第53回 <帝国> グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性 アントニオ・ネグリ(著) マイケル・ハート(著) 水嶋一憲(翻訳) 酒井隆史(翻訳)

「グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性 」 アントニオ・ネグリ(著) マイケル・ハート(著) 水嶋一憲(翻訳) 酒井隆史(翻訳)
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今は僕が17歳から住み出したイギリス、ヨーロッパの亡霊が蘇ってきているようです。その頃のヨーロッパは米ソの核戦争の戦場がヨーロッパになると言われていました。僕はフランスの人と結婚したのですが、結婚すると、徴兵に行かないといけないかもしれないと脅されました。もちろんフランス語が喋れないということで、免除されたのですが、今から考えるといい機会だったので、徴兵されていたらよかったかなと思います。3食付いて、銃の撃ち方とかフランス語も覚えられたかもしれません。ちゃんと軍隊に行ってたら、今回のロシアとウクライナの戦争に義勇兵として参加出来ていたかもしれません。人間ちゃんと色々と勉強しとくもんですね。あの頃の僕は2年間も軍隊にとられるなんて人生の無駄だと考えてました。

その頃の友達が、徴兵で落下傘部隊に配属されたのですが、むちゃ頭がよかったので、その落下傘部隊が徴兵が終わってもその友達を手放したくないということになってしまって、このままだと一生軍隊で生活しないといけないかもとビビった友達は、気が狂った風を装ってなんとか除隊出来ました。どうやって気を狂った風を装ったかというと、いつも靴の踵を見るということをやったそうです。何を言われようが、されようが、とにかく自分の靴の踵を見る。友達が言ってましたが「そうしていると別に誰も観てないとこでも、自分の靴の踵を見ている自分がいるというのに恐怖を覚えた」そうです。フランスの落下傘部隊はコンピューターを使ってどういう風に人は落下していくのかを計算する人間が欲しかったみたいです。その友達はシリコン・バレーで会社を立ち上げて僕らの中で最初の億万長者になりました。それくらい頭がいい奴なのに、そんな天才がよく僕みたいな凡才としゃべってくれるなと思うのですが、音楽の趣味が一緒だからでしょう。彼はフランスのボルドーの田舎の唯一のパンクで、彼のお兄ちゃんと二人だけでツバを吐いていて、その後、僕と同じようにア・サーティン・レシオなどのホワイト・ファンクなポスト・パンクが好きで、彼がロンドンに来た時は一緒にライブやクラブに行ってました。

なんの話をしているんでしょう。そうあのオシャレなフランスに徴兵制があったって笑うでしょ、笑ったらいけない、それくらう緊迫していたということです。その頃のフランスは軍隊から休暇をもらった軍服姿の若者がいつも電車に乗っていました。それを見て、戦前の日本もこんなのだったんだろうなと思いました。今の韓国もそうですね。

ウクライナとロシアの戦争を見ていて、思うことはこの頃のヨーロッパのことなのです。ソ連が崩壊した時、ヨーロッパから戦争がなくなると思っていました。ユヴァル・ノア・ハラリが“もう誰も戦争なんかしたくない、昔は戦争をして土地を得ていたけど、今はシリコン・ヴァレーを占領しても、グーグルもアマゾンもアップルも手に入らない、誰が戦争をするのだ“と。

そういう時代に時代遅れの年寄りのプーチンは戦争をしかけたのです。アメリカの軍需産業の奴にそそのかされたのかもしれません、彼が病気で死が近いのかもしれません、本当のことは何も分かりません、色んな問題が複雑にからみあってこういうことになってしまったのでしょう。

今僕はアントニオ・ネグリとマイケル・ハートの名著『〈帝国〉グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』を読み返しています。昔は日本も自分で大日本帝国と名乗っていました。そんな帝国は衰退して、世界秩序=新しい帝国=〈帝国〉が生まれるという話です。今のウクライナとロシアの戦争というのは〈帝国〉対帝国ということなのです。でこの〈帝国〉がマルチチュード(多数性、民衆)になれるかどうかということなのです。

アフガニスタン、シリア、セルビア、イラク、もっと前から僕たちは戦わないといけなかったのに、こういうことになってしまったのです。ウクライナの大統領ゼレンスキーが「ウクライナはあなたたちの自由と民主主義のために戦っている」と行っていることはそういうことなのです。ゼレンスキーはもしかしたら〈帝国〉の尖兵かもしれません、でも、彼の言葉に僕らが熱くなるのはウクライナにマルチチュードを感じているからだと思うのです。

ネグリの言葉でマルチチュードをもう少し書いておきますと、19世紀以降の社会主義に代表される革命に見られた多様性と差異性を無視したこれまでのありかたとは異なり、統合されたひとつの勢力でありながら多様性を失わない、かつ同一性と差異性の矛盾を孕む存在ということです。

マルチチュードの時代が来るって思ってたら、また帝国時代のような前近代の過去の恐怖に怯えながらも、今回のロシアを観て、中国の台湾侵攻はもう絶対ありえないなと思っています。たぶんプーチン政権は早ければ今年、遅ければ来年くらいに崩壊して、その時に北方領土を買うことが出来るじゃないでしょうか。

大変な時代になっておりますが、みなさん、頑張っていきましょう。