カレー屋店主の辛い呟き Vol.48 「阪元裕吾の世界」

飲食の業界にも、日常が戻って1ヶ月。っても、お客さんは全然戻って来ないけどな…。補助金も無くなって、これから本格的にやってくる、本当に厳しい季節。飲食業は、ここからが正念場と同業の仲間達は皆ゆーとります。今までのお客さんを待つだけやなくて、新しいワクワクがないとなー。毎日微妙に店のプチリニューアルを進めながら、いろいろ画策しとりますよ!
今回もこのコラムをご覧になってくれて、ありがとうございます。大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」です。すっかり肌寒いこの頃、ミナサンいかがお過ごしですか?僕は、夏から通ってた教習所を無事通過して、車の免許をやっと最近取得しました。いや再取得か。ほら、だらしなくて、適当な生活続けてると無くすモンも多いワケじゃないスか? 信用とか、お金とか、彼女とか…ね。その一環(って)で、免許を無くしてはや20数年。久々に手に入れた身分証明なワケで、ウキウキしてたんスけどね。免許取得したその晩の店の営業中。店の前でチャリをパクられる大失態。一応8万からした僕にとっては高級チャリなんすけどね。あーオチタ。んで、記念すべき免許再取得後の初ドライブは、オークションで急いで買った中古のチャリを引き取りに、大雨の中、尼崎まで軽バンをレンタル。あー免許取ってて良かったー。ゆーてな…。はぁーコレが僕の今月のトピック。なんか締まらん話です。カギ閉めてないだけに。(うまくない…て。)
さてさて、今年も終わろうとしてるこの時期。映画好きが集まるとよくある、今年のベストワンはこれだろ!とか、あの映画良かったよなー。ってな会話。そんな話の中で必ずと言っていいほど出てくるのが、「阪元裕吾」の名前。かくゆう僕も、今年の後半「阪元裕吾」作品に夢中でした。今回はそんなまだまだ一部の映画オタク層にしか知られてない、彼とその作品の魅力なんかを語れたらなと思っとります。
■ついに日本にも現れた、アホ満開なアクション系監督
最初にゆーとくと。僕にとって、もしかしたら大阪の人間にとって「アホ」は最大の賛辞で、最高の個性。
そしてこれから紹介する「阪元裕吾」は間違いなく最上級の「アホ」の卵。もちろん、単なる阿呆では無くて、エンタメとして成立してる「アホ」。アホなギャグ漫画を書いてる人は阿呆な人じゃないよね?って話と一緒で。この「阪元裕吾」って監督の作品からは「アホ」臭がプンプンするんよね。
彼は「ハングマンズ・ノット」でカナザワ映画祭2017の「期待の新人監督」賞を受賞して以来、「ファミリー☆ウォーズ(2018)」「最強殺し屋伝説国岡(2019)」「ある用務員(2020)」「ベイビーわるきゅーれ(2020)」「黄龍の村(2021)」と一貫して、アクション、バイオレンス作品を低予算で撮り続けてるまだ30歳手前の若手監督。日本の若手監督とゆーと、会話劇だったり、テーマ性の強いものを撮りたがる監督さんが多いと思うんやけど、彼の作品はあくまでエンターテイメント。それを低予算でバンバン撮ってくスタイル。予算が無いのでアラはメッチャ多いんやけど、ちゃんと成立してんだよ。
彼の作品との出会いはだいぶ遅くて、今年後半の「ベイビーわるきゅーれ」公開のそれも最後の方。お店のお客さんから、めちゃめちゃオモロいと聞いて、彼の存在をよーやく捕捉できたンス。んで、この「ベイビーわるきゅーれ」見てオモロすぎて虜。言い過ぎかもしれないけど、「フロム・ダスク・ティル・ドーン」や、「シンシティ」なんかでも有名な、R.ロドリゲスのデビュー作「エル・マリアッチ」を思い出して、彼とアントニオ・バンデラスの「デスペラード」シリーズのようになって行く未来が、ホンマに想像出来たんやなぁ。で、R.ロドリゲスの盟友でもある、タランティーノの作品とも、匂いがどこか似てるよーな気もしたし。違う匂いなんやけど、同じよーな深さとゆーか、アホさとゆーか。しっかり作家性があるとゆーか。とにかく、よく見るタイプの日本のミニシアター系の映画と、肌感が全く違うんです。
この「ベイビーわるきゅーれ」は、ちさと(髙石あかり)とまひろ(伊澤彩織)という、2人の殺し屋少女の日常を描いた作品。開始直後の、コンビニのシーンの一連の流れで、完全に持ってかれたんですな。面接に来た、コミュ症独特の辿々しい口調で話す、まひろの着る「忘れらんねぇよ」のバンドT。店長の台詞『野原ひろしはこう言うだろう「夢は逃げない。逃げているのは自分」』のアホさ(野原ひろしって..)。その言葉にイラっとして店長を射殺したコトから始まる、泥臭い肉弾戦のエグさ。バンバン人が死ぬ中、登場した相棒のちさとの銃弾で、このシーンは終了。約10分弱のこのシーンで、殺しには触れず、おっさんのギャグをあざ笑う2人の関係性と、この作品の世界観。まひろと、ちさとのキャラクターを理解させ。血がバンバン流れる暴力性と、オフビートなゆるさ。そして、台詞回しも含めた、唐突な暴力シーンへの緩急。この映画の全てが詰まったようなオープニングで、この作品の虜になった人も多いと思う。たぶん邦画では北野武以来。漫画原作の「ファブル」でも、アクションは凄かったけど、ユルさを描くのってセンスやし、映画界で育った日本人監督が、一番ヘタな部分ってのが個人的主観。でも阪元裕吾は、ここらあたりのセンスが抜群。なんてーか、ふざけて映画撮ってるよーにも感じるんよな..笑
もひとつ、この「ベイビーわるきゅーれ」の最大の魅力は、アクションシーン。特にまひろ役の伊澤彩織さんは、そもそも「キングダム」(2019)や、「るろうに剣心 最終章 The Final」(2021)などの邦画大作から、ハリウッド映画の『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021)など、幅広い作品に出演している現役のスタントウーマン。キレキレなハイスピードなアクションをこなす身体能力がエグすぎるし、アクション監督の園村健介氏が演出するそれらのシーンでは、彼女の能力を生かしながらも、男子vs女子の体重差や、非力さがきっちり描けてて、それがリアルさにつながってんだなーと。まだまだ、この映画については語りたいコトが沢山あるんスけどね。個人的には今期ベスト5に入る作品でした。
続いて見た阪元裕吾作品は、この「ある用務員」。ここからは短めに書いてこ。ストーリーはある学校の用務員が、実は凄腕アサシン。彼の作品としては、豪華な俳優陣が、多彩な刺客となって、主人公である福士誠治演じる深見に襲いかかるって話なんスけど。ストーリーの軸を貫いてるのは、Vシネ〜任侠映画。そして「ジョン・ウィック」シリーズのオマージュ。ただ、出演者達の過剰とも言える、ベタ演技はなんだろ 笑 マジメに捉えると、単なる下手演技。だけど、Vシネ〜任侠映画のパロディとして見ると笑けてくる阪元ワールド。そして、この作品がキッカケとなって生まれた「ベイビー」のJK2人。にしても、この作品でも伊澤彩織のアクションは飛び抜けて恰好いい。
「ある用務員」「ベイビーわるきゅーれ」の前に撮られたこの作品が、阪元作品3作目。ベイビーわるきゅーれの製作に取りかかってた映画監督の阪元が、参考のため京都最強の殺し屋「国岡」に密着取材する
とゆー呈のフェイクドキュメンタリー。淡々と依頼をこなす国岡さんの日常は、殺し屋という肩書き以外は至って普通。恋に悩んだりね。んで、出てくる殺し屋達のキャラが限りなく濃くて、そしてやっぱ下手。笑 やけど、国岡を演じる伊能昌幸の存在感。立ち姿からの殺気ヤバいっ。彼の作品に共通する、非日常の中の日常感は、この作品でも大きな魅力になってるし、もちろんアクションシーンも最高。やりたいことがハッキリしてるし、なんかスクリーンから、ゲラゲラ笑いながら制作してる阪元氏の感じが伝わってくる。やっぱこの人、アホなんやろなと。
彼の最新作は、パリピな若者達がある村に滞在することになり、そこで襲われるという定番プロット。日本のホラーではよくある、1人の殺人鬼がっ、じゃなくて、村人達がみんなオカシイってゆー「村ホラー」的作品。前半はその通りのプロットで進んでくんやけど、中盤以降に「ネタバレ」要素満開なこの作品。なんで、ストーリーは語れないけどオモロい。もちろん、やりたかったコトの一つは定番プロットのパロディなんやけどさ。全編チープさ満開やけど楽しめたッスよ。
さてさて。夏以降、ここまで連続で劇場で見た「阪元裕吾」作品。公開が続いてるコトからも、注目の監督ってことは分かったいただけたとは思うけどな。もちろん、全ての作品が荒削りで、低予算が仇になってるトコロも沢山。特に音。もっといい音でマスタリング出来たら数段良くなるのになぁと思う。やけど、今の特に低予算の映画や、ミニシアター系の映画の中で、エンタメに全フリしてる、彼のよーな存在は本当に貴重。「お手本にするべきは、ハリウッドじゃ無くて少年ジャンプ」って彼の言葉通りの作風は、ハリウッドではないだろうけど、逆に海外が近づいてる気がする。タランティーノや、ロバート・ロドリゲスのように、彼が予算を手にした時、どんな作品を撮るのか本当に楽しみです。でも、アホのままで居てほしいなぁ。そして、もはや阪元組と言っていい伊澤彩織や、伊能昌幸を始めとする俳優陣も、一緒に大きくなって欲しい。特に伊澤彩織さんは最大の発見かと。テレビに出てるよーな人気の俳優女優を使うのもいいけど、彼女のよーな役者が、主役を張れる映画を作れる映画界であってほしいなと、切に思う。そういう意味でも、阪元監督がもう4部まで構想が出来上がってると豪語してる「ベイビーわるきゅーれ」の続編にホントに期待したい。そして最強殺し屋「国岡」とのアクションを見てみたいってのも、僕だけじゃないはず。「阪元裕吾」監督注目です!
では今回はこの辺で。
ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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