特殊音楽の世界45「お知らせ」

前回はお休みさせていただきました。

11月リリースCD2タイトルの入稿日と締め切りが重なってしまい、休載させていただきました。申し訳ありませんでした。

今回は手前勝手になりますが、そのリリースのことと私も寄稿したある書籍のことをお知らせしたいと思います。

まずは「音遊びの会/OTO」について。

音遊びの会とは2005年9月に結成された、神戸を中心に知的に障害のある人、即興音楽家、音楽療法士が集まってできたものです。

音遊びの会のホームページはこちら。

http://otoasobi.main.jp

今までにもDVDやCDを何枚もリリースしていますが、そのどれもライヴ記録でした。

今回、関西の音楽状況にとってなくてはならない存在でもある旧グッゲンハイム邸で、大友良英のプロデュースにより初のスタジオでの録音をほぼ1年の期間をかけて行いました。

しかも今まで発表された音源のほとんどが全員参加のビッグバンド形式での演奏が多かったのですが、今回はソロやデュオ、バンド、小編成でのアンサンブルと各個人の個性が際立つ内容になっています。

実はこの録音、録音開始時にはまだリリース先が決まっていなかったんです。プロデューサーの大友さんがNHKのラジオに出た時、初回の録音の一部を流したことがありました。そしてリリース先を探している最中だということも話されました。それを偶々私が聴いてリリースさせてくれと申し出たんです。

その時の音源ではないのですが同じバンド(?)「シュークリームス」のライヴ映像がこれです。

この映像では「シュークリームス」と一緒に「三田村菅打団?」のメンバーで構成された「ミタムラムース」と演奏しています。

私がラジオで聞いたのは「シュークリームス」の3人だけの演奏でしたが、本当に衝撃を受けました。音遊びの会の演奏はもちろん何度も聴いてはいたのですが、それまで受けていた印象とは全く違っていました。

結成から16年を経たメンバーの熟練度の高さ、いやある種「ここまで来たか」という到達感みたいなものを感じました。

もちろん音楽における一般的な完成度とは違います。そういった一般的な完成の基準とは全く違ったベクトルでこんなところまでやっていけているのか、という驚きでした。いや、もちろん通常とは違った意味での技術の向上ももちろんあると思いますが。

リリースを申し出た後、2回目(3回目?)の録音から全て立ち会いました。立ち会う度に新鮮な驚きを受けました。

演奏中は誰も自らの演奏を客観視する視線があると思いますが、その客観視の基準すら違います。

たとえば轟音の中でごくごく小さい音でひたすらスネアを叩き続けるその音は、通常ならば他人には聴こえないと本人が判断し、そんな小さな音で演奏されることはまずないでしょう。

しかし、それが「音を出す」という単純で強烈な意思に支えられているせいか、轟音の中でのスネアの繰り返される極小音が不思議なことにちゃんと聴こえるんです。

そんな演奏に他の即興音楽家たちも影響を受けたのか今までにないような演奏をやっています。いや、影響を受けるとかじゃなくてそうなってしまうんですよね、多分。

そんなことがわかるかもしれない動画がこれです。

旧グッゲンハイム邸での小編成でのセッション記録。

https://www.youtube.com/watch?v=ijg2A4L2IWk

大げさではなく「耳を大きく開く」ことができる音であると思っています。

今回のリリースではsolo&duoとband&ensembleの2枚組、全48曲と盛りだくさんですが各曲コンパクトにまとめています。

 詳細は https://fmn-soundfactory.com/5011 まで。

次は、想い出波止場、(元)Acid Mother Temple等で活躍する津山篤と京都のSSW長野友美による本格的トラッド・アルバムです。

まずはアルバムにも収録しているこの曲のライヴ映像を。

アルバムでのスタジオ録音とはアレンジも違いますが大体の雰囲気はわかると思います。

最初のアホアホなMCでも語られていますが、この曲は南フランスを中心としたオクシタニアという地方の歌で、オック語という特殊な言語が使われています。

そのオクシタニアを代表する歌い手で、先ほどの動画でのMCでも津山篤が「世界三大女性ヴォーカルの一人」と言っていたロジーナ・デ・ペイラもこの曲を歌っています。

別の曲になりますががそのロジーナと娘のマルティナの動画がこれです。

トラッドというとスコットランドやアイルランドのブリテン諸島のものを想像されると思いますが、このアルバムではそればかりではなく、オリジナルも交え北欧、フランス、イタリア等ヨーロッパ諸国のケルト民謡を広く原語でカバーしています。

二人の声の良さを出したシンプルで美しいアレンジはもちろん、声の多重録音だけでドライブ感を出した曲や、スロート・シンギング(喉歌)も駆使した曲もあり、トラッドに馴染みのない方でも深く長く楽しめるアルバムになっていると思います。

スロート・シンギング(喉歌)はモンゴル周辺のものが有名ですが世界各地で聴くことができます。

その一つを紹介しましょう。

イタリア、サルデーニャのオリエーナでのスロート・シンギングです。

顔を近づけているのはお互いの口腔内で音を反響させあっているからだ、と聞いたことがありますがどうなんでしょうか?

本作での津山篤のスロート・シンギングもこれに負けないかなりのものです。

二人だけではなく下記のような多彩なゲスト・アーティストも迎え重厚でヴァラエティに富んだアレンジによる美しいアルバムとなっています。

まずは日本でトラッドといえばこの人、巨匠「Si-Folk」の吉田文夫(コンサーティーナー等)、そして元羅針盤/渚にての吉田正幸(ピアノ)、アルケミー・レコードから過去に数作リリースしていた超絶ハードロック・バンド(元)「サバート・ブレイズ」の藤原弘昭(フィドル)、SSWでギターの名手でもあるタケヤリシュンタ(アコースティック・ギター)、日本最初のイーリアン・パイプ奏者でもあるマルチプレイヤーの原口豊明(バグパイプ等)、80年代関西で活躍したポストパンク・バンド「OXZ」に在籍し今はフランスで活動している太田恵美子(ヴォーカル)。

詳細は https://fmn-soundfactory.com/5032 まで。

次は私もエッセイを書いている書籍のお知らせです。

音楽学者 細川周平が国際日本文化研究センターで主宰した研究プロジェクトの成果を刊行した本で640ページ、5.000円となかなか手を出しにくい価格とボリュームですが大変興味深い本です。

“「音楽」にとどまらず、自然や人、機械などが発するありとあらゆる音を対象に音を受ける聴覚器官(耳)から発想しながら、音と耳の文化・歴史を問い直す意欲的な論集”(案内より抜粋)、という内容です。

音の問題にとどまらず、音と芸能、音と聴覚、テクノロジーと音との問題、そして現在のノイズや電子音響に関わることなど多視点から音楽(音)について考察されています。

過去色々と問題となっていた「音響派」についても今だからこその考察がなされています。

実は時間がなくてまだ全部読めてないのですが、目次を見るだけでとても興味をそそられています。

「音楽」だけにとどまらずもっと根源的に「音」と「耳」のことを問い直す学術・研究本ですが、私は「非アカデミックな日本のアヴァンギャルド・ミュージックの成り立ち」というタイトルでほんの5ページほどエッセイを寄稿しています。

他の方のしっかりした論文に比べ、私の原稿は自らの経験に即しただけのエッセイでお恥ずかしい文章ですが、それ以外の数々の充実した考察は「聴覚」について他方面から検証されています。

今までこういった多視点から「音」に対するアプローチを行った書籍はなかったと思うので興味のある方は是非手に取ってみてください。

情報は アルテス・パブリッシングhttps://artespublishing.com/shop/books/86559-240-5/ まで。

編者の細川周平さんは過去にも「レコードの美学」「ウォークマンの修辞学」という名著がありますが、最近も「近代日本の音楽百年」(全4巻)を上梓されたばかりです。

一巻14.300円という価格なのでなかなか手に入れる勇気が出ずまだ読めていませんが、読んだ方によると音楽関係者ならば必読ということらしいです。これも興味のある方はどうぞ。

石橋正二郎:レーベル、企画を行うF.M.N. Sound Factory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82~88年まで京大西部講堂に居住。93年にレーベルを立ち上げる。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。