第50回 「ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984 」サイモン・レイノルズ(著) 野中モモ(監修・翻訳) 新井崇嗣(翻訳)
- 2022.02.04
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目標としている評論家はサイモン・レイノルズです。残念ながら日本で翻訳されているのはこの本しかありません。
ポスト・パンクが何だったのか理解するには最適な本です。
今から40年近く前の話です。とにかく無茶苦茶だったなと思い返すのです。サイモン・レイノルズのはポスト・パンクのアーティストのインタビュー集もありまして、そのタイトルが『トータリー・ウィアード』(完璧に変わっている)で、まさにその通りだなと。
この2冊を読めばポスト・パンクのことがよく理解出来ると思います。
『トータリー・ウィアード』ではサイモンとペル・ウブのデヴィッド・トーマスが喧嘩みたいになっていて面白いです。シャーロット・プレスラーのペル・ユビュの出身地クリーヴランドについてのエッセイ「Those Were Different Times」で、当時のクリーヴランドのバンドはみんな中流階級だったと書かれてましたがという質問がデヴィッド・トーマスには気に食わなかったのかデヴィッドは「イギリスのバンドも全部中産階級だろ」と答えたら、心細く「ビートルズは違うと思うんですけど……」と反論したら、「お前本気でビートルズが労働者階級のバンドと思ってるのか、ちゃんと机に座ってゆっくり考えろ」と言われていて笑いました。
確かにジョン・レノンは中産階級出身ですけど、ポールは労働者階級だと思うのですが、家にピアノがあった時点で中産階級だったような気もします。マネジャーのブライアン・エプスタインは中産階級なんで、彼の中産階級的目線がなければ、ビートルズはあそこまで世界を変えれることはなかったと思います。で米軍のパイロットを父に持ちブライアン・エプスタインのアシスタントをしていた、イギリス社会からは疎外感を持っていたアンドリュー・オールダムはアンチ中産階級として労働者階級的なものをストーンズに持ち込んで成功させ思うのです。
これを読んでいる人は中産階級、労働者階級なんてなんなのと思っているかもしれませんが、イギリスにはこの上に上流階級の人たちがいまして、この人たちは仕事をしない人です。上流階級で有名なバンドといえばジェネシスで、初めてのレコーディングの時にスタジオに現れなかったので、電話をしてみると、「雨だったから、キャンセルだと思ってた」というエピソードが残ってます。上流階級の人は雨の日は仕事をしないんですね。執事がサンドイッチ持ってきたというのもありますね。日本のタクシーの運転手が白い手袋しているのを観て外人がよく笑いますけど、あれは白い手袋というのは私は上流階級ですよというメッセージなのに、なんで運転手してるのという笑いなのです。日本の結婚式で白い手袋をするのも、そんなに上流階級の人いるのと笑われますけどね。
ポスト・パンクはすごく中流階級の音楽だったなと、パンクもそうですけどね。オアシスがあんなに受けたのは労働者階級的だったからでしょうね。
ビートルズがアメリカ、ヨーロッパで受けたのもポッシュだと思われていたイギリス人が、突然リヴァプール訛りで喋っているのがキュートだったからでしょうね。こいつらなんか違うぞって思われたのでしょう。関西のお笑いが受けたみたいなものだったのです。
そんなポスト・パンクの中で異彩を放っていたのが、フォールのマーク・E・スミスです。彼の意味不明な歌詞はとっても労働者階級的でした。教育は受けてないけど、インテリに負けない鋭さがありました。
それにやられたのがエコー&ザ・バニーメンのイアン・マカロックやザ・ティアドロップ・エクスプローズのジュリアン・コープでした。イアン・マカロックの意味不明な歌詞はマーク・E・スミスからだったのかと、そんなことも書かれています。そして音楽的にはギター2本とミニマルでファンキーなベースを持っていたテレヴィジョン、トーキング・ヘッズを下地にしていると。フォールとトーキング・ヘッズをくっつけたバンドすれば今受けるんちゃうかという妄想を抱かせてくれる『ポストパンク・ジェネレーション 1978・1984』です。この本中古で19800円もしますが、それくらいの価値はある本です。