カレー屋店主の辛い呟き Vol.60 「ストリートは自由やで」

サッカーのW杯も始まり、眠れない夜を過ごす毎日です。なんせ、元来オタク気質のスポーツ好き、んで今大会はお客さんに教えてもらった、ブックメーカーのサイトで毎試合BET。大のギャンブル好きの血もたぎるってなもんです。結果、日本戦以外の試合も、全試合生で血走った目で試合を見続ける毎日。お金をかけると、僕みたいな人間は、より深くサッカーというゲームを理解したくなる訳で。毎日の予習復讐や、自分なりの分析を行ってると、どんどんオモロくなって。もはや遊びなんか、仕事なんか、ねえ。これ、パチプロの人と同じ原理なんやろーけど、今回のW杯はより深く楽しめてる気がしてます。

さてさて、皆様、いかがお過ごしですか? 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。今月もこのコラムを読んでいただき、ありがとうございます。今回で60回目のこのコラム。月一回なんで5年!カレー屋店主の戯言をこんな長い間掲載してもーて感謝です。

このコラムは、毎回月末にその月に出会ったエンターテイメントや、オモシロを書かせてもらってる訳ですが。今回は、十三で行われてるウォールアートプロジェクト「淀壁」と、ドキュメンタリー映画『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合』のお話。どちらも、ストリートカルチャーなお話なんで、なんか関連づけて書いてみよーかと。うまくいくかなぁ…

■「淀壁」を見に行ってきた

先日、お客さんと話をしてたら、堺・鳳のCALMA ART(グラフィティのショップ・今はCALMAART+ https://www.calmaart.jp/ )によく遊びに行ってたって話。こんな上本町のよーな街で、そんな単語聞くと思わんかったと話してると、話題は「淀壁」プロジェクトの事に。インスタを見ると、知人のdragon76(@dragon76art)が、ちょうど描いてるのに気がつき、翌日現場にゴー。作業を見ながら、地元のおばちゃん達や、アーティストのみんなとコーヒー片手にダラダラ話。夜の営業まで暇だったので、他の作品を探しながら、十三の街をチャリ散歩することに。

そもそも、この「淀壁」(https://www.yodokabe.net/ )は、大阪市淀川区を拠点に活動をするアーティストBAKIBAKI(バキバキ)が発起人となって「淀川エリアの”社会そのもの”を表現の場として街を豊かにしたい!」という想いから2021年に開始した壁画プロジェクト。BAKIBAKIくんは、今は無き十三fandangoの外壁も書いてましたね。このプロジェクトの詳細はインスタとか、HPを見てほしいンスけど、ほんと素晴らしい。

十三の街をウロウロしながら見つけたミューラル(壁画)は、どれもコレもクオリティが高くて、下町の風景の中にハッと目がいく存在感。それでいて、完成して一年以上経ってる作品からは、街に調和して、溶け込んでる感もあって感心しかり。作成中の現場でも感じたことやけど、街の皆さんからの、暖かい目線と、ワクワクな気持ちを感じてえーなーと。例えば、見にいった現場は、つばめ通り商店街って場所なんやけど、「外人さんにツバメ描いてもーてん」と楽しそーに話してたおばちゃんの表情や言葉。アーティストと、地元の人のコミュニケートと、相乗効果。それが作品に現れてるよーな気がした。なかなか他のエリアでは、地元の皆さんとも、話すことないってアーティストさん達も言ってたし。これってグラフィティの本質とは、少し違うのかもわからんけど、日本ではこーゆー進め方がえーんやろなぁとも感じたました。

そして、十三の街や、淀川区全域をウロウロする中で、いろんなお店や、人との出会いも。十三駅前のションベン横丁しか知らなかった僕にも、新たに発見できた街の魅力も沢山。スマホで見てその店に直行するのも悪くないけど、現場で寄り道することで、見えることもいっぱいあるんスよ。んで、そのきっかけになったこの企画は、本当に素晴らしくヤバイし、十三のミューラル巡りはオススメ。シェアサイクルでも借りて十三の街を回ってみると、一日では足りんほどの楽しさがあるよな。

店に帰る前に淀川の土手に上がり、梅田のビル群を眺めて見るとBAKIBAKIくんが言うよーに、ブルックリンからマンハッタンを眺めてるよーな感覚になって、しばしボンヤリ。いい一日でした。

■映画『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合』を見る

そもそもミューラルを始めとする、ストリートカルチャーに興味を持ったのは、20代の頃に暮らし、度々滞在することになったNYの経験が大きかったと思うんス。なーんも知らんバブル世代の大学生が、言葉も分からんNYでバイトをしながら、貧乏全開で暮らす日々。今よりも差別や偏見もあって、住んでるエリアもガイドブックに載ってない危険地域。同じ店でバイトをするアホな日本人7人が、1Lに住むボートピープルのような僕達。受け入れてくれたのは、黒人やプエルトカン、白人も今でゆーとこのLGBTQの仲間達。

今では、家賃が高過ぎて住めなくなってしまった、マンハッタンにまだギリ住めた時代。そんな時代に、社会から隔離されたゲットー地域にいた、同世代の友達達が夢中になってたのが、スケートボードであり、グラフィティーであり、Hip Hopやダンス。そして、その遊びがどんどん大きくなって、ストリートカルチャーとしてまとめられ始めたそんな時代。NYのストリートで何が起こってたのか、大量のフィルムをまとめて一つの作品にしたのが、映画『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合』。個人的に、ノスタルジー満載で観に行ってきました。

映画『All the Streets Are Silent』本編映像①:バスタ・ライムスのフリースタイル この映像だけでもほんと貴重

この「All the Streets Are Silent」は、今作品のナレーションも担当してる、イーライ・モーガン・ゲスナーが80年代後半にNYのストリートに辿り着いてから、ロウワー・マンハッタンのクラブシーンに、ヒップホップを持ち込んだナイトクラブ「MARS」のプロモーターや、ヒップホップレーベルDef Jamのアパレルブランド「Phat Farm」の設立を経て、97年に『Zoo York Mixtape』を完成させるまでを、イーライや、MARSの設立メンバーだったユウキ・ワタナベ、有名なフィルマー(スケートボードの撮影をする映像作家)R.B.ウマリの撮った膨大なフィルムを使って、カナダ・モントリオール出身のスケーターであり、フィルマーの「ジェレミー・エルキン」が一本の映画に仕上げた作品。

「ZOO YORK MIXTAPE」 後のシーンに影響を与えた、スケートとHipHopを融合した革新的ビデオ。

つまりこの作品。当時のNYのストリートで、HipHopやスケートボード。そして、ストリートウェアが、クロスオーバーしていく過程が描かれてるんスけど。時代背景的にゆーと。西海岸で、サーフカルチャーから派生したスケートボードは白人のものであって、当時のカルチャーがよくわかるスケートビデオなんかでは、Black FlagやMinor Threat、Suicidal Tendenciesなどのハードコアパンク〜スラッシュメタルなんかがBGMとして使われてた時代。でも、狭いエリアに、移民や低所得者層が追いやられてた、当時のマンハッタンのストリートでは、いろんな人種のそれぞれのカルチャーの融合が起こってたんスね。

映画『All the Streets Are Silent』本編映像②:Supreme1号店OPENの時期

例えば、映画にも出てくる当時のナイトクラブ「MARS」は、マンハッタンの南にあって、毎晩違うジャンルの音が鳴ってたカジュアルなクラブ。特に、金曜日のHipHopの夜は、いろんな人種の厄介なメンバーが集まってて、金を取られたり、どつかれたり、酒飲んで騒いだり、喧嘩があったり、助けられたりとイザコザと、夜のイロイロを繰り返しながら、友達が増えていった記憶が。なんてーか、人種的ないざこざってよりも、もっと単純な馬が合うかどーか。でも、結局、同じよーなカルチャーが好きやから、クラブで会ったヤツらのグラフィティを見にいったり、ホームのパーティーに参加したり。まぁ結局は仲良くなったり、顔見知りになっていくんやけど。その時の感覚は、のちにクラブやライブハウスを作ったり、今の店を作る時にも、肌感として残ってるんやなと、映画を観て改めて思ったな。なんてーか、間口はオモロそーやったらなんでも受け入れて広いんやけど、深さは同じとゆーか。あー分からん事言うてますね。

やっぱ、カルチャーや、アート、エンタメや遊び。オモロいことで結びついたメンバーは、いろんなしがらみを超えて繋がれる。MARSはそんな場所やったし、それは公園でも、ストリートでも同じ。僕が長期間滞在したのは90年91年やったけど、そんな肌感が当時の印象。オモロそーなんで、スケートボードも教えてもーたし。(今はデブのおっさんになって、昨年久々にボード乗ってみたら、足挫いて変な方向に曲がってしもたけど 笑) まぁ色んな遊びを覚えさせてもらいました。

Zoo York Mixtape – FULL – The Original 同じ人間が撮った素材を使っているので、その場の空気感がそのまま。

今この映画を観た若者は、もしかしたら「Supreme!やばっ!」とか、有名なスケーターも出てくるので、なんか特別な歴史のフィルムを見てるよーな気がするのかもしれないけど。Supremeも、その前身のUNIONも単なる街の集合場所やったし、スケーター達も、アーティスト達も、特別デカくなって金稼ぐでーって感じでもなかった。単にオモロイから、毎日遊んでたってだけなんスね。お金がなかった僕達が集まれる場所は、ストリートやったし、それって田舎のコンビニ駐車場と同じ。少し違うのは、そこにアートとカルチャーがあったから、遊びがよりオモロい方向に動き出して、より好奇心が湧いてってゆー循環が生まれたって事なんかなぁと思う。今の時代は、多分ネット空間の中が、ストリートの役割を果たしてるんやろーけどね。そんなことも、映画見て考えてました。

さて、今回はウォールアートや、HipHop、スケートなどのストリートカルチャーに絡んだお話を、書いてきましたが。今思えば、このカルチャーの最大の功績は、箱の中から街にアートや、カルチャーを解放したコトやと思うんス。今までは、美術館や、ギャラリー。ライブハウスやホール。いろんな競技場。そこに行かなければ見れなかった、感じれなかったものを、興味がなかった人たちにさえ、物理的に提示できるコト。それが、いろんなカルチャーが、大きくなることに繋がったのかなと。

昨今、どこの街もオーガナイズされて同じような街になり、スケートパークに親が車で送り迎えする時代。メインストリームになることが善とされ、成功への早道をSNSで語る人物がもてはやされる世の中。昔のNYのストリートから生まれたよーな自由なカルチャーは、今、同じことをしても生まれんし、今の時代なりの、ストリートの概念があるとは思うけど。そのカルチャーの根っこには、オモロいと思えることに対する、探究心と好奇心があったし、自由な空間での毎日のバカ騒ぎの中にも、カルチャーがあったって事は伝えていきたいなぁと思うわけです。

では、今回はこのあたりで。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
〒543-0031 大阪府大阪市天王寺区石ケ辻町3−13
ホイミカレー:毎週火木金12:00-売り切れ次第終了 アイカナバル:月—土18:00-23:00