カレー屋店主の辛い呟き Vol.53

「音楽では世界は変わらんけどさ…」

あーなんか重たい感じっス、昨今。侵略戦争は終わんないし、コロナも終わってんだかなんだか。お客さんは戻って来ないし、食材の値段は下がんないし。そんなムードも一新してくれる、我が、阪神タイガースはね…。矢野ちゃん。もう勝つ、勝たないとかどーでもいいから、せめて戦う姿勢見せておくれよ。

なんか、OSAKA06エリア、例年にも増して、どんよりしてるよーな気がしてます。

皆様こんにちは。大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。今月もこのコラムを読んでいただき、ありがとうございます。皆様いかがお過ごしでしょか? ここ2回続けて、旅行記を載せたので、今回は、個人的には大絶賛の愛してやまない、宇多田ヒカルのアルバムの話なんぞをツラツラと書いてみよーかと思います。こんな「BADモード」な世の中。今まで以上にエンタメが必要な時代。そん中でも、一番身近で手軽なモノって音楽やと思うんスね。音楽で、世界が変わらんコトはもう知ってるし、遠いトコから反戦歌歌って連帯せよ!っても、リアルやない今の時代やけど、個人の気持ちは変えられるってトコがより重要で、必要なコトやと思うんス。んで、紹介する宇多田ヒカルの「BADモード」は、そんな時代に生まれた名盤やなぁと思うわけです。

■「BADモード」

宇多田ヒカル『BADモード』

1月末に発売された宇多田ヒカルの「BADモード」。実はこのアルバムを聴く前は、新曲が3曲だけで、ここ2、3年にリリースされた音源をまとめたようなアルバムになるんやろなーと思ってたんスけど。まず、この3曲がマジ好きすぎて。んで、この3曲が頭と、真ん中と、お尻に収録されてるコトもあってか、今まで発表された楽曲も、全く違う印象に聴こえてくるんだよなぁ。こんなにもミニマルで、音数が少なくて、無駄が削ぎ落とされてるのに、選んだ音色や、音の置き方とゆーか、幅のニュアンスが豊かでカラフル。

このアルバムのコトは、色々な人が、色々な言葉で解説と賛辞を送ってるので、今更って気がしなくもないけど、パンデミック以降の、彼女のトラックの音色と質感は、もう完全にUKの最新R&Bのソレやし。曲のフォーマットも、J-POPを完全に抜け出した、とゆーか、外から破壊してくれてるよーなさ。これは想像やけど、この状況下で、今まで以上に音に向き合って、削ぎ落とした結果のよーな気がしてならないんス。とにかく、個人的には日本の音楽史上でも、かなりエポックなアルバムやと思うのです。

んで、新曲3曲の一つの「BADモード」では、「ネトフリでも観て〜ウーバーイーツでも頼んで」と歌ってるよーに、パーソナルかつ、生活が見えることで、共感性を産む歌詞の視点は変わんないんやけど、よりパーソナルなモノに進化してる気が。まぁ進化かどーか別にどーでもいいのか。てか、そもそも、デビュー曲は「7回目のベルで受話器〜」やったワケで、その後は「夜中の3時am枕元のPHS 」なんやから、どんだけ第一線におるねんとも思ったけどさ 笑

宇多田ヒカル『気分じゃないの (Not In The Mood)』

この曲も大好きな一曲で、新曲の一つ。ある日のカフェの出来事を歌った、とてもセルフィな曲。この曲のOutroのアレンジを聴いた時、まずオッタマゲたし。ヴォーカル終わりからの、アンビエントなメロディの美しさと、息子さんの声から、一生続いてもいいような反復性を持つドラムが、突如ぶった斬られるこのアレンジ。このOutro何度もリピートしたくなるねんな。

宇多田ヒカル『マルセイユ辺り』

これも新曲。フロアライクなアシッドハウスで、でも一人で家の中で踊るよーな、研ぎ澄まされたミニマルさも感じる名曲。んで、この曲のアシッドなシンセと、それが曲に巻き付いていくよーな展開。この曲を聴いた時に、初めて曲やアルバムの制作陣のクレジットを検索しよって思ったんよな。これ誰かと共作なんかなぁーと。これ現代のあるあるで、別のコラムを執筆してるエガシラ氏とも話したけど、データ配信の大きな落とし穴。昔はCDのブックレット見ながら音源聴いてたもんな。んで、発見した名前は、僕も大好きな「Floating Points」ことサミュエル・シェパード。3曲とも彼のプロデュース、てか共作で、妙に腑に落ちたとゆーか。2人の出会いとケミストリーに感謝。そして、この曲は夏になったらマルセイユ辺りに行きたいねと歌う旅の歌。パンデミックからの、脱出を感じさせるよーな。でも希望だけじゃなく、懐疑的な気持ちの中で揺れる心境が、曲として表現されてる気もする。「予約」と「ようやく」で韻を踏む感じも、遊び心あって好きやなぁ。

■「Floating Points」ってどんな人

Floating Points – ‘Grammar’

多分日本ではClubmusicを中心に聴いてる人以外は、あんま知られてない「Floating Points」。この機会に彼のサウンドのヤバさを、もっと知ってほしいと思ってやまない訳で。僕もリリースをし始めた00年代後半の辺りの彼のコトは、ベースミュージックよりの、賢い音を作るエレクトロミュージックの人ってぐらいの認識。でも、みんなでchillしてる時にかけるとメッチャ良くて。フロアライクな音だけやなくて、リスニングミュージックとしても良質なんやなぁと。んで、DJを始めて見た時にも驚きがあってエレクトロだけじじゃなくて、アンビエント、ジャズ、サイケロック、ソウルなどをぶっ込んでくるディガー具合にもブチ上がったのを思い出すな。マジで神っスよ。

彼のDJぷりをどぞ! Floating Points Live From #DJMagHQ ADE Special at Claire

んで、6,7年前に見たバンドセットのライブもこれまた良くて。Floating Points Ensembleってゆー16人編成のオーケストラを主宰してる彼ならではの、各楽器がレイヤー上に積み重なっていくような、どの音を捕まえてもオモロい、繊細で緻密なんやけど、衝動に溢れたライブやったっス。

Floating Points – Kuiper (Live on KEXP)

2021年には、ジョン・コルトレーンの後継者にして、スピリチュアル・ジャズ界の生ける伝説のサックス奏者PHAROAH SANDERSとロンドン交響楽団とのアルバム「Promises」をリリース。彼の繊細な電子音と、ファラオのサックスが織りなすアンビエントな音世界。これも、chillには最適の音。なんて美し!と思いましたゼ。Youtube上にフルアルバムの音源も上がってるんやけど、なんかそれ聴くの申し訳無さすぎて即購入したし。今は引っ掛からなくても、一家に一枚置いといたら、いつの日かしっくり来るタイミングが必ず訪れる筈。

Promises “Movement 1” by Floating Points, Pharoah Sanders & The London Symphony Orchestra

さてさて。そんな宇多田ヒカルとFloating Pointsが、必然のよーに邂逅して出来上がった今回のアルバム。パンデミックから、侵略へと続く「BADモード」な時代。僕にとっても、なんか寄り添ってくれるよーなリアルを感じれる作品でした。皆様もよろしければ、聴いてみて。んで、店で語れればえーな。

今回はこのあたりで。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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