カレー屋店主の辛い呟き Vol.59 「山下達郎からの北陸レコードツアー」

マジで、至福の時間なんよ。なんとか今年も、山下達郎氏のコンサートを観るコトが出来たんス。申し込むコト31公演目。先行、一般、キャンセル待ちと3回づつ93回申し込んで全外し。ここまで、よー外れるもんやと思いながら、よーやく新潟県民会館の2日目が当たり迎えた当日。SPARKLEのカッティングから始まったそのステージは、ラストのSOMEDAYまで、ほんまエグかった。

達郎氏の69歳とは思えない、艶のある声は勿論。伊藤氏のベースは、グリグリやし。ギターの佐橋氏、キーボードの難波氏始め、凄腕ミュージシャン達が奏でる演奏、PAさん達のセッティングとオペレーション。それが、一体となったステージは、マジでマジック。んで、えげつないグルーヴ。チケット販売会社時代から、それこそ何千公演とライブには立ち会ってきたけど、この人達の公演はやっぱ特別なんス。

音圧もあるし、ライブ感もめちゃめちゃあるんやけど、全楽器が一音一音クリアーに聴こえて。なんてーか、音の塊の中で各楽器が、粒だってるんよなぁ。毎回、達郎氏のライブに参戦すると、音の粒子が見えて、それが、体を通過するよーな感覚に襲われるんですね。いやおかしなコトゆーてますけど、マジで。

ミュージックラヴァーズな皆さんは、参戦のチャンスがあれば、いかなる障害があろーと行くべきやと思いますぜ。

さてさて、皆様、いかがお過ごしですか? 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。今月もこのコラムを読んでいただき、ありがとうございます。

今回は、山下達郎氏のコンサートに参加した興奮が、今だ冷めやらないもんで。彼について、書いてみよーと思うわけですが、こんな著名なミュージシャンについて、こんな曲あるでーなんて言っても、なんかオモロないし、ホンマにうまい料理食った時、美味い!しか出ないのと同じで、ライブの感想にしたって、ヤバい、エグいなんて言葉しか出てこーへんし。

と、色々と思案した結果。DJカルチャーからの視点で、山下達郎氏のコトを書いてみよーかなと。

まぁこれにしたって、2番煎じ感は否めない訳スけどね…。

■山下達郎氏とDJカルチャー

少し、個人的な話になるんスけど。僕が、達郎氏の音楽を本格的に聴き始めたのは、結構遅くて2000年を過ぎた頃。ラジオから、CMから流れてた、彼の音楽は知ってはいたけど、ここまで好きになったキッカけは、多分MUROくんのDJから。彼のダンクラ〜レアグルーヴのセットの中に、えー感じに、山下達郎の楽曲が入ってて、ヤベーなと、改めて気づいたんスね。つまり、DJを聴いて、山下達郎氏の良さに気がついた完全な後発組。そして、テクノ〜ハウス一辺倒やった僕が、さらに幅広く音楽を掘るよーな、キッカケになったアーティストでもあるんスよね。今まであまり聴いてなかったジャンルの音楽まで、レコ屋でガッチリ掘るよーになったりね。勿論、その後、山下達郎氏のライブに参戦して、そのライブのあまりの音の良さ、クオリティの高さにKOされ、僕の中で神として認定される訳スけど。

MURO氏の達郎好きが爆発してる「SPARKLE」使いの大ネタ「BOO feat MURO – SMILE IN YOUR FACE」

そんなDJカルチャーの中から、山下達郎氏を知った僕のよーに。5,6年ほど前から、世界中で盛り上がりを見せる「CITY POP」なるムーヴメント。そしてそのKINGでもある、山下達郎の全世界的人気の広がりにも、サンプリングやったり、Re-editやったり、DJカルチャーから、生まれたモンが大きかったと思うワケなんス。

例えば、山下達郎氏の1977年にリリースされたアルバム「SPACY」の中の名曲「DANCER」は、海外の数多くのアーティストにサンプリングされて、その元ネタ探しから、山下達郎にたどり着いた世界中の「ディガー」達も多いはず。ちなみに原曲はこんな曲。

山下達郎 (1981.8.11 FM OA)「サウンド・オブ・ポップス」~DANCER (1981.3.11 六本木 PIT INN Live) しかし、エグいなぁこのライブ…。

んで、USで最初にこの曲をサンプリングしたのが、Nicole Wray ft. Beanie Sigelの「Can’t Get Out The Game」。元曲「DANCER 」のイントロのループと、達郎氏のヴォイスなんかな。なんしか、そのまんま使いの名曲。

Nicole Wray / Can’t Get Out The Game feat. Beanie Sigel (2005)

余談やけど。実はこの曲正式にはリリースされてなくて。本来収録されるはずやったアルバムが、ラッパーのジェイ・Z と、レコード会社エクゼクティブのデイモン・ダッシュ氏のいざこざに巻き込まれて発売中止。その後、ネットでこの楽曲がリークされてDJのMIXTAPEなどを通して広まったそう。んで、この曲のアナログ盤が存在してて(勿論ブート盤=海賊盤)B面に元ネタの山下達郎のDANCERがそのまま入っているっていうな。まぁ僕は持ってる人見たコトないけどさ。

んでこんなのも。

A.G. / Party Hard, Hustle Hard (2010)

これ上に貼り付けたNicole Wray の楽曲とほぼ同じやけど、もう後半、山下達郎氏のボーカルが入ってもーてるし…。 で、そして大物Snoop Dogg もこの曲をサンプリングしてるんよな。

Snoop Dogg – 1st We Blaze It Up (Stoner’s EP)(2012)

この曲はドラムブレイクのパターンと、イントロのギターをループさせたオシャレ使い。

んで、オモロいのが、YNGのMiamiという曲で、マイアミシーンのMixtapeに収録されたかなりマイナーな作品なんスけど、Hookで「窓の外は闇」というフレーズと、英語のマイアミを、空耳アワーの感じで踏んだオモシロ要素も。

【Hip Hop R&B Sampling MIX】YNG Miami Feat Quest

色々と貼り付けたけど。「DANCER」一曲でも、これだけ使われてるんスね。実は、この曲でも、他の曲でも、他のジャンルでも、達郎楽曲の引用例はまだまだ沢山あって。そのほとんどが、許諾を得てないブート盤。それを使ったMixなんかを通じて、世界中に伝播していく中で、山下達郎氏の音楽と、名前は、世界の音楽の作り手側の中で、完全に認識されるコトになるんよな。

例えば、このコラムを書くために、色々とnetを見ていた時に発見した記事で僕も知ったンスけど。2006年にリリースされた「Now On」というミュージシャンの、「Now On and On」という楽曲のPVに、山下達郎氏のアルバム「SPACY」が出てくるコトを考えると、この2006年時点で世界のクリエーターや、レコードディガー達の中で、達郎氏の存在と作品は、認知されてたんやなと思うわけで。

Now On 「Now On and On」(2006)〜33秒 ベッドの上に飾られてる「SPACY」

ちなみに、このサンプリング、ブートというDJカルチャーから生まれた遊びに対して、達郎氏がどう思ってるのか、僕たちは、知るすべもないんスけど。彼自身も、日本有数のレコードディガーやし、楽しんでるよーな気もしてます。ってのも、彼自身も1982年リリースの名曲「甘く危険な香り」で、彼も敬愛するカーティス・メイフィールドの1980年の「Tripping Out」を、まんま引用したりもしてるねんな。許諾をとってるのかは、定かじゃないけどさ。

山下達郎「甘く危険な香り」

Curtis Mayfield – Tripping Out

ちなみに、この「Tripping Out」は元ネタとしても、超有名曲。中森明菜「ミ・アモーレ」や、小沢健二「天使たちのシーン」なんかでも引用されてます。まぁそんなコト言い出すと、いつまでたっても、この文章が終わらないので、ご興味のある方は調べてみてはいかがでしょ。

さてさて、本題に戻すと。音楽の作り手の中で、山下達郎氏をはじめ現在の「CITYPOP」と呼ばれるよーになる、日本のPOPSのオモロさは、認知されたそんな時期。新たな音楽ムーヴメントが巻き起こるねんな。それは、2010年代初頭ぐらいに生まれた「Vaporwave」 そして、そこから派生した「Future Funk」と呼ばれWeb上の音楽コミュニティから生まれたムーヴメント。

80年代~90年代の様々な音源を無造作にサンプリングし、派手なエフェクトで仕上げた「Vaporwave」。そこから派生した、「Future Funk」は、日本の80年代シティポップを、歌詞もろともサンプリングして、ヴェイパーウェイヴ同様に仕上げていくサウンド。YouTubeなどで、その年代の日本のアニメや、CMを粗々につなぎ合わせる動画と共に、全世界に発信され、人気を得ていくワケ。

そして、そんな中から、当然元曲に対するリアクションも大きくもあって、竹内まりあ「Plastic Love」などの世界的大ヒットが生まれ、当然、山下達郎氏へのリアクションも更に、大きくなっていくんス。

Future Funkのスター「Night Tempo」による、山下達郎のKINKI KIDSへの提供曲「恋はミステリー」のEdit盤Tatsuro Yamashita – Kiss kara Hajimaru Mystery feat.RYO (Night Tempo Edit)

KinKi Kids 「Kissからはじまるミステリー」これジャニーズ屈指の名曲やと思う。

ついでに、山下達郎によるセルフカバー盤

DJカルチャーから生み出された、Editという手法をまとった日本の名曲達が、Sound CloudやYouTubeなんかを通じて全世界に広まって、結果、原曲の評価とフォロアーを増やすコトに繋がるってなんて素晴らしいハナシ。DJプレイから、すごく後発的に山下達郎氏の良さを知った僕もそーやけど。好きな音楽を繋げていくことは、DJカルチャーの肝の部分やし。自分の知らない、新しい音楽に出会うために、音楽を掘った世界中の「ディガー」達が繋いでいくことで発生したのが、山下達郎氏を始めとする「CITYPOP」ってゆームーヴメントなんやなぁと、改めて思うワケっス。

■北陸レコード屋巡り

今回、新潟の山下達郎さんの公演に参加した後、何日か店を閉め新潟、金沢、福井のレコード屋さんを回ってきたんス。閉まってたお店もあったけど、新たなレコードとの出会い。店員さんや、お客さんとの音楽談義。結局、大阪にいる時となーんも変わらず、レコード屋に行き、純喫茶でコーヒーを飲み、銭湯に入り、酒を飲む。結局、そんな旅行になるんよね。

んで、金沢の老舗レコード店「レコードジャングル」では、ラッキーな体験が。朝イチから訪問すると、なぜかお客さんの列が出来てて。前に並んでたカップルに聞くと、今日は年に何度かしかない、倉庫の在庫放出デーとのコト。レコードが積み上がった、狭い倉庫のレコードが、なんと全品1枚100円でした。朝から並んだ10名ほどのレコードディガー達が、鬼の形相でレコードを掘ってる姿、オモロかったなぁ。勿論、僕もその一員で、視聴も出来ないので目についたレコードを片っ端からキープしてたけど。

で、ふと横を見ると、さっきのカップルの女の子も、僕の横で必死の形相で、ハウス、HIPHOPの12inch、7inchを掘ってる姿に「お前の方かぃ!」と心の中で突っ込んどきました。男の子がレコード好きかと思ったら、実は女の子がDJさんらしくて。結果、そのカップルとお茶をして、「うぁー傷いってる」とか言いながら、宝探しの戦利品を見せ合う、のどかな時間。ほっこりしましたな。

他にも素敵なレコード屋や、エピソードは沢山あるんやけど、何文字あっても足りないので、興味がある方はお店まで。どんなラインナップやったとか、どこにあるとか、お教えしますね、今回、トータル15軒ほど訪問してみたので。

さてさて。今回は、黒人音楽に憧れた山下達郎氏が、その音楽を掘って研究した結果、その本場のアーティスト達に届いてサンプリングされ、その結果、ある種、全世界的ムーヴメントを起こすコトになったってゆーハナシ。これ、昔からのファンの方は意外と知らんねんなぁ。いい音楽は、国籍も、言語も、ジャンルを、飛び越えるって、文章を書きながら、僕も改めて思いましたよ。

では、今回はこのあたりで。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
〒543-0031 大阪府大阪市天王寺区石ケ辻町3−13
ホイミカレー:毎週火木金12:00-売り切れ次第終了 アイカナバル:月—土18:00-23:00