実録 関西パンク反逆の軌跡 その11

「Taiquiインタビューその2 どっきりレコードと乗物図鑑」

Taiquiこと富家大器(とみいえ・たいき)は1978年秋にビデ・バンドにドラマーとして参加、1980年初頭までウルトラ・ビデで活動。80年代半ばにベラフォン結成後、アイン・ソフに加入。

現在はサイケデリック・ジェット・セット、不死蝶などでも不定期に活動中。

▶どっきりレコードに収録されているウルトラ・ビデの「1979!」は7分もの大曲です。

「 テイク・ワンというスタジオでホントに『テイク・ワン』で録音したんだけど、たまたまオープンリール・デッキがうちにあったので、実は録音後に自分たちでテープ加工したんです。

編集はビデやコウイチロウ君も当時何かしら機材を持っていて彼等のとこでも作業したのかもしれない。でもあのテイクは確かうちでほとんどやったと記憶しています」

▶どっきりレコードのブックレットにTAIQUI ! PERCUSSION&TAPEとクレジットされています。

「そうそう、テープ操作はクレジット通りだよ。私は実は高校で放送部だったので、心得があったんです!ラジオ・ドラマを作るのにテープ・スプライシングして切り貼りしたり逆回しとかやって作品をNHK主催のコンクールに出したりしてました」

▶君がそういうノウハウを持っていたから出来た作業ですね。顧問の先生から技術指導があったのですか?

「ノウハウについては多分にそれがあります。顧問は名ばかりだったな、スプライシングの切り方やなんかは部内で先輩から受け継がれていました」

▶声優も?

「やってないですね。スクリプト(文章作成や構成)とか編集かな。あの頃は著作権の意識も無くて勝手にキング・クリムゾンやなんかの有り物の曲をBGMに使っていましたね」

▶ドラマーといいその頃からバッキングなんですね(笑)。

「言っとくけど私にはバッキングという概念はまったく無いです(笑)!ドラムの演奏を聴いてもらったら判ると思うけど」

▶仰る通り、失礼しました。BIDEとKOICHIROにはTAPEのクレジットがありますがJOJOはBASSのみです。彼はテープ編集に関与していないのですか?

「JOJO君はたまたまその時に居なかったんでしょうね。色んな都合で。集まれるメンバーだけで作業したんだと思います。皆んなでこんなんもやろう、どう思う?とか結構話し合いながら作りましたね。紙をくしゃくしゃと丸める音を録音して演奏に繋いだかも。あれは誰のアイデアだったか覚えてないな。最後の方のリズムになってビデが『ファッション、ファッション』と連呼するちょっと前です。編集の結果、40年も前の音源でもちょっと面白いコンクレートになっていると思います」

左からJOJO、BIDE、コウイチロウ、Taiqui

▶確かにグワーンと音が鳴っていますね。演奏中にも不思議な音が聞こえます。コウイチロウ君のエレクトロニクスやマルコリネットについて記憶 はありますか?

「彼は常に変な改造楽器みたいなのを使って色々やってましたよ。拾ってきたテレヴィを改造したりとか。面白かったな。それからテープを継いではいますが演奏にダビングはしていません。フェイド・イン、フェイド・アウトしていなくてブチ切れて繋がっています」

左Taiqui、右コウイチロ

▶それは気にならないですね。
どっきりレコードの他の4バンドは録音した演奏をそのままレコードにしています。編集なんか無いんです。
INUの「飯食うな」は後奏で音がふにゃふにゃとなって終わります。あれは編集では無くてレコーディング中にコウイチロウ君がいきなりレコーダーを止めたからだそうです。ところがウルトラ・ビデの「1979!」は明らかに演奏が編集されているんですよ。

「と言うか、演奏能力に頼れないので何とかアイデアで勝負しようとしたのが正直なところでしょうね。海魚の鮮度に頼れない京料理文化みたいなものかな(笑)?皆んな変に頭でっかちだったしビデもいろいろ変なのを聴いていましたね。私にしても例えばフリップ&イーノがテープを使って何かやっているらしいとかそういう情報だけは知っている訳なんですよ」

▶不確かな情報を自分達なりに咀嚼して実践するところがパンクだと思います。

「『1979!』冒頭のフランク・ザッパの『ハーイ・スピード・フリークス、リスニング!』の音源を持って来たのはコウイチロウ君です。明確に覚えています。ザッパのまんまでどうするのよとその時は少し思ったけど『これ、どうしても入れたい』と」

左からBIDE、JOJO、Taiqui

▶レコードではそのフレーズのループが左右にパンニングします。あの引用は今で言うサンプリングです。コウイチロウ君は時代を先駆ける事をやっていますよ。

「あれ的な作業はヴァニティ・レコードからリリースされたあがた森魚さんの『乗物図鑑』(注)でも藤本由紀夫さんがやっています。『エアプレイン』で稲垣足穂がラジオに出演した時に飛行機を口真似した『コンタクテ、コンタクテ、ブルブル』のカセットテープを持って来てテープ・ループさせていました」

▶あのアルバムには君もドラムスで参加していますね。

『乗物図鑑』は1979年11月24,25日のまる2日で録音してマスタリングも終えてるんですよ。ハード・スケジュールでしたね。

シーケンサーでリズムをピコピコ鳴らしてそれにドラムを同期させテクノ・ポップにしようというサウンド・プロダクションでした。ところがコルグMS-20っていうアナログ・シンセに付いているシーケンサーのビートがすごい不安定で揺れるんですよ。リズムボックスなら安定しているんですが。それに生のドラミングを合わせてビートを出そうとするんだけどちゃんとしたクリックになっていない、合うはずのないシーケンサーを聴きながら当時の私が一所懸命に何度トライしても絶対に合わない(笑)!だけどそれがアナログだから不安定なのかも判らなくて自分が技術的に駄目だったのかもしれないという世界に入り込んで、時間が限られているのに『もう一回やらせて下さい!』と何度も。

結局二日目にプロデューサーの阿木譲さんが飢餓同盟のドラマーだった安田隆さんに電話。安田さんは来るなり『あ~!これ絶対無理。合うわけない』と言い出して(笑)。その時点でアナログ・シーケンサーと生ドラムを同期させる発想はあっさり無くなった。人間『出来ない事は出来ない』とちゃんと表明しなければならないという基本的な事をその時に痛感しました。

YMOの様なデジタル・シーケンサーだったら同期出来たんでしょうね。当時はそんな知識も無いし、機械から発せられているリズムは正確なものと私も思い込んでいたんです。その上に自分の技術にも今一つ自信が無かったので、叩けないのは自分のせいだと。今から考えたら出来る訳が無いんですよ。安田さんはすぐ理解したんですね。これは自分のせいではない、機械がおかしいと。それを堂々と表明しはったので立派やなと。人間ってつい自分の実力では無理な事でも変に見栄を張って頑張ろうとしがちじゃないですか?私の人生はその後も割合無謀な事にチャレンジしがちではありますが、同時に『出来ません』とはっきり言った方がいいという教訓は活かしています。

結果的にドラムスは安田さんのテイクに差し変わったりして、あのアルバムで私が叩いているバージョンが残っているのは『サブマリン』一曲だけです。自分のドラマー人生の中でちょっと色々考える事があったアクシデントではありましたが、あれが思えばプロフェッショナルな世界に少しだけ近づいたキャリアの記念すべきスタートだったのかも?良い経験でした」

▶ウルトラ・ビデは勢いで演っていたけど音楽はもっと奥が深いと判ったと。

「もっとちゃんと演奏せねばと普通に思う訳ですね。だからといって先生に付いて習う、という発想もなかったですし。独学独習には違いありません。譜面が読めたらスタジオミュージシャンの世界が開けたかもですが、そこだけはからきしダメなので、今も昔も耳だけが頼りです」 

左Taiqui、右BIDE
左JOJO、右Taiqui

▶あのアルバムに参加している篠田ジュン(しのやん)、北田昌宏、フュー、向井千恵などのレコーディングにも立ち会ったのですか?

「フューはちょっとコーラスに来ただけだったかな。コーラスのお姉さんは別の長身の方もいました。北田君が来た事は覚えています。彼は本当に鮮やかなギターを弾きました。あとの二人は印象に無いです」

▶「サブマリン」のコーラスがフュー、向井千恵、竹内敬子です。消去法で考えると背の高いお姉さんは竹内さんでしょう。ロック・マガジンのスタッフをしていた方です。

「そういえば、 あがたさんにはその前後にライブでも何回か叩かせて頂いているんですよ。1979年12月23日ロック・マガジン社主催のNEW PICNIC TIME、翌々日のサーカス&サーカスでもご一緒させて頂きました」

▶サーカス&サーカスの日はクリスマスですやん。

「平松くんの同級で友達だった北浦くんにベースを頼んで、私とリズム・セクションを組みました。SUBがキーボードとかギターとか色々。他に東京から駒沢裕城さんというスティールギターの達人が来て一緒に演奏したライブもあったかな。そのころ東京にも行って、ライブはしてないけど、あがたさんは人形作家の辻村ジュサブローと仲が良くて、誘われて人形展や居酒屋にご一緒したり。これから宜しくお願いしますみたいな話をした覚えがあります」


注 乗物図鑑の詳細は
【インタビュー】嘉ノ海幹彦・東瀬戸悟『vanity records』著者 その3/6|花形文化通信」https://hanabun.press/2021/08/30/vanityrecords03/
を参照の事。

つづく