カレー屋店主の辛い呟き Vol.62 「OTHER MUSIC」

もう、昨年末の話になるんスけど。見たかった映画を、やっと観ることができました。その映画とは「OTHER MUSIC」というNYのレコード屋のドキュメンタリー。僕の住む大阪でも、上映のタイミングはあったのですが、先の上映予定に「京都みなみ会館」の文字が。朝から京都に行って、レコード屋を巡って、京都の町中華でも食べてから、映画を観る。そんな素敵な計画を思いつき、2ヶ月ほど経った去年の年末に、計画を実行してきました。

余談スけど。僕は映画に限らず、ライブでも、本でも。観たり、聴いたり、読んだりする場所は、作品によって変えたい人間で。この日の京都みなみ会館には、僕と同じように、レコード店周りをした後の若者が沢山。そんな観客の熱を感じながら、この作品を観た体験は素晴らしくて、レコ屋巡りも含めて、楽しい一日になりました。

さてさて、皆様こんにちは! 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。今月このコラムを読んでいただき、ありがとうございます。今回は、この「OTHER MUSIC」とお店にまつわるお話。僕も、今まで数軒のお店と、今現在もカレー酒場を営む身。この映画を観て、改めて感じたことも多かったんスね。

■「OTHER MUSIC」って?

映画『アザー・ミュージック』予告編

この映画「アザー・ミュージックは1996年から2016年まで、NYのグリニッチヴィレッジと、ロウワーイーストのつなぎ目。タワーレコードの横にあったレコードショップの、閉店までの日々を追ったドキュメンタリー。映画の宣伝通り書くと、「若き日のヴァンパイア・ウィークエンドが通い、ルー・リード、オノ・ヨーコに愛され、地元ニューヨークを始め世界中の音楽をリスナーに届け、多くの音楽ファンに愛された伝説のレコードショップ」の、その波瀾万丈な 21 年間に密着した音楽&仕事ドキュメンタリーの傑作ってコトなんスけど。

うーん…笑 別に間違いじゃないし、宣伝やから仕方ないけど。伝説の?ルー・リードが?オノ・ヨーコが?って書かれるとなんか違う気が…。僕がNYに行ったり、滞在したりしてた2010年以前、僕もお店にはよく行ったし、仲の良いスタッフさんも何人かいて、なんてーか、もっと普通の日常というか、当たり前のというか。上手く言えないけど、伝説とかじゃなくて、普通のいいレコード屋さん。

その時期、僕はクラブミュージックに、頭の先まで浸かってて。マンハッタンならeightballやthrobに行ってハウスの新譜を買って、中古レコードならブルックリンの倉庫に。OTHERMUSICは、メインで行くレコード屋じゃなかったけど、タワーの横っていう絶妙の立地のせいもあって、毎日のよーに覗いてた気もするなぁ。当時NYでは、ジャンル毎に分かれてたレコード屋さんが多い中、広いジャンルのインディーズの新譜に混じって、スタッフオススメの昔のレコードも並んでて、そこがNYでは新しかった。逆に、日本のがそういうレコード屋ができるのは、早かった気もするけど。いずれにせよ、インディーズや、マイナーなアーティストのタワーレコードみたいなラインナップでした。

店頭のスタッフも沢山いて、「こんな感じのレコードある?」ってニューアンスを伝えると、嬉々とした表情でキュレーションしてくれる、ミュージックラバーなスタッフばかり。「朝起きて、寝ぼけ眼でコーヒー飲む時何聴く?」ってな質問をすると、「そらシャルロット・ゲーンズブールやろ?」と意外なモノを薦められたり、「それは休日の朝やろ?」と返して、「今から仕事行く時の朝やったら?」と付け加えると、他のスタッフが話に入ってきて「ほな、これやろ!」と違う作品を勧めてくる。スタッフ一人一人が個性的で、このレコードを聴いてほしいというレコード愛に溢れてたショップ。それこそが、このお店が愛されてた最大の理由。ある種、大喜利のよーな話をしても、喜んで乗っかってくれる信頼関係があったんです。

映画でも、各スタッフのインタビューを通じて、そんなスタッフそれぞれのバックグラウンドが、より明らかになって、お店をハブにした、お客さんとの関係性が垣間見れたり、お店の歴史を語るだけじゃなくて、スタッフ一人一人の群像劇として一本の映画に仕上がってるところが秀逸な作品でした。

でも、一つ言葉を付け加えると。このOTHER MUSICだけが特別やったわけじゃなくて、他のレコード屋でも同じよーなことが起こるんスよ。これ、レコード店に行かない人は覚えといて欲しいな。

インターネットが、今のように便利ではなかった時代にオープンした「OTHER MUSIC」。このお店に限らず、この当時の大手ではないレコード屋は(今もある意味そうやけど)、レコードを買いに行くというより、その場所に遊びに行くって、意味合いが強かったよーな気がします。その場所に行けば、馴染みの店員さんがいて、缶ビール片手に音楽談義や、ヨタ話。「昨日の〇〇のパーティーやばかったで」とか、「いついつ〇〇がやるらしいで」とか。そこに仲間も加わり「あいつ別れたらしいで」とか、「〇〇捕まった..。」とかね。笑

ネットの情報もなくて。パーティーのインフォは、店に置いてるフライヤーと、友達からの口コミ。僕がよく行ってたNYのハウス系のレコード屋で、レコードを探してると、「昨日〇〇におらんかった?」と話しながら、「両手を出して俺に着いてきて」と言われ店員さんの後をついていくと、棚からバンバンとレコードを出してきて、両手の位置から頭の上までレコードが積み上がると「これ昨日のDJが掛けてたヤツやで」と。試聴してるうちに、フライヤーを見繕いながら「このパーティー俺も行ってるから声掛けてや」って具合。そんな連鎖で、友達も増え、行動範囲も広がっていくんです。「人種や考え方やなくて、同じパーティーに行って、同じタイミングで手の上がる奴は、信用したほーがええで」ってのは、そのショップの店長の名言。僕は今でも、その言葉を大切にしてます。

Mogwai “A Place For Parks” Live At Other Music 10/20/97

St Vincent — Live at Other Music

きっと、そんな感じの日常を送ってたであろう、OTHERMUSICでも色々なイベントが行われてました。その中でも、友人が店でライブさせてくれって話から始まった、数々のインストアのライブ。このドキュメンタリーの中でも、紹介されてた後のBIGバンド達の貴重な姿。でも、そんなバンドばかりじゃなくて、店で当日フライヤーを渡されて観てみたけど「何それっ!て」バンドも沢山。これ、タワーとかで行われてた、プロモーションの為のインストアライブとは少し違って。店の店員と友人だったり、常連のお客さんのバンドやったり、店員やったり。店との関係性がある面々がライブしてたコトが多かった気がします。インストアできるコンセプトで、店作ったんじゃなくて、話盛り上がったからDIYで無理くりやってる。それが上に貼り付けたモグアイやったり、セイント・ヴィンセントやったりするトコが、NYやし、OTHER MUSICたる所以なんでしょけどね。

これも余談ですが。僕もNYのハウスミュージック店で、店内DJをさせてもらったことがあります。バナナの叩き売りの如く、いい新譜を中心にDJ をすると、そのレコードが売れるんス。だから、ショップの店員達はみんな凄腕のDJさん達やったし、後にプロのDJさんとして活躍する人も沢山。ああ、日本でもそうでしたね。

■今のお店に活かせること

このドキュメンタリーは、世の中の流れの中で、店が閉店してしまうまでのストーリーなんスけど。僕自身も、今まで何店舗か閉店に追い込まれた事があります。なので、映画を観ながら涙目で、そんなお店との別れを思い出してました。世の中の流れに合わせて、店を変質させて生き残りを図るのか、それとも、役目が終わったと、違うチャレンジをするのか。これ個人店の永遠の課題なんです。

でも、大事なのは。モノを売るのではなくて、体験を売るってことなんやろな。この映画を観て、改めて確信しました。昨今、いろんなSNSでのマーケティングなんかを通じて、売上を上げることが成功とされる時代。僕の潰れたお店達も、結果売上が足らなくて(他の理由もあるけどね笑)失敗でしたってコトになると思うんスけど。時々、昔やってたライブハウス&クラブの名前を出してくれて、「あの店で、パーティーの楽しさ知りました!」なんて話を聞くと、ほんと救われたよーな気持ちになるし。バーカウンターでヘラヘラしてるけど、実は涙が出るの、堪えてるんだぜ 笑

OTHER MUSICが愛されたのは、「音楽は他人とも繋がれるし、自分とも繋がれる」って事を体現したよーな、店のスタッフと、お客さんに合わせた彼らのキュレーション、インストアのライブなんかを通じた、音楽に対する体験。そして、音楽を通じて、店を通じてできた仲間や、その仲間と過ごした時間。

結局、モノを買った事じゃなくて、モノを買う時に起こった事が重要なんだよな。考えてみると、「OTHER MUSIC」って店名、ホントいろんな意味で秀逸。

映画を観て家に帰り。店がある頃に買って、10年以上愛用して「OTHER MUSIC」ロゴが薄くなったトートバックを眺め、当時の事を思い出しながらエモくなり。そして今回映画館で買った、昔と同じ新品のトートに入るレコードは、僕に、聴いてくれた人達に、どんな経験を与えてくれるのか楽しみっス。

今、僕もいろんなことを経験した結果、大阪の上本町という街で店を開いて、来年で10年目。カレーを売る、酒を売るだけじゃなくて、店での体験を売るってことを、改めて意識できた素晴らしい作品。お店やってる人には観てほしい作品やし、あなただけのOTHERを見つけて欲しいな。

今回は、このあたりで。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
〒543-0031 大阪府大阪市天王寺区石ケ辻町3−13
ホイミカレー:毎週火木金12:00-売り切れ次第終了 アイカナバル:月—土18:00-23:00