カレー屋店主の辛い呟き Vol.61 「人間になったメッシ」
- 2023.01.06
- OSAKA

その月に見たり、聴いたりしたエンタメのことを、毎回ツラツラと書かせていただいてるこのコラム。
今月の思い出といえば、1ヶ月まるまる見続けたサッカーのW杯。毎日生で64試合の中継を見続けて、仕事以外は各チームの戦力分析。エクセルに、選手の走行距離や、一対一のデュエルのデータなんかのいろんなデータをぶち込んで、個人的にいろんな係数を掛けた予想ソフトも作ってみたりと、夢中になってました。なんて幸せな1ヶ月。
さてさて、皆様、メリークリスマス&ハッピーニューイヤー! 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。今月もこのコラムを読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、この1ヶ月楽しませてくれたW杯のお話。優勝したアルゼンチンとメッシについて書いてみよーかと思います。日本の戦いぶりにも熱狂したけど、それについては色んな人も書いてるし。まずは、僕がここまでサッカーにハマった理由から。それがアルゼンチンとメッシのことを書くことにも、繋がってるんスけど。
■サッカーにハマった
アルゼンチンの優勝で幕を閉じた今回のW杯。日本の戦い以外にも、素晴らしいシーンや、チームがたくさんありました。ヨーロッパのビッグクラブのユースで育てられた若手選手が、ゴリゴリに守ってからの技術を活かした美しいカウンターを見せてくれたモロッコ。37歳ながらゲームを支配するクロアチアのモドリッチの運動量。例を挙げてくとキリがないんスけど、その中でも、日本以外では推しチームだった、優勝したアルゼンチンの戦いぶりと、メッシのプレーには感動して泣けてきました。
アルゼンチンとメッシは、ずっと見続けたチームと選手やし、僕がサッカーにより深くハマるキッカケになった、チームのエースと、国なんですね。
今の僕の体型を知る人からは、想像できないかもしれないけど。中学高校とサッカーをしていたこともあって、サッカーを見るのは大好きやった私。でも、明確にもう一段深く、サッカーにハマったのが、初めてバルセロナのホームスタジアム「カンプ・ノウ」で試合観戦をした日。そして、10万人のバルセロナの応援歌「イムノ」の合唱を聞いた時に、今まで感じたことがない感情が湧き上がってきたんス。
少し補足すると、この「イムノ」が作られたのは、フランコによる軍事独裁政権下の時期。バルセロナは独自言語を持つカタルーニャの州都で、当時の圧政の中、カタルーニャ語の使用が禁止されたり、様々な迫害を受けていた時期。(中国化が進む香港のよーな)カタルーニャ人のシンボルが「FCバルセロナ」であり、フランコ政権の支持を受けていた首都のチーム「レアル・マドリード」は敵のシンボル。
実際、独立運動下(認められてないけど、2017には共和国として独立を宣言)にあるチームの戦いは、球際も厳しくて、バチバチな、もう違う競技。僕が観た試合は、勝利に終わり一晩飲み明かした夜は、祝祭でカーニバル。僕は一夜にして、バルセロナのファンになり、そして当時のバルセロナは、胸にスポンサーのロゴが入ってない唯一のチームで、ソシオ(会員)の会費によってチームが支えられてる事を知って、感銘を受けます。そして、あの日以来高い会費(いやマジで…)を払い続けるソシオになるんスね。
そして、世界を旅するたびに、その土地のサッカースタジアムに足を運ぶよーになると、その国や、街によって、サッカーへの向き合い方の違いが見えて、それが、チームのスタイルや哲学に繋がってることが分かってきます。サッカー見るのが好きとかじゃなくて、サッカー=街のカルチャーでアイデンティティなんス。んで、各地のサッカースタジアムに足を運ぶ中で、一つの強烈な体験をすることになります。それが、アルゼンチンのブエノスで観た「ボカ・ジュニアーズ」vs「リバー・プレート」のスーペルクラシコ。
もともと下町貧民街のサポーターが多い、あのマラドーナを産んだ「ボカ」と、中流以上のサポーターが多い「リーベル」。同じブエノスアイレスのクラスの問題を含んだ、この2チームのサポはライバルとゆーか敵対関係。アルゼンチンのサッカーファンの41%がボカを、32%がリーベルを応援しているとされる国民的関心事のナショナルダービー。南米を旅行している時に、試合のタイミングを知って、この先3ヶ月旅行を続けられるほどの資金をぶち込んで、何とか試合会場に潜り込んだわけです。
試合の開始前から、圧倒的なホームの「ボカ」のサポーターはモッシュ状態。手持ちの花火や、発煙筒はバンバン上がるし、スタジアムの彼方此方で火災が。火を消すためなのか、頭を冷やさせるためなのか、放水が降り注ぐ中より上がるサポーター達。そんな暴動の中で行われた試合は、サッカーなんやけど、格闘技で戦争。脚を折りに行くよーな深いタックル、限界を超えて走り続ける選手達。このプレッシャーの中でプレーする選手達は、ハートが強く闘える選手に育っていくし、勝つためにはダーティーなプレーも厭わないアルゼンチンのプレースタイルは、このサポーター達が作り上げたんだなと。
有り金をぶち込んだおかげで、その旅は終了することになったけど。この夜の経験は一生忘れることが出来ないし、アルゼンチンのサッカーに対する熱狂を肌で感じることができた、南米の旅のクライマックスに相応しい出来事。よりサッカーを好きになったし、アルゼンチンのサッカーはエモくて大ファンになった。このスポーツを超えた熱狂を、本当に機会があれば、体感してほしいなぁ。
→リオネル・メッシ 2004-2007年特徴解説
■人間になったメッシ
FCバルセロナのソシオになり、アルゼンチンでスーペルクラシコを見たそんな時期に、大好きなFcバルセロナに1人の神童「メッシ」が現れます。彼の一瞬で時速34kmに入れる初速の速さ、細かく拍を取るようなタッチのドリブルは、僕たちファンの心を一瞬で鷲掴みに。2007年の初クラシコで若干19歳の彼がハットトリックをして、敗色濃厚の試合を追いつく活躍を見せると「神の子」に。そして、彼はサッカー界のトップに上り詰めることになります。
→【バルセロナ史上最高のキャプテン】カルレス・プジョル
僕も、そんなメッシの姿を見続けてた訳ですが。実は、一番のファンだったのはメッシではなくて、その当時のキャプテンであり、足元もあまり上手くないDFのプジョル。チームのハートだったプジョルと比べると、メッシは、スーパースターすぎて。そして、彼の真面目で控えめな性格もあって、どこかクールにプレーしてるよーに見えたとゆーか、サッカーサイボーグ的な完璧さとゆーか。なんか、下手やけど、ハートが全面に出る選手を推したがる、ファン心理ってのかなぁ。知らんけど。
そして、個人レベルでは全てのタイトルを手にしたメッシも、唯一届かないタイトルだったのがW杯。メッシ全盛期の2010年、2014年、2018年のアルゼンチン代表は、メッシに依存するよーなチームで、メッシはアルゼンチン代表では輝けないと、アルゼンチン国内からも批判を浴びる事になる。アルゼンチンのサポーターは、前述したよーに過激やし。
そんな状況下で、35歳になったメッシが迎えた5度目のW杯。もちろん今でもスーパースターやけど、全盛期を見続けた者からすると、もう2,3割しか力が出ない衰えた彼。1ダッシュで2,3人は簡単にぶち抜けたスピードはなく、必死の形相でボールを追いかけ、審判にも執拗に抗議をする姿。それは、神の子から、神になった姿ではなくて、人に戻って必死に戦う姿に見えました。
そして、人間味があふれてた今大会の彼の周りには、前回のW杯の敗退後、代表の中でも孤立しモチベーションを失ったメッシに話しかけ、モチベーションを取り戻すきっかけになったデパウルや、パレデス。メッシが子供の頃のアイドルだったエンソ・フェルナンデスなどのいいグループが出来、所属チームではエースクラスのそれらの選手達が、メッシのボディーガードのように、親衛隊のように、運動量の落ちたメッシを助けるべく何倍も走り、泥臭いプレーをする姿。見てて泣けそーになったなぁ。
そして、たどり着いた決勝戦。相手のフランスも怪我人が続出して厳しい状態。そんな中でも、アルゼンチン、フランスの両チームの戦いは、サッカーの魅力が全て詰まった凄まじい試合に。なんか、スラムダンクの山王戦のよーな漫画みたいな死闘。アルゼンチンの3点目のメッシの泥臭いゴールは、神様からのプレゼントやし、更に追いつくフランスの次世代スーパースター、エムバペもヤバイ。最高のエンターテイメントを見せてくれました。
最後に、今回のW杯の日本の奮戦は素晴らしかったっス。まさか僕が生きているうちにドイツ、スペインというW杯優勝国に勝てる瞬間が来るとは。震えました。僕が中学でサッカーをしていた時の日本代表は、アジアの中でも負けるチームやったし、本当に強くなった。でも、ここからの階段は本当に厳しいし、W杯のベスト8からは戦争なんやなとも感じました。
チームが守備的に、いや攻撃的になんて議論もあるけど、そんな戦術的なものじゃなくて、もっとDNA的なものが重要なんやろなと。勝ち上がった国を見てみると、それぞれの国のカルチャーやアイデンテティティが、自然にプレースタイルに現れてて、日本という国のサッカーカルチャーは、まだまだ発展途上なんやなと。近い将来、代表選手たちが今よりももっとセルフィッシュに、どんどん上を目指し世界に飛び出して、自分のスタイルが確立して、そのぶつかり合いの中から生まれた共通点が、日本のスタイルになるのかなと思います。
なんか、サッカーブログみたいになっちゃいましたが、今回はこのあたりで。
ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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