カレー屋店主の辛い呟き Vol.57 「今年の夏休みとフジロック2022」

名勝負も多かった、今年の夏の甲子園もおしまい。個人的には、連日の夏の甲子園通いが終わると、そろそろ秋の準備を始めよかなってのが、毎年の夏のルーティーン。でも、まだまだ暑いし、ダラダラしながら、夏の思い出に浸っていたい、今日この頃です。皆様、いかがお過ごしですか? 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。今月もこのコラムを読んでいただき、ありがとうございます。

今回は、これも毎年夏のルーティンになってる、今年のフジロックと、それにくっつけて休ませてもらった夏の旅行のお話。あーぁ。今年の夏も楽しかったなぁ…。

■信州へ

週末フジロックに行くのなら、もーその週全部休んでまうかと、早めの夏休みを宣言して向かった長野。フジロックが行われる、苗場の近くにいたほーが便利かなぁぐらいの理由で、特に行きたかった場所がある訳でも無し。とりあえず、佐久ってところで車を借りての、行き当たりばったりの旅。借りた車にナビも無かったので、より本能のまま、えー感じの方にハンドルをきり。疲れたら休み。腹が減ったら、誰かに聞いて店探し。バックパッカー時代に戻ったよーな、自分の旅運に全てを任せる旅。

結果、ある程度長野を満喫した旅行になったんかなぁ、知らんけど。なので、僕が感じた、いくつかのキーワードと、エピソードを絡めながら信州の魅力を紹介してみましょかね。

●自然やべー

横谷渓谷と、明治温泉、渋御殿湯(温泉の写真は撮れないので参考まで)

車を借りた佐久から、道が混んでない方、涼しそうな方にズンズン進むと、気がつけば山の中。なんやかんや立ち寄りながらも、なんか、ターンもできんし、スマホも繋がらん山道に。結果、着いたのが奥蓼科の横谷渓谷。(上写真右)結果的に、佐久から、小淵沢に向けて八ヶ岳界隈の山の中をぐるぐる回りながら長野県を南下してたよーです。明らかに深い自然。誰もおらん渓谷。自然の音しかしない静寂さ。スニーカーしかなかったけど、渓谷をズンヅカ登り、さらに上流へ。涼しいし、静かやし、なんか気持ちよ。もう、今日は車もあるし、この辺りにとーまろっと決めて、大きな岩の上で一休み。しかし、デカいデブのおっさんが河に浸かって、1人で遊んでるってまぁ奇妙。もうさ、熊やん…。熊やねん…。

んで、「マイナスイオン指数15,000個」の表示の看板もあってな。これは1立方センチメートルあたりのマイナスイオンの個数らしく、一般的には200個ほどなのだそう。なんか知らんけど、気持ちよさそーな数値。気がつくと夕方で、あたりは、自分の指が見えないほどの霧。そーいや、通ってきたトコにあった滝の名前は「霧降の滝(きりふりのたき)」やったなぁーとか思いながら1時間ほど、待ってみる。

全身を霧に包まれて、視界もなくて、身動きできないんやけど。なんやろな。もーええわと、力を抜いて、霧に身を任せると、五感がビンビンきて。焦りや怖さよりも、むしろ高級な寝具に包まれてるよーな気持ちよさ。野生で判断して、ここは問題ないよーな感じ。スピリチュアルなコトゆーてますけど。まぁ、散策道からそんな離れてないし、遭難はせんやろって安心感もあったんやろけどね。 なんとか渓谷から離れて、「渋御殿湯」(上写真左下)って温泉を発見。1880mの高所の、武田信玄云々の秘湯。硫黄泉(硫化水素型)特有の、酸性で肌にまとわりつく泉質。なんしか、一番温泉と聞いて想像するヤツね。ご飯をいただき、夜も遅いので、宿で聞いた「御射鹿池」の駐車場で仮眠。この標高約1,500メートル付近にひっそりとたたずむ池の水面には、木々が鏡のように映り込み、東山魁夷の名画『緑響く』に描かれて、後にCMや、PCのスクリーンセーバーなんかで有名になった場所やそう。

「御射鹿池」の霧からのエグい景色

朝早く起きて、「御射鹿池」に行くとやっぱり濃霧。30分程じっとして太陽が上がると、霧も徐々に消え、静寂の中で水面に濃緑の木々が映り込むエグい風景。あーびびった。「金の斧、銀の斧」の話を思い出したよ。その後、池の近くの明治温泉(上写真左中)で一服。こちらも渓谷見ながら、黄金色の温泉に浸かれる素晴らしい宿。また泊まりにきたいなぁ。

偶然、たどり着いた奥蓼科の自然と温泉。長野旅行中、戸隠神社や、美ヶ原高原など、いろんな景色の名所にも立ち寄ってみたけど、僕にとってはこの奥蓼科の風景や、親切にしてもらった、地元の皆さんとの交流が、この旅で忘れられん出来事に。何かをしに行く。見に行くではなく、何もせずにただ自然の中におるコトの大切さを、信州の自然から学ばせてもらったよーな気がしたっス。

●飯うめー

職人館」のコース料理、小淵沢駅の「山賊そば」、松本のカレー屋「Something tender」の2種盛

信州旅行中、なんやゆーたら、飯食ってた記憶ばかりのこの旅。その中でも、感銘を受けたお店が一つ。それが、佐久の山の中にある「職人館」(写真一番上、中段中・左)。佐久から山の方に30分ぐらい車を走らせ、一服休憩の時に、なんか食いてーなと思い、スマホをいじってたら見つけた名店。そういや、何かのTVで見たことあったなーと思い出し、予約なしの諦めモードで来訪。平日ってこともあり何とか食事にありつけたよ。

このお店、日本の各地にある、地産地消ってか、田舎の無農薬の素材を、古民家で振る舞う、「里山料理」の元祖的なお店。そして、信州だけに、その地産地消の中心には蕎麦があるンスね。せっかくなんで、奮発してコースの料理を注文。写真には載せてないけど、最初に出てきた豆腐も、素朴かつナチュラルな甘味やったし、上の写真のサラダや、蕎麦も同じよーに素材の味が際立ったモノ。お店の立つ、田園地帯ど真ん中のロケーションも抜群で、古民家の窓から切り取られた、田園の風景も美しいし。

そこに元々あった素材を、そのまま皿に乗せ出す、ミニマル感とゆーか。削ぎ落としと、残しのバランス感とゆーか。そんでもっての、お皿と料理のアート感とゆーか。サラダの美しさと、野菜の旨さヤバかったし。なんてーかさ、UR(デトロイトのテクノレーベル)の音やねん。わからんわな…。店主さんとは、大阪で、しがないカレー屋やってますと話しながら料理談義。なんや知らん、豊かな時間を過ごすことができました。

大阪で、定価600円で提供するウチのカレー。いかにその値段の中で買える素材を、うまく料理するか考える毎日。もし、自分が美味いと思える、それも地元の食材でカレー作ったら、どーなるかなぁと、改めて考える機会になりましたわ。なんかキッチンカーでもこしらえて、全国の地元食材だけで旅をしながらカレー屋でもしてーなと。まだまだ先の話になりそやけどね。

●城のある街は、やっぱオモロいで

上田の街のあれこれ。コンパクトでいい街。東京からやと近いんスね。

僕がいろいろと旅行して、確信してる法則があって。それはどんな小さな街でも、城を中心に発展した古い城下町には、一定のカルチャーってか、エンタメ要素が存在して。そして、そこにある数軒の古本屋、レコード屋、カフェ、んで映画館がありゃ、なお、えーんやけど。そんなトコを数店回ると、掘り出し物の古本や、レコード、そんでオモシロ店主が存在して。そんな、趣味の合うモノを置いてる店主に聞いた、普段使いの喫茶店や、飲み屋、〆のラーメン屋。これ、かなりの確率で当たるってコト。実は、海外でも気に入ったレコード屋を中心に、その店の店主の情報を頼りに、街を散策すると間違いが少ないんスよね。観光地を巡る旅もいいけど、こーゆう旅も悪くないでって旅のヒント。

今回の長野旅行でも、以前行った信州・松本の街で友達になったレコード屋の友達と、今回の旅行中にお茶した時。夜は付き合えないけど、上田もオモロいっスよと聞いて、山を出て上田の街に一泊。そんなに沢山の店舗は回れなかったけど、上田の街は1泊2日あれば一通り回れるコンパクトさで丁度いい。

「コトバヤ」さん(写真上)や、本と茶「NABO」さん(写真中右)などの、古本系BOOKCAFEの雰囲気とセレクトは、マジ全国屈指で、わざわざ行くレベルやと思うし、大正時代から存在する建物で、営業を続ける映画館「上田映劇」(写真中)さんの雰囲気と、併設のカフェはすばらしく、東京に住んでたら、週末ここで映画見て、街ブラするのになぁと思ったし。老舗のレコード屋「メロディグリーン」(写真下)は、古着や、雑貨の中に、レコードが存在するその雰囲気と、ヒッピーな店主にビビってあんま長居できなかったけど、なんか振り出せる雰囲気プンプン。そして、そんな街の人達に紹介してもらって、滞在中ガッチリお世話になった、喫茶「甲州屋」のコーヒーと、ミルクセーキ美味かったなぁ。

ここでは紹介できなかったけど、他にも旨い飯屋や、バー、歓楽街、〆のラーメン屋もキッチリあって、松本に似た文化の香りと、老舗感。そして、新たなカルチャーを作ろーとする若者と、移住者。それを見守る地元のおっちゃん、おばちゃん。そんなバランスの取れた、豊かさと、暖かさを感じる街でしたわ。東京からやと、新幹線なら1時間30分。中央線にひたすら乗り続けると着く上田の街。週末の小旅行にピッタリやで。大阪からやとバリ遠いけどさ…。

■フジロック2022

さてさて、僕の個人的な信州旅行の話ばっかしててもしゃーないので。ここらで今年のフジロックの話。

「いつものフジロック」と銘打って開催された今年。金土日の3日間、がっつり参加してきました。

出演者が地味とか、いろいろ言われてた今年のフジロック。やっぱ参加したら、めちゃ楽しいわけで。

コロナ禍の中で参戦した、参加者達を祝福するよーな晴天の夏空(んで、ほぼ3日晴れてたな)。大自然の中で、大音響で聴くライブ。コロナ禍で、鬱積した感情を吐き出すよーに、笑顔でハイネケンを持ち乾杯するグループ。やっぱポジティブなバイブスだらけやし、家で配信のライブを見るコトも楽しいけど、この場所で、やり続けるコト、参加するコトに、まず意味あるよなーと思う。まだまだ大声出せないし、馬鹿騒ぎもできない、まだ復活途上のフジロックやけど、日常から離れて、3日間ロックされるこのイベントが、コロナ禍を経験したからこそ特別なコトで、参加者にポジティブなエネルギーを、与えてんやなーと感じたな。

んで、沢山見たライブの中から、印象的やったステージを書いてくと。まずは、3日目のGREEN STAGEに立った「PUNPEE」。現状のHipHopシーンの中の、彼の立ち位置を理解した上で、ジャパニーズHipHopの歴史を背負ってくれてるよーなステージ。「夜を使い果たして」からの、盟友BIMとの「BUDDY」そして、「タイムマシーンにのって」を絡めながらの、Zeebra登場。MCでPete Rockも使ってた名サンプラー「SP1200」の説明をわざわざして、自分でMPCを叩きながらの、ECDの「ロンリーガール」と、 BUDDHA BRANDの「人間発電所」って日本屈指のクラシックナンバーのカバー。

もちろん、ライブ自体も良かったけど、微力ながらもシーンに多少関わってた身からすると、マジで、HipHopカルチャーと、その歴史へのリスペクト、そしてそんな自分達が愛するモノを、この機会に全力で広めるでってな、意気込みが感じられて。エモかった、泣きそうになったっス。

FIELD OF HEAVENとPYRAMID GARDENで2回見た「T字路s」は、今まで狭い立ち飲み屋でしか、見た事がなかったんやけど。野外でも、会場が揺れるほどの濁声で。でも、ステージによって演奏も、聴こえ方も違ってて、通ってきたステージの数を、感じさせるよーな凄みを感じたし。2日目のGREENと、3日目のハナレグミのステージに、まさかのバックバンドとして出た「スカパラ」のステージは楽しすぎて。なんか、当たり前に見れると思ってた、野外のスカパラを久しぶりに生で見て、なんて尊いねんと思ったしな。

一番見たかった「Tom Misch」のステージは、当然よくて。最前列で踊り、横の人とハイタッチをしてもーて、でもした後、顔を見合わせながら、そんなんしても、よかったんやっけ。へへへ。ってゆーな。当たり前に出来てたコトが、当たり前にでけへん現状やけど、普段の友達より、ステージで同じ音を楽しんでる奴のが、なんか通じあってるって感覚も久しぶり。他にも「SNAIL MAIL」には、「けいおん」感とオルタナさを、同時に感じたよーなステージでめちゃよかったし、「DINOSAUR JR.」の轟音のステージは最高で、欲を言えばGREENで見たかったなぁと。

入場規制がかかってた「鈴木雅之」も、初めはオモロいもん見たさやったけど、「違う、違う、違う、違う、そうじゃな〜い♪」って歌い出しからの、会場を巻き込む爆発力と、会場全員の笑顔。ヒットチューン連発のステージに、キャリアと、そこからくるカッコ良さを感じたのも、普段なら見るコトのないアーティストを、見れるフェスの良さ。大好きな、「満島ひかり」をどーしても見たくて、行ったアヴァロンで、「いとうせいこう」の格好良さに、初めて気がつけたのも収穫やったなぁ。

なんのご褒美か知らんけど、ホテルのロビーのソファーに、靴を脱いで三角座りする満島ひかりを偶然見れたのも、今となってはいい思い出。しかし、ロビーのソファで素足の三角座りって…。どんだけかわいいねんとゆーか、女優やなーとゆーか。

あと、旧知の仲のペイントアーティストの「DRAGON76」と、久しぶりに再会できたのもエモかった。JEEPのブースにタオルもらいに行ったら、ペイントしててな。彼がNYに行ってから何年ぶりやろか、そんな偶然の出会いが多かったのも、このイベントの醍醐味かもね。

長々と書いてもーてるけど、やっぱなんしかオモロイねん。このイベント。んで、お客さんも、戸惑いながらも、がっちりルールを守ってたし。ちゃんとしてはるわーってのが、率直な感想。

ただ、まだまだいろんな意味で、ソロリソロリと、イベントを作っていかなあかん時期やし、海外とのレートの差とか、いろいろあるやろーけど。ブッキングとかも、もっと遊んでいいと思うし、デコレーションのパーティー感とかも、毎年変化させたほーがおもろいよな。ちっさいステージも、もっといっぱいあって、森の中どこでも音と、アートが感じられるイベントになりゃえーな。んで、もっともっと尖った若者に、アホなおっさんおばはんに、場を与えられるイベントになってほしいなぁってのが、来年以降への1参加者からの期待。

ほんとーに成熟してきたこのイベントやけど、まだまだ尖ったほーがオモロいし。僕を含めた、毎年参加してる成熟した、オッサンオバハンも、勢いと熱だけで、荒削りやった、第一回目の天神山の時は、なんもわからんKIDSやったわけで。なんか昔のフジロックも懐かしーなと思ったのは、歳のせいやろか。

でも、まだまだ遊び足らんなぁ。 今回はこのあたりで。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
〒543-0031 大阪府大阪市天王寺区石ケ辻町3−13
ホイミカレー:毎週火木金12:00-売り切れ次第終了 アイカナバル:月—土18:00-23:00