カレー屋店主の辛い呟き Vol.65「QUEST LOVEという男」
- 2023.05.02
- OSAKA
皆様こんにちは! 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。今月もこのコラムを読んでいただき感謝です。最近、THE ROOTSのドラマーQuestloveが書いた、「MUSIC IS HISTORY」という分厚い本を、繰り返し読んでまして。それは、大変オモロく。興味深く。そして少々難解でもあるんスけど。彼の持つ哲学や、ユーモア、そしてグルーヴが沢山詰まった、彼そのものの1冊なんス。今回は、この本の紹介と、ミュージシャン、プロデューサー、映画監督、作家などなど、色々な顔を持つ、僕も大好きなQuestloveのキャリアを紹介しながら、いろんな音源etcを、シェアできりゃイイなと。それでは。
■「MUSIC IS HISTORY」
この「MUSIC IS HISTORY」は、ネットの説明を引用すると、“1971年から現在まで、彼の自分史とアメリカ現代史とを重ねながら、音楽を語った画期的な一冊で、音楽が様々な社会事象と結びつき、どのように変化し、広まったかを独自の文体で徹底解説している。人種やジェンダー、政治や事件、世相とからめながら、それぞれの曲が持つ文化的な意義を歴史的な文脈の中で解き明かす。”といった内容の本。
と、これだけ読むと難しそうな本やけど、DJとしても、とんでもない数のレコード・コレクションを持つ彼らしく、この本に登場する曲は500曲ほどあって、インデックスだけで50ページ。詳しく取り上げられるのはその一部なんスけど、単純にこの本を読んで、出会えた曲も多くて。とりあえず、ミュージックガイドとしてもオモロイ。例えば、一番はじめに紹介されるのが、トニー・ウィリアムズ&ライフタイムの「ゼア・カムズ・ア・タイム」。
てか、この曲バリやばくないスか?僕は知らなかったけど、トニー・ウィリアムズは、天才ドラマーとして1970年代のジャズ界を中心にした新しい音楽をクリエイトしてきた人。1963年からマイルズ・デイビスのチームに入り、60年代後半のマイルズの作品に欠かすことのできない存在の方。この人を最初に取り上げるのは、ドラマーの彼らしいし、僕みたく、彼の存在を知らなかったヤツからすると、新たに学んだ「ミュージックイズヒストリー」。
ジャズやロックやディスコ。とにかく幅広いジャンルをカバーしながら、ザ・ルーツやヒップホップ界隈の出来事は勿論のこと、ジェームス・ブラウン、デューク・エリントン、スティーヴィー・ワンダー、カーティス・メイフィールド、マイケル・ジャクソン、プリンスなど、誰でも知ってるアーティストも含めて語られる、一般に語られるアメリカ現代史とは異なる、彼のアメリカ史。
ヒップホップカルチャーって、サンプリングという手法を通じて過去のモノを掘り起こし、学んで、新しいモノに昇華するっていう、僕も大好きな大きな特徴があるんスけど、この本を読むとクエストラヴは、それを体現する存在なんやなぁと改めて感じるし、彼の多彩な活動の裏付けになる一冊。ぜひ、MUSIC LOVERSな皆さんは、読んで欲しいなぁと思うわけです。
■「Questloveという男」
僕がQuestloveを知ったのは、THE ROOTSの1994年にリリースした名盤「Do You Want More?!!!??!」を聴いた時でしょか? 高校の同級生で、そして、偉大なラッパーのひとりでもあり、同時に最も過小評価されているラッパーとも呼ばれるブラック・ソートと、演奏の核を担うドラマー、クエストラブを中心にした、大人数の「ライブ・バンド編成」のヒップホップ・グループ。当時そんなフォーマットのグループは珍しくて。んで、彼らの音は、すごく陳腐な表現をするとジャズと、ヒップホップの融合。生楽器に徹底的にこだわった、ジャズベースのサウンドに、生粋の東海岸仕立てのライミングが乗った、唯一無二の音なんス。即興的なジャムセッションのグルーヴが、ぎっしりと詰め込まれてて、当時、夢中で繰り返し聴いたんだよなぁ。
そして、1996年にリリースした「Illadelph Halflife」では、生音のドラムはHIPHOPではないとか、テンポが変わりすぎてミックスできないというDJからの批判や、指摘を受け、人力でブレイクビーツを鳴らしているのに、あたかもサンプリングしているかのように聞こえるプロダクションへと変化。今考えると、アホな話やけど、その分リリックは尖っていって「What They Do」では、業界は資本主義の追求のために、ヒップホップの精神を忘れていると指摘したり、次の1999年リリースの「Things Fall Apart」ではオープニングに、映画『モ’・ベター・ブルース』の主人公が「黒人だけが俺たちの音楽を理解してくれない」と憤るシーンを引用したり、彼らのリリックはどんどんメッセージ性を増すことになるんス。
その後、彼らは全11枚のオリジナル・アルバムを発表することになるんスけど、そんなザ・ルーツでの音楽活動に加え、クエストラヴは、単独プロデューサーやドラマーの立場としても、数多くの外部アーティストの作品に参加するコトになるんス。中でもソウル〜ヒップホップ界に強烈な印象を残したのは、90年代後半〜00年代前半ごろ、クエストラヴがコモンやJ・ディラらと共同で主導した音楽集団「ソウルクエリアンズ」関連の作品。この人達が絡んだ作品まじヤバイんスよ。
ディアンジェロの「Voodoo」、コモンの「Like Water for Chocolat」、エリカ・バドゥの「Mama’s Gun」etc、書き出すとキリがないくらい、当時のネオ・ソウル〜オルタナティブ・ヒップホップ界を代表する名盤ばかりで、この時期の「ソウルクエリアンズ」関連の作品ってほんと神がかかってる。
そして、この時期の「ソウルクエリアンズ」関連作品に共通してよく使われてる、後の全ての音楽に大きな影響を与えるビートの大発明なんス。J・ディラのMPCによって生み出された、よれたこのビート。このビートの誕生と、その流行にクエストラヴの果たした役割は大きかったし、生音の演奏にこだわるドラマーと、サンプリングを中心とする、ビートメイカーのJ・ディラが、グルーヴを追求した結果このビートが生まれたって考えると、オモロいし、結局グルーヴやねんなぁと。そのあたりKan Sano氏が解説する動画があったので、ご参考に。
https://www.youtube.com/watch?v=cb9AlY5kDjc
Kan Sanoが実演解説!ディアンジェロがもたらした“新しいリズムの革命”とは?
そして、クエストラヴは映画監督としても素晴らしい作品を残してて、結果としてグラミー賞とアカデミー賞を同時受賞することになるんスけど。その映画が1969年の夏6回に渡ってニューヨークのハーレムで開催された「ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァル」の模様を中心に、関係者やアーティストの証言、当時参加していた客の話、当時のニュース映像などを交えて構成されたドキュメント映画「サマー・オブ・ソウル」。この映画もマジで見たほーがいいっスよ。
副題に“あるいは、革命がテレビ放映されなかった時”とつけられているように、アポロ11号による月面着陸が世界に衛星中継された、まさにその日に行われていたこのフェスの様子が、テレビ放映どころか、その後約50年にも渡りお蔵入りにされていたコトに対しての、皮肉と抵抗がこの副題には込められているんよね。
クエストラブは「(この映画を監督するのは)いままで手がけたなかで一番怖かったプロジェクト」と発言してたけど、彼が全体のフィルムから15%弱のハイライト・シーンを選んで、効果的につなぐことに成功したのは、THE ROOTSの活動や、プロデュース、DJとして新旧の音楽に精通している知識と、作家の活動や、インタビューなどから分かる彼の思慮深さと問題意識を全てを注ぎ込んだ結果。単にその日の熱狂を伝えるだけでなく、その熱狂が社会構造的に無視されてきた事実を、思い起こさせる作品になってるんス。
また、彼の最近の活動のトピックで言えば、2023年2月6日に開催されたグラミー賞授賞式で、ヒップホップ誕生50周年を記念するトリビュート・パフォーマンス“ヒップホップ50”を共同企画したコトでしょか。もはや、ヒップホップにとどまらず、ポップカルチャーを語る上でも最重要人物の一人と言える存在になったクエストラヴ。この機会に、もっと注目してほしいと思い、今回語ってみました。
では今回はこのあたりで。
ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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