコやったけど、やっぱ役所広司演じる大上のハイライトを吸う姿は格好イイ。ヤクザ映画のタバコゆーたら、両切りショートホープかパーラメントが定番やけど、刑事やけど悪徳でエグい捜査をする大上は、同じハード目なタバコやけどハイライト。タバコ吸わん人はよー分からんと思うけど、大上の立場を表すメタファーとしたら、これ絶妙のチョイスやねん。ネタバレになるから、あんま言わんけどpart2では大上のハイライトを引き継ぎ、このストーリーを引っ張るコトになる松坂桃李演じる日岡。タバコにまつわるロマンって、こーゆーコトなんスよ。

『エル・マリアッチ』(1993)
この映画スゲー好きなんすよ。んでこの映画でも、タバコがえー仕事してんねんな。監督は、後にこの作品をスケールアップした続編の「デスペラード」や「シン・シティ」なんかの、ヒット作を飛ばすことになるロバート・ロドリゲスで、この作品が彼の長編デビュー作。実は、この映画本編80分で、撮影日数はたった2週間、製作費は約7000ドル(当時のレートで90万ぐらい?と激安。全てぶっ込んでの予算90万すごない?

ストーリーは歌でのし上がる夢を持つマリアッチ(歌手って意味な)が、ギターケースと黒服姿だったことから、見た目がなんとなく殺し屋に似てるってな理由で、悪党のボスに狙われ、ギターを弾くんやなくて銃を弾くってな具合の荒削りなエンターテイメント。でも、その荒さがものすごい勢いとグルーヴを生んでるねんな。

んで、実はこの作品。悪党のボスの顔芸で、成り立ってるんちゃうかと思うくらい、ボス役の俳優さんがいい味を出してて。この悪のボスが、タバコを吸うときに部下の髭とホッペたでマッチを擦るんやけど、そのたびに「イタッ!」となる部下とセットで、この映画のバカバカしさを象徴するよーなシーンになっててサイコー。ラストも主人公の姿より、このタバコの一連のクダリで奇麗にオチてて、もうこのタバコのシーンしか印象に残らん 笑 興味を持った人は、暖かくぬるい目で観てほしいな。

長々と、タバコにまつわる映画の話を書いてきましたが、これからタバコってゆー小道具が無くなってきたエンタメの世界で、何が代わりのエッセンスとして使われるんすかね。
では今回はこの辺で。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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ホイミカレー:毎週火木金12:00-売り切れ次第終了 アイカナバル:月—土18:00-23:00